SHADE AND DARKNESS
four
「空の声」
「…姫、まだ眠らせてんのかよ」
ザフトを勝利へ導き、戦争を終結させた勇者として、ザラ隊のメンバーはネビュラ勲章を授与される事となった。そして今、彼らは終戦
祝典会場へと向かう車の中。
但し、肝心の隊長は遅れて来るとのことだったが。
「いくらなんでも、こんなに長い間眠りっぱなしじゃ、キラさん、かえって弱ってしまいませんか?」
「オレが知るか! …結局ラクス・クラインとの婚約解消も宙に浮いたままだし…、くそッ!! 一体キラをどうするつもりだあいつは!」
「けど、難しいよなァ。ザラ新議長の息子でザフトを勝利に導いたザラ隊隊長と、クライン前議長の娘で平和の象徴たる歌姫との婚約、
破棄しちまうってのはさ」
「アスランが手を尽くしてるそうですけど、ザラ議長は激怒されてるそうですからね…」
「あの歌姫さんは?」
「当人同士では解消してもいいって話になってるそうです。でも…」
「政略結婚なんてそんなもんだろ。あのザラ議長のことだ、この祝典を二人の披露宴にするとか言い出しかねないぞ」
あっさりと言い捨てたイザークは、そうなったらキラを手に入れる気満々。
「……でも………」
「…あ? 何だよ」
「………いえ、何でもありません」
一瞬曇った表情を、いつもの穏やかな笑顔に戻し、顔を上げる。
そうだ、今更言っても仕方がない。
キラの意志を確認せずにことを進めて、本当に良かったのだろうか…などと、迷わせるようなことを口にしてはいけない。
その頃アスランは、キラの病室にいた。
キラは時々目を醒ますものの、簡単な主治医との問診を済ませると、また眠らされてしまう。
「…ねえ、アスラン…僕、いつまで寝たきりなの?」
「もう少しだけ辛抱して。もうあと少しだけだから」
「少し…?」
「そう。少し」
優しく微笑んで、いつものように口移しでカプセルを飲ませる。
最初は錠剤だった睡眠薬は、今はカプセルに変わっていた。…何がどう違う薬なのか、キラにはよくわからなかったのだが。
「おやすみ、キラ」
「うん…アスラン」
うっすらと微笑んで、…うとうとと瞼を閉じ。
穏やかな寝息をたてはじめたのを確認して、そっと額にキス。
それから、彼はネビュラ勲章授与式を兼ねた終戦祝典会場へ向かった。
ゆっくりと手を顔に持ってきて。
溶けかけたカプセルを、口から取り出す。
大丈夫。まだなかの薬は溶け出していない。
もう少しすれば、きっと頭がはっきりしてくる。
僕は、大事なことを置き去りにしているから。それを考えなくちゃいけないから。
だから、起きなくちゃ。
目を醒まさなくちゃ。
そういえば、ここはどこなんだろう。
病室だというのはわかるけれど、…ここにくるまでに、何回か違う病室を経由したような気がする。
よくは、わからないけど、なんとなくそんな気がする。
…病院…? あれ? ……どうして病院?
僕は別に病気じゃないし、怪我もしてない。
第一僕は、オーブのモルゲンレーテ本社に―――――――――。
弾かれたように、全ての思考がクリアになる。
そうだ。僕はモルゲンレーテにいた。
ザフトに追い詰められたアークエンジェルは、オーブ代表の娘だというカガリによって、オーブへと寄港することが出来た。
エリカ・シモンズ主任に協力して、ナチュラル用MS操縦OSの開発を手伝って、その後でストライクのデータをいじってて、そして
………。
トリィが飛び立って。
追った先に、アスランがいて。
ディアッカさん達に、呼び出されて。
最後に、彼に何か薬を嗅がされた。
「……………」
眠っている場合じゃない。
起きなくちゃ。
ここはどこなのか、あれからどのくらい時間が経っているのか、調べなくちゃ。
戦争がどうなったのか―――――アークエンジェルは、みんなは今どうしているのかを、調べなくちゃ。
いきなりアスランとラクスの祝賀会、とまで極端なことはなかったが。
しかし、二人の仲睦まじさを強調するイベントにしたがっているのであろう事は、容易に想像が付く。
何しろネビュラ勲章を授与するのがラクスの役目で、それから彼女とアスランは常にツーショットでいるよう計らわれているのだから。
「……しかも、ネットワーク中継までしてるというんですから、父にも困ったものです」
苛立たしげなアスランに、ラクスはクスクス微笑んだ。
「いけませんわアスラン。そんなしかめっつらでは、戦争が終わったと信じている皆様が疑問を抱かれます」
「しかし…!」
「キラがこの中継を見ている可能性は、ないのでしょう? ならば、お父様の望まれる姿を演じきって、油断させてみては?」
「え………」
ぎょっとしてしまうアスラン。
だがラクスは、にっこりと微笑んで見せた。
「押して駄目なら引いてみろと申しますでしょう? ねえ、ピンクちゃん?」
「テヤンデェイッ、ハロ、ゲンキ! ラ〜ク〜ス〜」
ぴょこんぴょこんとテーブルの上で飛び跳ねるピンク色のハロに、誤魔化されてしまいそうになったけれど。
「ああしたいこうしたいと叫ぶばかりでは通じません。失礼ですけれど、あなたも、あなたのお父様も、とても頑固な方ですもの。頑固者
同士が衝突するばかりでは、話は一向に進みませんわ」
「ラクス…」
「柔良く剛を制す、とも申しますでしょう? 相手によって戦略を変えるのも、戦いの基本かと存じますけれど…?」
「………」
なんだか。
…彼女は自分よりもよほど修羅場慣れしているような気がする…。
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はい、時間突然飛んでます。すみません。AA捕獲はすっ飛ばしてます(^^;)
いや、この話的にマリューさんたちがどう捕まったかのってとこはそう重要じゃないと判断したもので…時間、飛ばしました。どこぞの
ジェットコースタードラマのように。
…ってジェットコースタードラマって今もう死語?? うは、トシがバレ…ってんなもん今更か…。