SHADE AND DARKNESS
three
「exist for you」〜athrun to kira〜
(2)
突然小型遊覧船の中央スペース、屋根の中の休憩所へ押し込まれて、しりもちをついてしまう。
事態についていけず呆然としていると、アスランは徐にシルバーバングルを外して海へ放り投げてしまった。
「……………」
その表情は怒りに似ていたけれど、どこか辛そうで。
「………あの……………」
どうしたらいいのかわからず戸惑っていると、彼はすっと歩み寄り、膝を折った。
「…誰に失恋したって?」
「………え」
「誰に失恋したって聞いてるんだ!! キラ!!」
激しい叫びにびくっと体を震わせ、ハッとして瞳を見開く。
「友達がいるって言ってたんじゃなかったのか…? 本当は、そいつと離れたくなくて地球軍に入ったのか!?」
「……」
彼が何を言わんとしているかをやっと理解して、キラは苦々しく視線を床に落とした。
「…メビウス・ゼロ…『エンディミオンの鷹』か?」
「…」
「あの時もお前を助けに来たな。…それに、俺と違って大人だ」
「…」
「それともその友達って連中の中にいるのか」
「…」
答えない彼女に、苛立ち。
そして俯きこんだ彼女の肩が震えている事に気付く。
「……………誰に………だって……………!?」
「…」
「君以外誰がいるっていうんだよ!! 馬鹿!!!」
「っ…!」
キッと自分を睨むように振り返ったキラ。その瞳からは、涙が溢れていた。
「…アスラン以外に…誰がいるっていうんだよ…!!」
「……、俺は確かにお前を討つとは言ったけど」
「そういう事じゃないよ馬鹿!!」
馬鹿と連呼され、その勢いと涙にぐっと詰まってしまうアスラン。
「……ラクスが言ってた…アスランは、将来私と結婚する人だって」
「!」
はっ、と目を見開く。
「違う! それは、親が勝手に決めた事で、俺達は何も」
「勝手に決めたっていうんなら、どうしてそれを解消しようとしないんだよ」
「それは、この婚約には政治的なことも絡んでるからで…! キラだって知らないわけないだろう! 俺の父は国防委員長で、彼女の父は
現評議会議長なんだ。だから、俺がいやだと言っただけではどうにもならない!」
「………それじゃますます決定的なだけじゃないか…!!」
言葉がつまり、肩が上下に震える。声を殺して、しゃくりあげているのが…わかる。
膝を抱え込んで顔を埋めてしまった彼女に、アスランはどうすることもできない。
「…あんな約束っ………僕一人ずっと信じて…馬鹿、みたいだ…っ!!」
「キラ!! 俺は今でもお前が」
「言わないでよ!!!」
体を必死に縮ませて、でも放たれる叫びは悲痛で。
びくっとして言葉を飲み込んでしまう。
「……今…更…、聞きたくな……っ…!」
「……………………キ…ラ……………」
手を伸ばして。
でも、その肩を抱き締めることはできなかった。
…触れることすらも。
「………」
数分程しただろうか。
不意に、キラが小さく顔を上げた。
「…会わなければよかった…。君にも、ラクスにも」
えっ、と彼女を見る。
泣きはらした目は赤くなっているけれど、その表情は何故か穏やかで。
「ラクスのこと、嫌いになれたら楽だったのに…。…君とここで逢ったりしなければ…このまま、子供の頃の約束なんて置き去りにした
まま、戦い合えたのに」
「………キラ」
「…僕、ラクスのこと好きだよ」
とてもとても優しい声。
「君みたいな薄情者に、彼女は勿体無いよ」
「………」
言っていいのか、少し逡巡したけれど。
「…キラ…。来て、くれないか。俺達と一緒に」
「………」
「足付きの情報をよこせとは言わないから…だから! ……もうこれ以上、俺は…!!」
「……………それで二号さんにでもなれって言うの?」
「キラ!!」
「…絶対に、厭」
「………キラ………」
「僕は」
「………僕は、ザフトには行かない。プラントにも、行かない」
UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
修羅場、でございます。
船上二人きり押し倒し寸前。なのにムードが甘くならない…。