++「SHADE AND DARKNESS」5++

SHADE AND DARKNESS

five
「悲愴」











 今の彼女には手が届かないと油断していたのだろう。恐らく主治医か看護婦のものと思われるノートパソコンが、ベッドから離れた テーブルに置かれていた。
 電源を入れて、立ち上げる。
 するとパスワードを要求してきたので、ごめんなさい、少しだけ貸して下さい、と呟き、痺れる指先を必死で制御してさっさと解除 してしまう。
 まず、日付を確認。
「え………っ、こんなに…!?」
 最後に覚えている日付から、もう一ヶ月近く過ぎている。
 …そんなに。
 そんなに経っているのなら、戦局も動いたに違いない。
 キラは夢中で、キーボードを叩いた。
 それこそ一心不乱に。


 メディアニュースを開いてみる。
「………」
 飛びこんで来た映像は、ラクスと微笑みあっているアスランの姿。
 アスランは式典用らしい少し豪華な赤い軍服。ラクスは品の良い水色のドレスを着ている。
 一瞬複雑な気分になったが、よく見ればこれは終戦祝典会場の生中継映像のようだ。
「終戦祝典…それじゃ」
 記事を読み進めて行く。

 戦争は、地球軍の降伏宣言により、ザフトが勝利して終結していた。



 彼女はより確実な情報を求めて、いつのまにかザフト指令部のメインコンピューターをハッキングしていた。

「…」

 無心に求めるのは、アークエンジェルの行方。
 そのクルー達の行方。



「……あった…!」
 そのデータ群を見つけて、迷わずオープン。

 そこにおさめられていたのは。





 『偶発的に乗り込む事になった民間人を保護することもせず、コーディネイターだという理由で本人の意志を無視して無理矢理MSに 乗せ戦場へ送り出し、友人関係にあったことを利用して彼女の感情を誘導・利用し、同朋との戦いを強要していた』

 …という理由により。
 軍事法定によって、クルー全員が銃殺刑を言い渡されたという、詳細な記録と。


 その執行の様子を克明に記録した、映像データ。











みんな、が。

例外なく、みんなが。


しんでいくようすが。

ころされていくようすが。



いっしゅんも

そらされることなく

そのれんずは

とらえていた



さいごの

さけびさえも

こときれるしゅんかんまで




そのあとの


ひきずられて


もの  のように


ふくろに


つめられて


はこばれていく


そんなようすまで



のがさず

こくめいに

おさめられていて
















 金属のハンマーで、頭をひたすら撃ち付けられるような衝撃を感じながら。
 それでもキラは、ウィンドウを閉じることも、接続を切ることも、電源を落とすこともできず、目をそらすこともできずにいた。

 …見開いて。
 瞬きもできない。


 信じられない。
 その残酷な光景。

 どうして。




 …みんなが裁かれたその軍事法廷で、決定的な重要証言を行ったのがアスランだという。

 利用されていたとされる、キラ・ヤマトを保護し、彼女を弁護してきたと。
 そんな風に記録されていた。
 ザラ隊が保護したのだと。
 中心的役割を担ったのがアスラン・ザラだと、その功績を特筆されていた。




 アスランが?

 みんなを死へ追いやった?

 みんなを、殺した?







 がんっ、とひときわ大きい衝撃を感じて。
 キラのこころは砕け散った。






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