++「SHADE AND DARKNESS」7−3++

SHADE AND DARKNESS

seven
「DISCORD」
(3)











「……そんな大切な友達が…あんなふうに殺されていく光景を見せつけられて、キラがどんなに傷ついたかわかるか!?」
 つかつかと近寄り、ぐいっと胸倉を掴み上げる。
「俺と、…『お前』と敵対することになって、キラはずっと苦しんでた!! それなのに、そんな思いまでして守ってきたものを、よりに よってお前に奪われて!! お前は本当になにもわかっていない!!」
「っ……」
「傷ついて、打ちのめされて、みんなはまだ傍に居るんだって思いたくて、それで自分をバラバラに壊して『みんな』を創って!! そう でもしないとキラのこころは本当にあとかたもなく壊れてしまうところだったんだぞ!! それを思い出させたらどうなるか、 …言わなくても解るな!?」

 また、キラの心は壊れる。
 そして。



 きっと今度は何も残らない。





 気圧されて、何も言えずにいるアスランを、『三年前のアスラン』は軽く突き飛ばすようにして解放した。
「…帰ってくれ。『キラ』は必ず俺が、俺達が守る。そして『キラ』を守るためには、お前達は邪魔なんだ。ザフトの軍服を着たお前達… そして『キラ』から大切なものを奪って踏みにじったお前は」
「……………」
「これ以上『キラ』を苦しめるようなら、………」
「…殺す、か」
 きっと自分ならやりかねない。
 呆然としながらぼんやりとそう思い、ぽつりと言葉を返す。
 だが『彼』は、ちらりとこちらを見ると、複雑に視線を床へ落とした。
「…殺したりはしない。それは、出来ない」
 え、と顔を上げる。
「………キラは…ずっと『お前』のことを想い続けてた…。こころを壊してしまう瞬間まで、ずっと。壊れた後も…『俺』のことは覚えて いてくれた……」
 えっ、と小さくアスランの口が開く。
「…だから…『お前』を殺したら、またキラが哀しむ」

 床を睨んだ『彼』の表情は、キラの長い前髪に隠されて見えない。

「………………もういいだろう。帰れ。…帰ってくれ」








 冷や水を浴びせられて、そのまま放置されたような。
 風邪をひく一歩手前のような奇妙な浮遊感をともなって、アスランは病院を出た。


















 『三年前のアスラン』の言葉は、いちいち自分の本心を突く。
 そうだ。自分だって、ただキラを守りたかっただけだ。
 彼女を脅かすすべてのものから、彼女を遠ざけたかった。
 自分の傍にいてほしかった。
 守りたかった。
 守りたかった。
 …………ただ、それだけ。

 母の時のように、自分の手の届かないところで理不尽な死を突然つきつけられるようなことだけは、なんとしてもさせたくなかった。
 だからザフトに入った。
 いつかプラントに来るキラのために、キラが住むプラントを守るために。

 それだけだったはずなのに。

 …キラを守ったつもりだった。
 キラが地球軍に味方するなんて有り得ない。なら、何か原因があるはずで。
 友達がいるとどこか苦しげに叫んだ彼女。ならばその友達が原因に違いない。友達だなんて言いながら、人の良い彼女につけこんで 足付きを守らせているんだ。
 なら、その自称友達を引き離して、利用している地球軍を裁けば、彼女は自由になれると思っていた。

 ……だけど。
 一度、原点に立ち戻って考えてみれば、いちいちすべてが『三年前のアスラン』の言うとおりだという事に驚かされる。
 いくら彼女がお人よしだと言っても、自分を利用しようとする思惑に気付けないほど鈍いわけではない。そういう手合いに対しては、 やんわりとだがしっかり断って回避していた。
 無理を通そうとして力尽くで迫ってきた輩を、逆に黙らせることだってあった。
 …そういえば月にいた頃、キラ最強説なんて話が飛び交ったことがあったっけ。


 そんな彼女が。
 ただむざむざと利用されるだけの傀儡になど、なるはずがない。
 ましてや相手がナチュラルなら尚更、騙されるようなことはありえない。


「…………俺…は……………」

 一体、何を。







 ただキラに傍にいてほしかっただけなのに。

 隣で微笑んでいて欲しかった。ただ、それだけだったはずなのに。










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UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
 今回と前回の間、位置をずらしたほうがよかったかな…と更新作業しながら思ってました。
 余裕ができたら変更するかもしれません。
 …いつできるんだ、余裕。(自滅)