農業情報研究所

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フランス:狂牛病で躍進した有機農業が低迷

農業情報研究所(WAPIC)

02.11.11

 フランスの有機農業は、長い間、少数者集団が閉じこもり、あるいは閉じ込められた「ゲットー」から抜け出すことができなかった。1996年、イギリスに端を発する狂牛病危機がこれを一転させる。以来、有機農業は、例を見ない速さで広がった。有機農業に敵対的でさえあった国立農学研究所(INRA)は、これを持続可能な農業の「原型」と認め、新たな研究計画を始動させた。1997年には、政府も、有機農業を「ゲットー」から救い出し、不十分な国内生産を発展させることを目標に、2005年までには有機農地を全体の3%にまで拡大させる国家計画を始動させた。農業者は公的援助、とりわけ1999年農業基本法が制定した契約制度(CTE、参照:フランス:地方経営契約、最初の分析,01.11.3)により、有機農業への転換を奨励された。

 毎年1,500から2,000の農業者が有機農業に移行、現在では有機農業経営は1万(全経営のほぼ1,7%)を超える。利用農地面積の1.4%が有機農業に利用され、有機産品売上高は食品全体の売上高の3.6%を占める。1年の間に何らかの有機食品を消費した消費者の割合は、2000年の40%、2001年の50%から、2002年には65%にまで増えた。

 しかしながら、狂牛病危機の収束とともに、この躍進の時期は終わったらしい。11月7日付けの「ル・モンド」紙が今年に入っての「停滞」傾向を報じている(L'agriculture biologique traverse sa première crise,Le MondeInteractif,11.7;Dans la Manche, les producteurs de lait hésitent à se convertir,Le MondeInteractif,11.7)。これは、有機農業の発展そのものが、その基本的矛盾・問題を現出させることになったのではないかと注目に値する。

 同紙によれば、有機農業の困難は価格の低下からくる。とりわけ牛乳部門の価格低下の影響が大きいという。しかし、生産過剰が問題なのではない。消費は国内生産によって満たされていない。2002年、フランスの2,100万トンの有機牛乳が「格下げ」され、普通の牛乳として販売された。代わって、2,800万トンがドイツから輸入された。有機産品全体の半分近くは外国から入ってくる。大部分の関係者は、販売の危機と見ている。企業間の競争が有機酪農部門の重石になっているというのである。

 フランス有機牛乳の4分の1を集荷する経済利益集団(GIE)・Biolaitは、通常牛乳の価格への上乗せを加工業者に転嫁するのに失敗、それを自らかぶっている。そのために、通常牛乳への「格下げ」が生じる。この格下げにより有機牛乳の調達が出来なくなった企業・Lactalisは、原料をドイツから輸入することになった。有機産品は、これを「ゲットー」から解き放ったスーパーマーケットからの価格引き下げの圧力にもさらされている。 さらに、ここ数年、増加する需要を満たすために、悪徳便乗者が跋扈、品質に対する消費者の信頼を損ねた。

 最後に、通常食品の価格に上乗せされる価格が購入の基本的障害になる。生産者の追加労働と低収量のために、生産者には10%から50%の価格が上乗せされる。集荷・加工・流通・統制のコストのために、消費者は通常産品を30%から200%上回る価格を支払うことになる。産品の量が少なく、地理的に分散しており、全国有機農業連盟(FNAB)の会長は、合理的経済組織を作るためには、有機農地面積は最低で全体の3%に達する必要があると言う。

 関係者は、ドイツ、イタリア、オーストリア、デンマークに見られるような政府の断固たる政策的支援を要求している。フランス有機産品がドイツやオーストリアに対抗する競争力をもつためには、転換援助よりも、転換後の経営維持の援助が必要と言う。しかし、政府はCTEの承認中断(フランス:国土経営契約(CTE)を中断、費用が高すぎる;国土経営契約(CTE)に未来はあるのか)により、転換援助さえ拒んでいる。

 有機JAS制度で認定された国内農産物が全体の0.1%しかなく、輸入品がその4倍にもなる(2001年度、農水省調査)という転換援助もない日本からみれば贅沢な悩みかもしれないが、フランスの例は、「ゲットー」脱出後の有機農業が直面する困難と問題を示唆している。