農業情報研究所>農業・農村・食料>欧州>ニュース:20年12月15日
フランス蛋白作物増産計画 工業畜産は不問、農業工業化を促進する持続不能な道
フランス政府と関連業界がレンズ豆、ナタネ、ウマゴヤシなど蛋白質に富む作物(さくもつ)の増産に乗り出す。
現在、油糧作物(ナタネ、ヒマワリ、亜麻・・・)と蛋白作物(大豆、エンドウ豆、ソラマメ、レンズ豆・・・)の栽培面積は100万㌶ほどだが、これを2030年までに200㌶に増やすことをめざし、取りあえず向こう3年間で40万㌶増やす。
そのために、1億ユーロの財政資金を投じ、蛋白作物の生産・貯蔵・流通手段を整え、家畜飼料の蛋白質含有量を増やすために畜産農家の種子購入を助け、あるいは品種改良を促すという。
現在は家畜飼料中の食物蛋白の半分を米国とブラジルで生産される遺伝子組み換え大豆の輸入に依存している。蛋白作物増産の狙いは、このような輸入依存を減らし、とりわけブラジル大豆増産に結びついたアマゾン熱帯雨林の破壊を終わらせるとともに、国の「食料供給の主権を回復する」ことにあるという。
La
France veut doper la culture de légumineuses et protéines végétales(AFP),Agri
Mutuel,20.12.1
「植物性タンパク質生産拡大戦略」発表、食料供給の主権回復を目指す(フランス)
JETRO・ビジネス短信 20.12.9
森林破壊を終わらせ、「食料主権」を取り戻す、多くの日本人が、さすがフランスと拍手を送りたくなるかもしれない。しかし、このフランスの計画には大きな落とし穴がある。
アメリカやブラジルの大豆と競争できるような蛋白作物を生産するためには、気が遠くなるほどに植物生産の効率の上げねばならない。大規模化、集約化(大量の肥料・農薬の投入)、専門化―農業生産の工業化が一層促進されることになるだろう。
それは、「ヨーロッパ経済を持続可能なものにする“グリーンディール”、とりわけ一層健全で持続可能なフードシステムの構築と生物多様性戦略に貢献する」という目下のEU農業が目指す方向と真逆の方向を向いている(農業情報研究所:EU CAP改革にむけた議論開始 めざすは欧州グリーンディールへの貢献,20.10.21;EU農相 CAP改革に合意 環境保護に一歩前進も援助の大半はファクトリーファーム,20.10.22;欧州議会 CAP改革に関する立場を採択 直接支払の30%は環境尊重農家に.20.10.24)。
フランス農業が持続可能な道を歩み、「食料主権」取り戻そうというなら、蛋白作物の増産でなく、輸入大豆に頼らねばならないような大規模な工業的畜産を改めることだ。
フランスの小農民組織・「農民同盟」も、畜産の脱工業化なしの「主権」(autonomie)はないと、この計画を批判している。
日本も「濃厚飼料自給率」僅か10%(飼料自給力・自給率の向上に向けた取組 農林水産省