FAO集会 世界農民に土壌保全農業参加を呼びかけ 世界人口を持続的に養うため

農業情報研究所(WAPIC)

08.7.25

  7月24日、国連食糧農業機関(FAO)の会合に集まった36ヵ国からの100人ほどの代表者が、世界の農民に対して(土壌)保全農業(CA、Conservation Agriculture)の名で知られる農法による進行中の”グリーナー(Greener)”革命に参加するように呼びかけた。この農法は、土壌生態系をき築き上げ、可能なところではどこでも不要な土壌撹乱を減らすことで、世界を一層持続的に養うことを目指す。

 ”持続可能な作物栽培集約化と土壌の健康改善への投資”に関する3日間の会合を終える当たって採択された”行動のフレームワーク”で、代表者たちは、健全な土壌の構造の再建と土壌の生物的過程の促進が作物生産能力を高めると宣言した。

 Farmers urged to join “Greener” revolution,FAO News,7.24
 http://www.fao.org/newsroom/en/news/2008/1000900/index.html

 食料価格高騰が招いている現在の食料危機は、価格高騰自体が農民による食料増産を促すことで早晩解消する、増産のために必要な土地も十分にあり、単収も窒素肥料の投入でなお増え続けるといった楽観論がある(一例:川島博之 『世界の食料生産とバイオマスエネルギー―2050年の展望』 東京大学出版会 08年5月:参照:仏・欧穀物収量の10年来の低迷の原因は土壌有機物欠乏?―フランスの研究,08.6.30)。だが、こんな楽観論は、(農地拡張がもたらす)森林破壊や気候変動が促す自然災害の頻発と激化、世界中で進む土壌の劣化を無視することによってのみ成り立つ。

 既に世界の耕作地の20%、森林の30%、草地の10%で土地の劣化(生態系の機能や生産性の低下)が進んでいることは最近の研究が明らかにしたばかりだ(世界の土地の24%、日本の土地の35%が劣化 FAO報告,08.7.3)。このままでは、農地拡張、肥料増投で2050年には90億に増える世界の人口を養うなど、夢の夢だ。今なによりも必要なのは(とりわけ最悪の食料危機のなかにあるアフリカにおいては)、健全な土壌の再建である。

 この会合について伝えるFAOのニュースによると、会合参加者たちは、条件が許す何時でも、何処でも、最小の土地撹乱(耕)、土壌被覆の増大、適切な輪作に基づく土壌管理システムに迅速に移行することを要請した。また、援助供与者と政策立案者には、その農業開発計画でこのようなシステムを促進し、現在の食料危機を和らげるように要請した。

 30年前に導入されたCAは、現在では世界の1億fの土地で実行されている。耕はできるだけ抑えられ、既存のマルチ被覆を通して直播する。会合では、南米の大規模農場、アフリカの 小規模農民の圃場、温帯アジアの生産システムを含む多様な情況においてCAが報酬と利益を生み出していることが示された。

 頻繁な耕耘は土壌の有機物バランスを破壊して土壌劣化や長期に及ぶ生産性低下につながる。一つの大きな問題は劣化した土壌が固化、水が吸収されずに流れ去るようになることだ。流れ去る水は、表土も一緒に運び去る。畑は水ストレスへの耐性を失い、地下水位も下がるばかり、干ばつの影響を激しくする (オーストラリアの有機農業が干ばつによく耐えたのはその逆証かもしれない⇒干ばつ・洪水にもかかわらず、オーストラリア有機農業が急成長,08.7.22)。

 会合では、CAにより収量が増加する一方、肥料、農薬、エネルギーの投入が減ったという証拠も提出された。

 CAは万能薬ではないが、多くの農業システムと地域における持続可能な土地管理のために必要な要素であると確認された。CAの導入方法は、乾燥地などの困難な条件を持つ地域のために改善されねばならないという。テオドール・フリードリッヒFAO上級農業官は、慣れ親しんだ方法を変えるのは容易なことではないが、「これに失敗すると人々を養う世界の能力が危うくなる」と言う。