農業情報研究所


ロシア:下院、農地売買を承認

農業情報研究所(WAPIC)

02.7.16

 6月21日、下院が農地の私的性質を認める法案を採択、ロシアは、1917年の革命以来、初めて農地売買に向けて新たな一歩を踏み出した。最大の争点となっていた外国人の扱いについては、大統領の外国人に土地を販売する経済的必要性はないという裁断により、49年間の賃借権を与えることで決着した。

 法律の骨子は次の通りである。

 ・農地は「市場価格」またはオークションにより決定される価格で販売されねばならない。

 ・土地は農業用だけに使用されねばならない。

 ・単一の個人または会社が一つの州の土地の10%以上を所有することはできない。

 ・農業以外の目的で使用されるか、放置される場合には、その土地区画は裁判所により没収される。

 ・土地区画が個人により販売される場合、最初の購入権は州または地方自治体に属する。他の関係者が購入を望まない場合には、国家も購入権をもつ。

 ・州は販売の時期と手続及び土地区画の最小規模を決定する。

 ・市民権をもたない外国人及び50%以上の外国所有権のある企業は、農地を49年間まで賃借りできるだけである。ロシア企業が土地を買い、後に外国所有権を50%以上に増やす場合には、土地の貸し付け開始が義務づけられる。

 このような改革が、近年は復活してきたとはいえ、投資が欠乏してきたロシア農業食料部門に資本を引き付けることを狙ったものであることは言うまでもない。しかし、外国人に平等の権利を与えることは、農民所有の剥奪と土地の寡頭的支配層への集中を招くという改革自体に対する反対者の激しい抗議ばかりでなく、賛成派の中にも祖国を売るものという批判が高まった。その結果、外国人には賃借りだけを許すことになったのであるが、外国人側は投資のためには農地所有権が不可欠と主張してきた。但し、これにより、土地開発の安全保障が可能になると満足し、今後5年間に80の農場を設立する計画をもつ英国系企業も現れているという。 

 しかし、新法は、既に起きていたことの合法化を可能にしたものという見方もある。実際、公式には国有のロシア農地も、近年、使用権の承認という形で既に配分されてきた。この利益に与ってきたのが、コルフォーズやソフォーズの支配者であり、大規模な寡占産業グループと結合して事実上は巨大土地所有者に変身した地方(州)統治者である。今年、ロシアの穀物生産は国内需要を1000万トンほど上回り、穀物世界市場に復帰した。20世紀初頭、ロシアは世界の穀倉地帯であった。改革は、この過去を蘇らせるのであろうか。

 新法の最終的成立には、なお上院の承認と大統領の署名を経なければならない。ただ、このプロセスに大きな困難はなさそうである。しかし、実施までには土地台帳作成、地方により異なる地価の評価などの作業が残されている。

 参考
 Russian Lawmakers Grant Right to Sell Farmland,The Washington Post,6.27
 Russia's Duma permits private farmland sales,FT com,6.26
 Deputies Quietly Approve Farm Bill,TheMoscowTimes.com ,6.24
 Pour la première fois depuis 1917, la Russie va autoriser la vente de la terre,Le Monde Interactif,6.22
 La bataille de Boris Semionovitch, fermier indépendant,Le Monde Interactif,6.22
 Russian Vote Advances Plan for Farmland Sales,The Washington Post,6.22
 Russian House Supports Bill on Farm Sales ,The New York Times,6.22
 Farmland Reversal Puzzles the Experts,TheMoscowTimes.com ,6. 21
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