++「SHADE AND DARKNESS」7−2++

SHADE AND DARKNESS

seven
「DISCORD」
(2)











「…初めまして、っていうのもおかしいね。俺にとっては、きみは未来の俺ってことになるんだから」
「…お前…は…」
「きみだよ。…正確には、『キラの記憶にある三年前までの』きみ、ってことになるんだろうけど。でも俺は『俺』を『アスラン・ザラ』 だと認識してるんだから、同じことだ」
「…」
 敵意を剥き出しにして、自分と同じように喋るキラを、アスランはなんともいえない気分で見ていた。
「けど俺は、お前が未来の自分だなんて認めない」
 ぎくっ、と顔を上げたアスランは、それはキラの顔に違いないのに、鏡を見ているような奇妙な気分に襲われる。
「俺は絶対に、キラを傷つけたりしない。お前とは違う。だからキラのことは俺にまかせて、お前はキラの前から消えるんだ」
 だが、冷然と言い放たれたその言葉に、思いきり殴られたような衝撃を覚えて。
 アスランの瞳に光りが戻った。
「…冗談じゃない。何のために俺がキラを連れて帰って来たと思うんだ。お前も俺だというんならわかるだろう! そもそもキラがあんな 艦に乗っていることがおかしい!」
 そう、正論だ。
 キラはコーディネイター。入軍するならザフトに入るのが当たり前で、地球軍に組することなどおかしい。暮らすのならプラントで 暮らすべきで、地球軍の機動兵器をこっそり建造するコロニーなどに暮らすべきではない。
 コーディネイターとナチュラルが戦っている構図の中で、コーディネイターであるキラがナチュラルに味方などするわけがない。
 友達がいるんだと叫んだ彼女。その声が苦しげだったことくらい気づいている。
 きっと騙されているんだ。彼女の力はそれだけ魅力だから。唯一ストライクをまともに操縦できる人材で利用価値があるから。だから 利用されているだけなんだ。
 だから、そんな中から俺が救い出したのに。

 なのに何故、キラが傷つく必要がある!?

 そんなアスランの思いを見透かしたように、『三年前のアスラン』は溜息をつきながら視線を少しずらした。
「…俺だって、まさかキラが地球軍に味方するなんて考えもしなかったさ。その点ではお前の気持ちも分かる」
 だったら、と畳みかけようとしたアスランを封じるように、キッと鋭い視線をぶつける。
「けど! そんなのは俺の、『お前』のただのエゴでしかない!!」
「なっ…」
「確かに俺にとってキラは、唯一の大切な人だ。…キラのためなら世界を敵に回したって構わない」
 ぐっ、と辛そうに顔を歪める『三年前のアスラン』。
 …何がどう辛いかなんて解りすぎるくらい解る。『彼』は過去の自分だ。

 キラのためなら世界を敵に回したって構わない。
 その決意は本物でも、ほんの子供である自分には、何をどうすることも出来なかった。
 プラント行きを撤回することも、キラを一緒に連れていく事もできなかった。
 決意と裏腹に何もできない非力な自分に、吐き気がするほど腹が立ったことを、今も鮮明に覚えている。

「……だけど、キラにとっては違う」
 はっ、と顔を上げるアスラン。
「キラだって俺のことは大切に想ってくれてる。だけど、キラは優しいから…。俺だけのために、他の全てを切り捨てて見捨てるなんて こと、できっこない。…ほんの少しキラの立場になって考えれば、すぐ解ることだろ?」
 『三年前のアスラン』も、辛そうな表情は消え、再び鋭い眼光でアスランを貫く。
「俺だって…キラ以外の全てを切り捨てることは出来なかったじゃないか。母さんの手を振り解いて月に残ることもできなかった」
「…、それは…」
「母さんの悲しむ顔を見たくなかった。俺を連れて帰らなかったことを父に糾弾されるんじゃないかって、そう考えたら…できなかった。 そうだろ?」
「……」
 …全くその通りだ。
 『彼』はキラが創り出した、『キラの記憶の中の、イメージの自分』のはずなのに、どうしてこんなに『本物』である自分の心を 持っているんだろう。
「…同じだよ。キラも」
「………けど……ナチュラルは…っ」
 声を絞り出す。
 そこに縋らなければ、もう自分のやったことを正当化できないような気がした。
「ナチュラルもコーディネイターも関係ない。友達は友達だ。…キラがコーディネイターだってトール達が知ったときどんなだったか、 お前は知らない」
「…」
「ひょっとしてストライクを偶然動かすまで隠してたとでも思ってたのか? …優しかったよ。みんな。月にいた頃の教室の風景と何も 変わらない。…ただそこに俺がいないだけで」
「…そんな………」
 それではまるで、自分がキラの……。


 …キラの大切なものを全て、無残に奪い去ったようではないか。





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UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
 「BRING〜」に続き、こちらのアスランも気が付きました。とんでもないことをしたことに。
 しかもこちらは、もうどうにもなりません。
 どうしたって取り返しのつかないことですから。

 ……しかし「アスランを責めているアスラン人格見た目キラ」って…自分で書いといてなんですが、微妙だなぁ…。