Commelina undulata(ヤハタタチツユクサ) の散布体の観察 |
* 北九州市に帰化している外来ツユクサ(ここを参照)は、ツユクサ分類の世界的権威 R.B.Faden博士(スミソニアン研究所)の見解ではCommelina undulata R.Brownが妥当と回答されましたので、それに従って学名を用いています。
1. ヤハタタチツユクサ(Commelina undulata) の苞の観察
C. undulata の苞には、長毛と短毛が生えています。 短毛は苞の全体を覆うようにびっしりと生えています。 (図.1・2)
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図1 Commelina undulata の苞 | 図2 苞にびっしり生える短毛 |
短毛を顕微鏡でみると、短毛の先はするどくフック状に曲がっているのがわかります。 (図3)
C. undulata は茎の上部にたくさんの苞をつけ、次々と花を咲かせて種子を作ります。 そして種子が熟すと苞は次々に枯れていきます。(図4)
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図3 フック状の短毛 | 図4 次々に枯れてゆく苞 |
枯れた苞はとても離れやすくなります。 これは苞の柄の付け根が離層のような仕組みになっているからです。(図5) 茎から離れた苞は、フック状の短毛によって通りかかった哺乳類や鳥などに付着したり、あるいは人間の衣服に付着して散布されます。 (図6)
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図5 離れやすい仕組み (離層?) | 図.6 服に付着する苞 ベルクローに似ている。 |
実際に私が枯れた苞の観察を終えて、自宅に帰った時、靴下に苞が1つくっついていました。 そのくっついた苞を開いてみると中には果実壁に包まれた種子が1個入っていました。
さらにこの苞は、風に飛ばされやすく、また水にも浮きますので、風散布や雨や流水などでも散布されるのでしょう。(図7・8)
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図7 地面に落ちた苞 | 図8 水に浮かべた苞、2日後も浮いている |
2. 苞の中に種子が入ったものがいくつあるか
C. undulata の枯れた苞は、しっかりと閉じているものが多くあります。 その枯れた苞を開くと、中に種子が入った状態が多く見られます。 (図9・10)
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図.9. .枯れてしっかり閉じた苞 | 図10. 開くと、中に種子が入っている |
この枯れた苞の中に種子を包んでいるものがいくつあるのか、ヤハタタチツユクサ(C. undulata)とホウライツユクサ(C. auriculata)の苞を調べてみたところ、C.
undulataでは62個の苞のうち46個に種子が入っていました。 これは、74.2%に相当します。 (表T)
調べた苞の数 | 空っぽの苞 | 種子を包んでいた苞 | |
C. undulata | 62 | 16 ( 25.8 % ) |
46 ( 74.2 % ) |
C. auriculata | 20 |
17 ( 85 % ) |
3 ( 15 % ) |
表T. 枯れた苞の中に種子が入っていた割合 (2009.10.18)
さらに種子を包んでいたヤハタタチツユクサ(C. undulata )の46個の苞を詳しく調べてみると、46個のうち45個(18+27)は包まれた種子(背面室の種子)が入っていました。 つまり包まれた種子は苞の中にとても残りやすいようです。 (表U)
種子を包んでいた苞 | 包まれた種子 | 包まれた種子 + フリーの種子 | フリーの種子 | |
C. undulata | 46 ( 74.2 % ) |
18 | 27 | 1 |
C. auriculata | 3 ( 15 % ) |
3 | 0 | 0 |
表U. 種子を包んでいた苞の中に残る種子 *包まれた種子( 背面室の種子)、フリーの種子( 裂開性の腹面室の種子でエライオソームをもっている)
一方、ホウライツユクサ(C. auriculata)の苞は20個のうち種子が入っていたものは3個(15%)でした。 種子は苞に残ることは少なくて、多くは苞からこぼれているようです。(表T・U)
3. ホウライツユクサの苞の観察
日本に自生するホウライツユクサ(Commelina auriculata)も、苞の毛の様子を同様に調べてみました。 苞にはフック状の短毛はほとんど無いか、とても短い毛がまばらに生えているだけです。 衣服にもあまりくっつきませんでした。 (図11)
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図11. ホウライツユクサ(Commelina auriculata) | ||
![]() 短毛はほとんど無いか、ごくわずか生えている |
![]() ごくまばらに生えているフック状の短毛 |
ホウライツユクサ(Commelina auriculata)の苞は、枯れた後も茎から離れずに着いていて、親個体の近くに種子を散布する方式だと考えられます。(図12)
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図12 苞は枯れた後も茎から離れずに着いている |
4. おわりに
外来種のヤハタタチツユクサ(Commelina undulata)は2つのタイプの種子を持っています。 ポロポロとこぼれるフリーの種子(裂開性の腹面室の種子)はエライオソーム(elaiosome)を持ちアリによって散布されます(ここを参照)。 もう一方の果実壁に包まれた種子(非裂開性の背面室の種子)は、一部はその場に落下しますが 多くの種子( 70-80%)は苞の中に残ったままです。
この苞はたいへん付着しやすいつくりになっています。 茎から離れた苞は、フック状の短毛によって通りがかった哺乳類や鳥類の毛あるいは羽毛、また人間の服やズボンに付着して散布されます。 また風や雨や流水などによっても散布もされてゆくのではないかとも考えられます。
このような種子の散布スタイルをもつツユクサの仲間は日本には自生しておらず、新しい情報でしたのでとても興味深く思われました。
(2009.11.10)
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