AM放送受信環境の改善

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 タイトルがちょっと堅めですが、できるだけわかりやすく説明します。
 私は2004年から、AMラジオを主体にしています。住まいが鉄筋コンクリートの集合住宅なので、AM受信環境としては相当に悪いです。さまざま取り組んできた結果、現在では夜間の遠距離放送を含めて快適にAMが楽しめるまでになりました。
 この間の体験から、皆様のお役に立てそうな事柄を挙げていきます。

■ 鉄筋コンクリートだと、なぜAMが入らない?
 一言で言えば、「建物の鉄筋・鉄骨で、電波が大きく減衰しているから」 です。建物を鉄筋や鉄骨だけにすると、まるで 鳥かご のようです。
 電波は、「波長」 と呼ばれる長さを持ちます。電波には、波長よりも短い(狭い)金属の網目を通過するとき、大きく減衰する性質があります。AM放送の波長は、300メートルもあります。一方で建物の鉄筋・鉄骨は、数メートル間隔です。このことからAM放送波が、鉄筋・鉄骨で大きく減衰してしまうわけです。
 
 ちなみにAMと比べてFMが入りやすいのも、この波長の違いから来ています。FMの波長は4メートルほどですから、AMほどには減衰しないわけです。
 
 ここで私の自宅 (神奈川県 川崎市 麻生区) で、TECSUN PL-380 に表示される 電界強度 と S/N比 を表1に示しておきます。

1422kHz ラジオ日本 正午ころの受信状況
ラジオの場所電界強度 [dBμ]S/N比 [dB]
ベランダ5025
室内の窓際4221
窓から1mの室内305
窓から5mの室内210
表1 鉄筋コンクリートの建物で、ラジオの置き場所による 電界強度 と S/N比 の違い

 表中の S/N比 は、25dB 以上の数値は表示されません。ベランダの 25dB は、「25dB 以上」 とお考え下さい。

■ もう一つの大問題、人工雑音!
 人工雑音(人工ノイズ)は読んで字の如く、人工物が発生源の雑音 (電波) です。その主な発生源は、パソコンなどのデジタル機器、スイッチングタイプのACアダプタ、インバーター制御されたエアコンの室外機など、屋内配線に接続される機器です。近年、デジタル化や高効率化が進み、昔とは比べ物にならないほどの雑音を撒き散らしています。

 人工雑音の問題は、放送波と比較してかなり強い場合があることです。雑音の聴こえかたは、「ビュー」 のような可聴音を含むものや、「サー」 と聴こえる白色雑音のようなものまで様々です。いまや人工雑音は、木造家屋でも問題になるほどです。

 人工雑音の発生源は、自宅内にあるとは限りません。電灯線は屋外でご近所とつながっていますから、ご近所が発生源と言うこともあります。人工雑音のもう一つの問題として、発生源の特定が難しく、無くすことが難しいことがあります。

 人工雑音かどうか? は、次のようにすれば分かります。電波の少ない日中が良いのですが、ラジオをイヤホンで聴きます。放送の無い周波数で聴くと、わかりやすいと思います。室内からラジオを聴きながら、建物から離れてみてください。このとき雑音が減るようなら、室内の雑音が人工雑音です。
 
 ここで私の自宅で、TECSUN PL-380 に表示される人工雑音の 電界強度 と S/N比 を示しておきます。

1305kHz 放送局無し 正午ころの受信状況
ラジオの場所電界強度 [dBμ]S/N比 [dB]
ベランダ15 (ラジオの方向に無関係)0
室内17〜26 (ラジオの方向に依存)0
表2 ラジオの置き場所による 雑音レベル の変化

 表中の 電界強度 は、15dBμ 以下の数値は表示されません。ベランダの 15dBμ は、「15dBμ 以下」 とお考え下さい。
 室内のどこでもこの数値ではなく、おそらく屋内配線の近くだと悪くなるのだろうと思います。

■ 「ラジオを窓際に置く」 は、対策として有効か?
 従来より受信環境改善に、 「窓際に置く」 が言われます。強いローカル局なら、これも使えます。しかし人工雑音の強さによっては、窓際でも十分ではありません。
 私の例(神奈川県 川崎市 麻生区)で言えば、同じローカル局でも 文化放送 ・ ニッポン放送 ・ ラジオ日本 は、聴く気にならないくらいの人工雑音が交じることがあります。
 
