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CAP改革、EU11ヵ国がデカップリング拒否

農業情報研究所(WAPIC)

03.4.13

 4月8日、EU農相理事会は欧州委員会の共通農業政策(CAP)改革案に関する意見の「政治的交換」を行い、委員会案の「第一次審議」を終えたが、改革案を支持する閣僚は非常な少数で、フィシュラー委員の苦境が鮮明になってきた。とりわけ、”デカップリング”は、15ヵ国中11ヵ国が完全拒否、支持したのはイギリス、スウェーデン、デンマーク、オランダの4ヵ国にとどまったという(Fiscler in trouble,Irish Farmers Journal,4.12)。

 委員会提案のデカップリングは、耕種作物・牛肉と子牛肉・牛乳と酪農製品・羊と山羊・スターチ・ポテト・穀粒豆類・コメ・種子・乾草など、大部分の部門での直接支払を統合、2000年から2002年を基準期間とする基準額に基づく農場単位の単一の支払に置き換えることで、生産と補助金との関連を断ち切ろうとするものである(参照:EU共通農業政策改革案に関する欧州委員会メモランダム(その2),03.2.7)。これにより、WTO農業協定で「ブルー」と言われる国内助成の8割が削減されると予想されている。1996年米国農業法が不足払いなどの従来の生産関連助成を過去の一定期間の実績を基準とする固定支払に切り替えたのと類似のアプローチである。欧州委員会は、これによりEU農業が一層市場志向的になるとし、また米国は2002年農業法で逆方向に動いたとWTO農業交渉でEUの立場の正当性を訴える一つの根拠ともしてきた。この改革案の核心をなす部分が到底実現でそうもないことがはっきりしてきたわけである。

 欧州委員会によるデカップリングの影響評価(CAP改革の影響評価発表ー農業交渉の立場強化に必死の欧州委員会,03.3.27)は、それがより高い所得を農民に保証する一方で農業生産を集約度が低く・持続可能なものに導き、農民の土地放棄や生産停止にはつながらないとしてきた。3月末に発表されたイギリス環境・食料・農村問題省(DEAFRA)の評価も、デカップリングを核心とする改革案が多大な経済的利益とプラスの環境影響を生むと評価している(CAP reform: Farm reforms set to yield £500 million a year for Britain,3.31)。それにもかかわらず、デカップリングに反対する国々は、それがEUの生産の大きな後退につながり、各国が受け入れ難い重大な経済的・政治的・社会的帰結をもたらすと警戒している。例えば、4月8日に公表されたフランス上院経済委員会の報告(Réforme de la politique agricole commune (Rapport d'information, 08 avril 2003))は、デカップリングは、過去の実績基準の援助は、すべての生産者が援助への権利をもたないために、同一部門内の競争の歪曲をもたらすと批判する。野菜生産に転換したかつての穀物生産者は援助を受けられるのに、以前からの野菜生産者に援助はないというのである。また、各部門のための助成や割当などの特定手段や管理を欠くことになるから、生産は最も収益の高い地域に移動、環境に有害な集約化を助長し、条件不利地域は放置され、農業退潮が加速されるとも言う。さらに、生産の義務から切り離された援助は農業生産の全体的退潮と農業経営数の減少につながると恐れる。これら諸国は、欧州委員会の提案に代えて、「部分的デカップリング」を考えるべきだと主張する。

 8日の理事会で、ドイツの担当大臣・キュナーストは、家畜助成の50%は現行形態を維持し、他の50%は永年草地面積当たりの草地奨励金に転換する、耕種部門ではデカップルするという部分デカップリングを提案した。この数ヵ月、部分デカップリングのキャンペーンをしてきたフランスのゲマール農相もこれを受け入れ可能と見たようだ(前記Irish Farmers Journalの記事)。フランスは、既にこのような草地奨励金を農業環境計画の中核にしてきた(フランス:「草奨励金」に代えて「放牧奨励金」を導入へ,02.12.7)。しかし、部分的デカップリングの具体案は20種類もあるという。部分的デカップリング案を採択するにしても解決すべき困難な問題がある。フィシュラー委員は、「我々が一定の生産の維持を望む部門では生産に関連した直接支払を維持することが十分に推奨できる。そのような要素はデユラム小麦・米・蛋白質作物に関する我々の提案に見ることができる。ともあれ、助成受益者が良好な土地管理慣行に従うことを保証する方法で直接支払システムを開発しなければならない」と、部分的デカップリングへの一定の理解を示した(Results of the Agriculture and Fisheries Council of 8 April 2003 ,4.9)。

 閣僚の批判は、デカップリングだけでなく、輪作の一環ではない休耕という要件や休耕地での非食料作物生産の禁止というセット・アサイド(休耕、減反)に関する提案、非土地利用型畜産援助受給権に関する厳しすぎる条件、支払受給と引き換えに38ものEU立法に基づく基準の遵守を義務づける強制クロス・コンプライアンスの複雑性、新たに導入される農場助言システムの強制的性格など、様々な部面に及んでいる。これらの問題でも、フィシュラー委員は一定の譲歩を余儀なくされている。単一農場支払の導入により従前からの野菜・果実生産者がこうむる不利な競争条件を回避するための提案の変更を示唆し、輪作の一環としてのセット・アサイドも考慮は可能と発言した。非土地利用型畜産の援助受給条件が厳しすぎるとも認め、クロスコンプライアンスの段階的導入の可能性も研究する用意があると述べている。さらに、支払レベルの地域的差別化の具体的適用については、何らかの明確化の必要性は明らかとした。

 議長国(ギリシャ)農相は、6月末には交渉を成功裏に終えるように全力を尽くすとしているが、「委員会と各国との間のこのような基本的問題での大きな違いと残された時間はたった2ヵ月という事実を考えれば、これはとてもありそうもないと思われる」(前記Irish Farmers Journalの記事)。

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PAC: le découplage total de plus en plus en question,Agrisalon,4.8