農業情報研究所農業・農村・食料欧州ニュース:15年11月29日

EU 高品質・安全・動物と環境に優しい農産物の販促支援で農業の成長を助ける

  欧州委員会が今月12日、EU農産物の新たな市場を開き、EU域内の消費を増やすための33の新たな農産物販売促進プログラムを承認した。これらのプログラムのために3年間で1800万ユーロ(140億円)が注ぎ込まれ、うち半分をEU予算で補う。特に品質、食品安全・衛生、栄養、表示、動物福祉、環境に優しい生産方法などを強調する多様な販促キャンペーンに資金援助をするという。

 選定されたプログラムのターゲットとなる品目には、最近の市場環境が最悪の乳製品に加え、肉、生鮮・加工果実・野菜、EUの原産地呼称・地理的表示・伝統的特産品などの保護産品、オリーブ油、有機産品が含まれる。域内市場向けが20品目、中国・中東・北米・東南アジア・日本・韓国・アフリカ・ロシア・ベラルーシ・カザフスタン・オーストラリア・ノルウェー・非EUバルカン諸国などEU域外市場(輸出)向けが13品目である。ホーガン農業・農村開発委員(国の大臣に相当)は、新プログラムは「農業-食品部門の成長と雇用拡大を助ける」と言う。

 欧州委員会は今年4月にも、同様な41のプログラム(3年で1億3000万ユーロ)を承認している。

 さらに今年12月1日からは新たな販促ルールが導入され、受益者や選ばれる産品の拡大、EU補助率の引き上げなどプログラムが拡充され、2016年のEU予算も1億1100万ユーロに倍増する。

 Commission approves new promotion programmes for agricultural products,European Commission - Press release,12 November 2015

 The Commission approves new promotion programmes for agricultural products,European Commission - Press releas 21 April 2015

 日本では、米、野菜、果実、乳製品などの(国産農産物)消費減少が続くなか(TPP関連政策大綱 またまた大法螺 国産農産物の消費拡大なしの農業成長産業化はない,1511.26 )、安倍政府農政は輸出促進と農地集積などによる農畜産効率化による「攻めの農業」への転換という「農業成長産業化」を叫ぶばかりである。消費拡大など思いもつかない。それどころか、TPPで外国産消費拡大、国産品消費縮小に向かってひた走りといったところだ。それでどうして「農業の成長産業化」なのだ。

 おりしも2015年農林業センサスの第1報が出た。「農業経営体数」は2005年の200万9000から137万5000にまで減少、農業就業人口(販売農家)も335万3000人から209万人にまで減少、しかもその平均年齢は63.2歳から66.3歳にまで高齢化が進んでいる。生産者が、スーパーや外食が求める安価(で時に粗悪な)外国農産物に市場を奪われたからだ。

 フランスでも農業経営体や農業就業者の数は、同様に減っている。だが、2000年に49歳だった経営主の平均年齢は2012年も50歳にとどまっている(フランス農業雇用に関する最新統計情報 経営主の平均年齢50歳 日本と大差)(EU27ヵ国について見ても、65歳以上の農業者の比率は2005年以来30∼31%で変わっていない⇒EU farms and farmers in 2013: an update,European Conmission,15.11.27)。高齢化した経営主の経営が若い世代に着実に受け継がれているからだ。それは結局は、まさに品質政策、原産地呼称・地理的表示・伝統的特産品・山地呼称などの国産農産物市場保護策のおかげで市場が確保できているからである。

 「センサス」は、フランスと比較してもう一つの興味ある事実を示している。「農産物売上金額1位の出荷先別に農業経営体数の構成割合をみると、農協が66.2%となり、次いで消費者に直接販売が8.8%・・・」というのである。フランスでは、直接販売または「短い流通経路」で販売する経営が全体の5分の1(20%)になるという(2010年センサス〉。それもおそらく、「品質政策」に支えられてのことだろう(*)。これは、いかに「効率化」しても広大な土地に恵まれた外国には太刀打ちできないことを知る国の知恵である。そんな世界最強の国と価格で競争をしようとすれば、自滅するのが落ちである(**)。

 「効率化」は農業成長の助けにならない。市場がなければ成長できるはずがない。EUやフランスの成長戦略に倣うべきである。稀代のデマゴーグ・安倍首相を引きずり降ろさないかぎり、日本の農業・農家の未来はない。

  * 2002年、フランス中央山塊=ピュイ・ド・ドームの原産地呼称(AOC)チーズ=サン・ネクテールの産地で見聞した酪農経営の例を紹介しておこう。この経営では、経営主とその妻が牛を飼い、息子は町で農外兼業、その妻が国の助成で建てた農場内の工場でチーズに加工、その妹(?)が近くの町に作った直販店(これも国の助成でできた)で加工されたチーズを売っている。こんな田舎町の直販所に外国人までもが群がっているのは、サン・ネクテールの名が国内外に売れているからである。こういう品質政策がなければ、この酪農場も、チーズ加工場も、店も、とっくの昔につぶれていたに違いない。

 ** 「欧州農業は最も競争力が強い世界の競争者[たとえばTPPに参加するオーストラリアのような―農業情報研究所注]と同じ価格で原料を世界市場に売りさばくことを唯一の目標として定めるならば、破滅への道を走ることになる。・・・公権力の介入は欧州、そして世界で商品化され得る高付加価値生産物の加工を助長するときにのみ意味を持つ」、「農業のための大きな公的支出は、それが雇用の維持・自然資源の保全・食料の品質の改善に貢献するかぎりでのみ、納税者により持続的に受け入れられる」―農業の多面的機能への援助を定めた1999年フランス農業基本法のルパンセック農相による提案理由説明―拙稿 方向転換目指すフランス農政 レファレンス 578(1999.3) 58頁。