 表1の数値を用いると、次のように言い得ます。「ベランダで 50dBμ が、窓際で 42dBμ になった」 ということで、差は 8dB です。これをアンテナに誘起する電圧で言えば、「窓際では、ベランダの 1/1.5 になった」 と言うことです。窓際から 1m の室内を同様に言えば、「ベランダの 1/10 になった」 と言うことです。たった 1m 室内に入るだけで、電波の強さが 1/10 です。
 次に表2をみると、室内では雑音が増加しています。正確な数値が分かりませんが、室内で 10dBμ くらい雑音波が強くなっていると思います。電圧換算で、「室内での雑音波は、ベランダの3倍強」 と言い得ます。
 これらから、窓際から 1m の室内で聴くのは、「放送波が 1/10 に弱くなって、雑音波が 3倍強 増えてる」 と言えます。きれいな音で AM ラジオを楽しむには、放送波(S)と雑音波(N)の比である 「S/N比」 を高めることが大切です。  

 他にもアンティークラジオは直射日光に当てたくないでしょうし、大きなコンポだと置き場所も限られてきます。「窓際」というだけでは、解決できなくなっていると思います。

■ 室内外部アンテナ は、有効か?
 ここで言う室内外部アンテナは、製品付属の小さなものから、市販品や自作される大きな同調型ループアンテナなどを含めます。
 残念ながら鉄筋コンクリートでは、あまり効果は期待できません。受信環境悪化の全体像から見て行きましょう。

 前出の通り全体像は、鉄筋・鉄骨で放送波が減衰し、そこに人工雑音が加わることで受信環境が悪化しています。
 ここで S/N比を考えれば、分母の雑音が大きいためにS/N比が小さくなってる状態です。受信環境改善とは、S/N比のSを大きくする、またはNを小さくすることです。

 ここでループアンテナによって、S/N比が改善できるかどうか? を考えればよいのです。結論としてループアンテナは、SもNも等しく大きくしますから、改善につながらないものです。「ラジオの音量を上げても、聴きやすくならない」 のと同じです。

■ 高感度ラジオ は、有効か?
 前出、室内外部アンテナと同じで、S/N比改善につながりませんから期待薄です。

■ では、どうするか?
 これまでをまとめると、「室内でいくらがんばっても、室内の S/N比 が変わらないから期待薄」 という結論です。ここで S/N比 を大きくするために、屋外に目を向けます。
 
 鉄筋コンクリート住宅では表1や2のとおり、ラジオをベランダなど屋外に持ち出せば、Sを大きく、Nを小さくできます。ラジオをイヤホンで聴きながら、室内から窓の外に腕を伸ばす程度にラジオを屋外に出してみてください。ハッキリわかるほど、改善できます。
 木造住宅でも屋外にラジオを持ち出すと、人工雑音源である屋内配線から遠ざかることで、Nを小さく出来ます。
 

 つまり受信環境改善は、屋外に 外部アンテナ を出せばよいのです。ちょうど、テレビアンテナを屋外に取り付ける感じです。

■ 屋外に設置出来るアンテナ
 屋外に設置できるAM放送用アンテナは、いくつかあります。

 専業メーカー製としてはビルなどの共聴用に、マスプロ電工 や 日本アンテナ のホイップ型アンテナがあります。すでに生産終了品ですが、家電品としてソニーの AN-12 もホイップ型アクティブアンテナでした。第一電波工業からは、広帯域受信専用アンテナとして販売されています。
 私は、このうち SONY AN-12 と 第一電波工業の D303 を持っています。これらアンテナはローカル放送であれば問題無いのですが、遠距離放送だとフェージングで途切れる時間が長く、聴く気になれません。また AN-12 は、室内などの雑音を拾います。これは、アンテナと室内をつなぐケーブルがアンテナの一部として機能しているからだと思います。例えば、ケーブルのルートを変えると雑音が変化します。D303 は、この点が改良されたモデルと考えてよいと思います。
 
 私は、アンテナの屋外設置を目的にした3商品を製作・販売いたしております。これら3商品のうち、 MLA 対応の共振型受信ブースターが最も高性能です。 アクティブアンテナUは、設置の容易性に優れます。 AM/FM/短波ラジオ用受信ブースターは同調操作が不要で、比較的電波の強い局を聴く用途に適します。

 

2015年4月19日
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