++「SHADE AND DARKNESS」6−3++

SHADE AND DARKNESS

six
「風の意志」
(3)











「……さっきあまり聞かない症例だと言ったのは、彼女のなかにいる人格が、全員彼女の友人知人だという事だ」
「えっ?」
「マリュー・ラミアス、ムウ・ラ・フラガ、フレイ・アルスター、サイ・アーガイル。このあたりの名前は君達もわかるだろう」
「足付きの…クルー!?」
「そう、AAに乗船していたクルー達だ。少なくともブリッジにいたという士官達は全員確認した。彼女の友達と一緒にね」
「……ブリッジにいた士官…全員、ですか…」
「そう、全員だ」
 自分が懸念していたことが真実だったのでは、という苦味が広がるニコルに、セドリック医師はしっかりと頷く。
「大抵は切り離された記憶を所有する、全く新しい人格が生まれるものなんだが、友人知人の人格のみという症例は、少なくとも僕は 聞いたことがない。だから珍しいケースだと言ったんだよ。……主人格である『キラ』は精神崩壊を起こし、自らを分解させてその人格 達を作り上げた。今は『記憶のカタマリ』から、差し障りない幼年期の記憶を取り戻し、意識の底でほとんど眠った状態だそうだ。これも あまり聞かないケースだね。まず記憶が分割される事が殆どだから、こうやって一箇所に固められて、人格によってアクセスできる範囲が 限られているというのは」
「…あの、でも…この短時間で、よくそこまで彼女の状態を……」
「…。…現在彼女の体の支配権を握る最優位人格は、『三年前のアスラン』だ」
「!!」
 えっ、と全員の顔が見開かれる。
「現在AAクルーの人格以外に確認されているのは、両親と、彼だけだ。ここまでの詳しい情報をくれたのも彼だよ」
「…三年前の…俺…!?」
 なかば呆然と呟くアスラン。
 今ここにいる自分ではなく、三年前の…桜並木で別れた時の過去の自分が、今キラの体を支配しているというのか?
「彼は、幸せだった頃のキラの象徴だそうだ。…キラは少しずつ記憶を読み、取り戻しつつあるが、彼は三年前に君との別れが決まる前 よりも先へは進ませる気がないらしい」
「進ませる気…って」
「生まれた人格達は共通して、とにかく『キラ』を守ろうとしている。彼女を傷つけるものすべてから、彼女を包んで守り、彼女に与える 情報を捨取選択するために、彼女を表に出さず、交代で表層意識へ出てくる。もっとも今の『キラ』は、表に出る気はないようだがね。 …『三年前のアスラン』の言葉を全て鵜呑みにするならば」


 誰も予想しなかった事態に。
 全員、固まったまま、次の行動に出られない。



「…とにかく、今の状態の彼女に君達を会わせるのは、あまり良くないだろうね」
「っ!!」
 真っ先に反論しようとしたイザークを、キッと視線で押さえつけて。
「言っただろう。彼らは全員『キラ』を守る事を最優先として、その為に存在しているとさえ断言しているんだ。そんな彼らが、あれだけ の敵意でもって君達を、…特にアスラン、君を名指しで退けようとするのなら…、君達が『キラ』の封じた記憶を呼び起こす鍵になるのだ と、そう恐れている証拠だろう。…専門外だからという事もあるが、私はゆっくり癒されてゆこうとしている『キラ』を無理矢理呼び 起こすような事はするべきではないと考えている。そういう意味では『三年前のアスラン』と同意見だ」
「先生、それじゃキラさんは……」
 はっと顔を上げるニコルに頷き、セドリックは続けた。
「専門の施設へ移す。私が紹介状を書くよ」





BACKNEXT
RETURNRETURN TO SEED TOP


UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
 近頃停滞気味の「SHADE〜」ですが、キラの現状について先生からお知らせしてもらったところで、次章で大きな クライマックスを迎える…予定です。