++「SHADE AND DARKNESS」7−1++

SHADE AND DARKNESS

seven
「DISCORD」
(1)











 信じられない。
 信じたくない。

 キラは騙されていたんだ。
 友達だなんてうまいこといって乗せられて、利用されているだけだって気付かずに。
 それさえわかってくれれば、きっと。
 きっと自分のことも思い出す。
 自分に都合良く覚えているだけの『友達』や『仲間』を模した別人格など、消えてしまうに決まっている。
 そしてキラは帰って来る。自分の元へ。
 ……そうだ。そうに決まっている。


 想像もしなかった事態に混乱したアスランは、深夜、キラの病室に忍び込んだ。




 いかにセキュリティが強固とは言っても、その気になれば最前線の戦場における情報戦をクリアするだけの実力を持ったアスランに とっては、まだまだ甘いとしか言い様がない。他所よりマシだ、というだけで。

 彼はあっさりと、キラの個室に入りこんだ。



 セキュリティを解除した扉を開き、中へ入る。

「…」
 すやすやと眠るその寝顔は、まるっきり昔のキラそのものだ。
 忘れるわけがない。何度一緒に眠ったことか。
 彼女の寝顔を、何度間近で見たことか。

「…………キラ」
 話がしたい。
 わかってほしい。
 他でもないキラ自身に。
「キラ」
 言葉をかけながら小さく肩をゆすると、その表情が歪んだ。
「…う〜ん………」
 ふっとアスランの表情が緩む。
 そうだ、キラは起きるときもいつもこうして、起きたくない寝ていたいとばかりにぎゅっと目をつむるのだ。
「………だれぇ…?」
 幼い動作で目を擦りながら、ゆっくりとベッドの上に体を起こし、座りこむ。とろんとした顔も声も昔のままで、アスランは一瞬、鼓動 が高鳴ってしまう。
「…キラ」
「? ……お兄ちゃん、なんでボクの名前知ってるの…?」
 鼓動は痛みに変わる。
 …………幼い頃とまったく変わらぬ仕草、そして表情。

 そのはずだ。
 この『キラ』はほんとうに、そのころに戻ってしまっているのだから。

「……キラ…わからない…?」
「…?」
「俺だよ、アスランだよ」
 それでも彼女と視線を合わせ、懸命に語りかけてみる。
 するとキラはきょとんとして、すぐににこっと笑った。幼い子供特有の、なんの曇りもない笑顔で。
「あぁ〜、ホントだ! お兄ちゃん、アスランに似てる!」
「キ、キラ」
「でも、アスランはボクより五ヶ月年下なんだよ? お兄ちゃん、アスランのことも知ってるの?」
「…違う…違うよ、キラ。…思い出して」
「?」
「俺達はもう子供じゃない。…誤解を解きたいんだ」
「…お兄ちゃん、なに言ってるの?」
 キラの表情が怪訝に変わる。
「思い出して。俺達は幼年学校を卒業して、別れ別れになったんだ。俺は先にプラントに行く事になったから。そして…ヘリオポリスで… 再会して…」
「………」
 考え込むような、虚ろなような、何ともいえない表情になるキラ。

 だが不意に、かくん、と頭が小さく揺れて。

「…………セドリック先生から聞いたはずだろ?」
「っ…」
 はっとしてしまう。
 激変した表情。そしてその険しい顔つきは。

 間違いなく、自分と同じものだった。





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UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
 幼い心を晒す、記憶を失った少女。
 穢れ無い仕草の奥に潜むのは、愛しき日々への邂逅か、仲間と友を冥府へ突き落とした男への憎しみか、それとも。
 次回、『二人のアスラン』
 おのれの影、振り払え! ガンダム!!

 ………以上、マリュー少佐ボイスでどうぞ(笑)
 そんなわけで、次回は本物アスランVSキラin三年前アスランとなります。微妙。