SHADE AND DARKNESS
eight
「Nephilim」
(1)
「…………………あれ………………」
けたたましく鳴るインターホン。
その音で、アスランはやっと我に返った。
自宅の、ソファに座っている。
いつの間に戻っていたのだろう。
……………全く覚えていない。病院から、どの道を辿って帰って来たのかも。
ここに座ったことさえ思い出せない。
服も昨日のままだ。
「…………………」
ぼんやりと、昨夜のことを思い出す。
ほんの一瞬だけ逢えた『キラ』の様子と、『三年前のアスラン』の言葉を。
それから、オーブで再会した後の、船での彼女の様子を。
だが、それを乱暴に遮る声が、玄関の向こうから響いてくる。
「アスラン!!! 貴様!! いるんだろう!!! 出て来い!!!」
がんがんとドアを殴る音と共に、イザークのヒステリックな声がアスランの思考のなかに飛び込んで来る。
「………」
不快に眉を寄せ、重い体を起こして起ち上がり、玄関へ。
シュン、とドアを開くと、一瞬面食らったイザークの後ろには、ニコルとディアッカの姿もある。
「…っ、アスラン!! 貴様ぁっ!!!」
突然開いたドアに驚き、だが次の刹那にはアスランの胸倉を掴みかかり、その勢いでアスランを押し倒す。
「イザーク!」
咎めるようなニコルの声が響くが、制止しようとする気配はない。ディアッカと共に玄関口に入って、扉を閉める。
「貴っ様ぁっ……!!! 『キラ』に…会って来ただろう!!」
「………? …何でお前が知ってるんだ……」
ぼんやりとしたアスランの声に、イザークはカッとなって拳を引く。
「イザーク!!」
そこは流石にニコルの手が伸びた。
「やめて下さい、乱暴なことは!」
厳しい表情のディアッカが見守る中、なんとかイザークをアスランから引き剥がし、落ち付かせようとする。
当のアスランは、相変わらずぼんやりとしたままで。
「っ…!!」
ぎりっと奥歯を噛み締めて、ニコルの腕を振り解く。再びアスランの胸倉を掴んで、今度は上体を引き起こした。
「貴様!! 昨日の話をどう聞いていやがった!! 『キラ』に一体何を言った!?」
「…………キラ?」
その名前にやっと反応し、ぴくりと視線を上げる。
「…ダメだこいつ」
ぼそっとディアッカが零す冷たい言葉。
「イザーク。とにかく行こうぜ。自分のせいでキラがどうなったのか、実際見せてやった方が早い。…ていうか、オレが早くキラんとこ
行きたいし」
ぽん、とイザークの肩に手を置くディアッカ。
「そうですよ。僕だって早くこの目で確かめたいんですから…ここでもめている時間が惜しいです」
「…………、チッ!!」
掴んだ胸倉を解放して立ち上がる。
まだぼんやりとそれを見上げていたアスランの目の前に、ニコルの手が差し出された。
「……………キラが……どうしたんだ…?」
「…。僕達もまだ、電話で話を聞いただけで…。とにかく、来て下さい」
少しずつ、頭が正常に回り出す。
あの後キラに何か変化があったらしい。そしてそれは、…彼らの態度からするに、良い方向への変化ではないのだろう。
「………」
黙ってニコルの手を取り、ゆっくりと立ち上がった。
僕が運転しますというニコルの提案を蹴って、ディアッカがさっさとタクシーを捕まえた。
全員が、比較的冷静に見えるニコルやディアッカも、実際には冷静と呼べるような状態ではないからだろう。…それをきちんと把握
できる分、ディアッカが一番冷静だったのかもしれないが、だからこそ自分もハンドルを取らなかった。
そして、再び病院に。
今度は昨夜とは違って、正面玄関から堂々と入って行く。キラの病室までまっすぐに進むと、病室の前にセドリック医師が立っていた。
そしてその隣には、ピンク色の妖精の姿も。
「…来たのか、君達」
厳しい表情で四人を迎えるセドリック。
「おはようございます」
その隣から顔を出したラクスは、いつもの「ザフトの歌姫」の微笑を浮かべている。
だがだからこそ、その真意が計れない。
「…」
「アスラン…、昨夜、『キラ』に会ったね」
鋭い声が、アスランを貫く。
「……はい」
ここへくる車中で、覚悟は決めた。
…自分の早計な行動の責任を取る覚悟と、それから、糾弾を受けとめる覚悟を。
「………。…その目で見てきなさい。キラが今、どんな状態か」
すっと病室の扉を手で進められる。
「……………」
すっと歩み出て、扉を開く。
イザーク達もアスランの後ろへきて、部屋へ視線を投げた。
UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
さて、何故ここにラクスがいるのでしょう。答はこの章の間に。
以前どこかのツブヤキで、この前の章がクライマックスと書いたような気がしますが、むしろこっちだったかな、という感じです。