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イギリス:有機農業が躍進、土壌協会レポート

農業情報研究所(WAPIC)

02.11.11

 10月13日、イギリス最大の有機農業団体・土壌協会が「2002年食料・農業報告」を発表した。それは、2001年4月から2002年4月の間に有機食品販売額は15%増加してイギリス食品・飲料市場における最大の成長部門の一つとなり、有機農地面積も倍増して45万8,600haに達したことなどを明らかにしている。このような発展は歓迎すべきことかもしれない。しかし、この発展には、純粋に営利を目的とするスーパーマーケットや加工業者が大きく寄与しているようである。有機農場の大規模化も顕著である。有機農業は、安全・健全な食品の供給や環境保全に加え、生産者と消費者の直接的結びつきによる「共同社会」の構築、小規模生産者の維持など、様々な「社会的使命」を果たすべきものとしても唱導されてきた。これらの使命の十全な達成には、有機農業の広範な普及が必要である。しかし、そのためには、需要増加を「商機」と捉える純粋に営利的な企業の参入も不可欠のようだ。報告は触れていないが、市場の急速な発展は、「社会的使命」と営利との矛盾・対立を現出させつつあるのではないかと案じる。10月10日に全国規模の統一有機食品表示を実施に移した米国でも、それが有機農業の拡大を促す一方で、存続をこれにかけてきた小規模有機農業経営の駆逐につながる恐れが指摘されている(The 'Organic' A Label:Who Wins at the Banks?,The New York Times,10.20;Organic Gets an Additive:A U.S.D.A Seal,The New York Times,10.21)。

 報告の要旨は次のとおりである。

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市場と消費者について

・有機食品販売額は15%増加して9億2,000万£(約1,750億円)に。

・輸入有機食品の比率は減少したが、なお販売額の65%を占める。スーパーマーケットはイギリス産品が利用できるにもかかわらず、主に安価という理由で、輸入品を扱い続けている(イギリス産品の利用可能性が不確実という理由もある)。

・79%の家計が少なくとも年に1回の有機食品購入を行なっている。新たな購入者の数の見通しは減っており、将来の市場成長は既存の有機食品消費者の支出増大にかかっている。

・販売の60%は中核的な8%の消費者に対するもので、それほど定期的に有機食品を購入しない71%の消費者のなかに購入の価額と頻度を増加させる大きな潜在的可能性がある。公衆の有機食品に対する知識の向上が将来の市場成長を確保する手段となる。

・スーパーマーケットの市場支配が強まり、販売額の82%を占める。農家店舗の販売は9%減少、独立小売業者の販売は2%の増加。

 有機農業について

・完全有機農地は91%増加、24万haから45万8,600haに。

・転換中の農地も含めると、2002年4月までに72万9,550haー全農地面積の4.3%ーが有機的に管理されるようになっている。

・認証有機農場は5%増加して3,865に。平均農場規模は150haから189haに増加。

・有機産品の農場出荷額は9,700万£から1億4,800万£に増加。

・産出の急速な増加により、多くの商品の農場から消費者までの供給チェーンの効率性が問題化している。

 加工について

・加工者のレベルでの市場価額は7億2,100万£。

・有機食品加工の登録業者の数は18%増えて1,977に。

・多くの大規模食品企業が有機ラインを始動、それほど確信的でない消費者に有機食品を推奨することで市場成長を助けている。

・加工施設は相対的に小さな市場規模による制約を受けている。熱心な有機食品加工業者にとって、競争力を得るために必要な規模の経済を達成するのが難しい。大規模非有機加工業者については、短期的利益が比較的小さいことが、有機製品加工と市場開拓への投資の抑止要因となっている。

 政策について

 2002年初めの農業・食料の将来に関する政策委員会の報告(イギリス:生産補助金政策は持続不能ー政府委員会レポート,02.2.5)は、持続可能な農業の一層の奨励のための多くの歓迎すべき勧告を行なった。有機部門にとっては、次の二点が特に重要である。

・有機農業の立証済み環境便益を認めての()財政支援支払の継続。

・イギリスにおける有機食品・農業発展のためのアクション・プラン((速報)イギリス:有機農業発展のためのアクション・プラン発表,02.7.30)。

 政府はこれら二つの考えを受け入れた。

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 ()イギリス食品基準庁(FSA)は、有機食品の環境便益を保証する声明を出せという政府の要求を拒んでいる。そのうえ、先週、FSAのチェアマン・Sir Jhon Krebsは、有機農業は慣行農業よりも環境に優しいという主張をくじく意図から、厩肥は化学肥料以上に大気と水を汚染すると語っている。11月6日には、有機農業と慣行農業の違いの研究を始めるかどうかを考えるセミナーを開いた(Organic farming shunnedby food watchdog,Independent,11.3)。