SHADE AND DARKNESS
three
「exist for you」〜athrun to kira〜
(3)
戻ってくる小型遊覧船を待ち構える三人。
「お帰りなさい!」
ニコルが声をかけ、接岸した小型船に歩み寄る。
「…」
「…」
だが、深刻そうな二人の表情に、え、と止まってしまう。
無言のままアスランが船から降りて、キラに手を差し伸べる。
だがキラはその手を取らずに一人で船を降りて、ふいっと彼を通りすぎた。
「…」
微妙な雰囲気に、イザークとディアッカも顔を見合わせてしまう。
「…あ、あの、…どうしたんですか?」
「……」
心配そうなニコルの声に答えることができず、アスランは気まずそうに視線を逸らした。
「……おい、泣いたのか?」
キラの目が腫れている事に気付き、イザークが声をかける。キラは困ったように苦笑して、ディアッカに歩み寄った。
「…すみません。僕、これで帰ります」
「え!? おいおい姫ちょっと待てよ」
「トリィは…その子は、一度電源を落として、もう一度入れたら、…ちゃんと元の持ち主のところに帰るから」
はっとアスランが顔を上げる。
「キ、キラさん?」
慌てて駆け寄るニコルに、アスランも続く。
「元の持ち主って…お前」
「今日は、本当にありがとうございました。楽しかったです。…この服、今日の記念に大事にします」
「おいっ、そんな一方的に決めるヤツがあるか! ちょっと待て!!」
肩に伸ばされたイザークの手を避けて、後ろへあとずさる。
「ごめんなさい」
「なんで謝………」
怒鳴ったイザークの声が、途切れる。
彼女は申し訳なさそうに微笑みながら、泣いていたから。
ディアッカとニコルもハッとして固まってしまう。
「…さよなら!」
泣きながら、満面の笑顔を作って。
くるりと踵を返し、キラは走り出した。
「な……、おいっ、何があった!!」
「どういう事だよ! …アスラン!!」
「何があったんですか」
問い詰める三人の声など、もうアスランには届いていない。
ただ、彼女の涙と、笑顔と、淋しげな呟きと、お前を討つと言い合った声と、ヘリオポリスで再会した時の驚愕の表情と、そして…
三年前の約束が。
溢れて。
「――――――――――キラ!!!」
迷わず走り出して。
驚いて振り返った彼女を、抱き締める。
後ろからキラと同じような目で見ている三人の視線が刺さったが、そんなものはもうどうでもよかった。
「…………や…めてよ、離して! 駄目だよ!」
「嫌だ!! もう…ここまで来て、お前をまた置いていくことなんかできるわけないだろう!!」
「駄目だってばっ、みんなに聞こえる…アスラン…!!」
尚も抗議の声を上げようとしたキラの唇を塞ぐ。
びくっ、と身を震わせたが、彼女はすぐに逃れようともがき出す。
その抵抗を、覆い被さるように強く抱き締めることで封じ込めて。
彼女が何も考えられなくなるくらいに、深いキスを与えて。
「………っ、ん……!!」
抵抗する力が、どんどん弱まってゆく。
離して、と訴える言葉を発することができない代わりに、僅かに身じろぎを繰り返すが、そんなものはアスランの腕だけで閉じ込めて
しまえる。
ぎゅっと左腕だけでキラを抱き留め、右手をポケットに入れる。
ケースを取り出して片手で開き、中身の布だけを取り出した。
放り出されたケースが地面に落ちるのも構わず、開放したキラの唇に、その布を押しつけた。
「は………っ、…!!」
口と鼻を覆うように押し付けられた布からあからさまな薬品の匂いがして、咄嗟に息を詰めようとするキラ。だが、激しいキスから
開放された直後ではそれも難しくて。
一瞬吸ってしまった薬品がすぐに効き始めて、頭をぼうっとさせる。
「…ア…スラ……、こ…なの、ひ…ど…………い………………」
涙を滲ませながら、必死に振り絞った言葉。
彼女が最後に見たのは、辛そうに一筋の涙を流すアスランの顔だった。
そのまま。
彼の腕の中で、意識を手放してしまう。
「ア…アスラン!!」
彼が布を落とし、キラがぐったりとアスランに体を預けたところで、やっとニコルが我に返る。
駆け寄るニコルに、やっとイザークとディアッカも硬直から開放されて続く。
「…最初からそのつもりだったんですか」
布を拾い、ケースに戻しながら尋ねる。
だがアスランは気を失ったキラを抱き締めたまま、答えようとしない。
「アスラン!! 何とか言え!」
ぐいっと肩を引くイザーク。
「っ……」
だが、彼の顔を涙がつたっている事に絶句してしまう。
いつも涼しい顔をして取り澄ましたアスラン・ザラが、涙でぐしゃぐしゃになっている。
「………まさか……知りあい…か?」
ディアッカの呟きに、彼は小さく頷いた。
「キラは俺達と同じコーディネイターだ」
「!?」
目を見開いてしまう三人。
「………月にいた頃の…幼馴染で…。別れる時に結婚の約束もした」
「っ」
更にぎょっとしてしまうディアッカとイザーク。
「…それがどうして、オーブに…モルゲンレーテに?」
事態を一番冷静に受け止めているニコルが、周囲の様子を探りながら尋ねる。
幸い、このあたりは遊覧船乗り場があるだけで、他に人の集まるような施設はないため、とっくに遊覧船の営業時間が終わった今では、
自分達以外に人気はない。
乗り場の受け付けも閉じられて、窓はブラインドで閉じられて、そこから見られている様子もない。
………モルゲンレーテの最重要部にいるコーディネイター。足付きの所在を探りに行った先で出会った、コーディネイター。そして、
足付きには宿敵ストライク。
ストライクといえば、自分達が散々辛酸を舐めさせられ、そしてアスランが命令違反をしてまで捕獲しかけた機体だ。
そこまでを整理して、はっとするイザーク。
「……………おい…まさか」
ナチュラル如きに敗北を喫するなど、と…ずっとずっと屈辱だったけれど。
まさか。
「……………キラは…ストライクのパイロットだ」
冷え切ったアスランの声に、誰も何も言えない。
ぎゅっとキラを抱き締めて、それからゆっくりと、瞳を開く。
そこにあったのは、怒り。
「キラはナチュラルに利用されていた…ナチュラル共に騙されて…ずっと戦わされて来たんだ…!!」
苦しみに満ちたアスランの言葉。
「…!」
「な…んだとぉっ…!?」
「…………っ、くそ!!」
三人の心にも、炎が宿った。
UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
「友達だなんていって騙されて…」と、この感覚のままなんです。ここのアスラン。
なので、こういう言い方になってしまって、それがイザーク達にそのまま鵜呑みにされてしまって。
という形であります。
…雲行き怪しいです。