フランス農業省、有機農業振興策を発表―飛躍的発展は疑問

農業情報研究所(WAPIC)

04.2.3

 フランス・ゲマール農相が2日、有機農業開発のための一連の措置を発表した(Hervé GAYMARD présente les mesures en faveur du développement de l'agriculture biologique)。昨年7月に出されたオート・サボワの代議士・サジエの報告(⇒文献情報)に応えるものである。この報告は、有機部門の組織化の欠如を指摘、生産費の抑制と加工・流通部門の開発の努力の必要性を訴え、他のヨーロッパ諸国に追いつくための5ヵ年計画を提唱していた。

 農相発表の措置

 農相は、有機農業を雇用・国土整備・資源の持続的管理・環境と生物多様性の保全といった農業の多面的機能の確保を目指す活動のなかに位置付けるという。新たな措置は以下の六つの点を軸に構成される。

1.市場と経済的拘束の認識の改善の助長

 生産面に中心をおいてきた有機農業全国調査(ONAB)を加工・価格形成・消費者行動の面にも拡張する。この仕事は、99年農業基本法により創設された有機農業開発・促進機関(Agence Bio、生産者・加工流通業者代表組織、農業会議所常設会議で構成される)が行う。

 公認の職能間組織(生産・加工・流通など関連部門全体を組織化する)は有機農業に関するセクションを設置せねばならない。現在、議会は新たな「農村地域振興法」を審議しているが、この法律により、このセクションの義務化を定めるという。これらの専門セクションの協調を促すために、Agence Bioの内部に連絡委員会を設ける。

2.国とEUの規則の接近

 フランスには様々な有機農業団体が乱立、それぞれの思想によってEU規則に比べて相当に厳しい基準が適用されている場合が多い。しかし、これは必ずしも消費者の期待に応えるものではなく、フランス有機農業に過剰な費用を生んでいる。このために、

 −この生産方法の特殊性を護るために必要な場合には、EU規則を補完するためにEUでの交渉を追及し、

 −新たなEU規則が採択されるときには、国レベルで適用されねばならず、

 −既存のEU規則は、技術的な違いが消費者にとって重大な意味をもたず、あるいは経済的影響の研究により強い競争歪曲が立証されるときには、国レベルの基準とならなければなtらない。特に有機畜産の生産条件が優先的研究対象となる。

 要するに、他のEU諸国との競争条件を改善するために、基準をEU基準に合わせるということだ。

3.消費者情報の改善

 職能関係者がAgence Bioと緊密に協同して実施する多年次コミュニケーション計画を策定、EUの欧州委員会に共同財政援助を求める。

 このために3年間で最低総額450万ユーロ(約6億円)の予算を講じる。コミュニケーションには国とEUの二つのロゴが付される。

 第三国(EU域外諸国)から輸入される産品には、フランスのロゴである「AB」を適用することができる。これは、当然、生産・加工条件の尊重と同等のコントロールが保証されたものでなければならない。これはEUのロゴより高くつく不利あるが、他方で消費者の強い信頼を得る利点もある。

4.教育訓練と研究の拡充

 将来の農業経営者養成の様々なプログラムのなかに有機農業に関する特別なプログラムを合体させる(農業教育に有機農業に関する選択科目を入れる)。

 有機農業技術研究所(ITAB)は、その行動を最適化するために、基礎研究・応用研究・現場実験の代表者を集めた管理会議と区別される科学会議を設置する。

5.公的助成の強化

 有機農業転換を助成するために、国土経営契約(CTE)に取って代わった持続的農業契約(CAD)の国家予算額の13%、すなわち5年間で5千万ユーロ(約66億円)を支出する。近い将来、EUレベルでの調整を待ち、国家農村振興計画(PDNR)で補完的援助を定める。

 農業省によれば、フランスは有機農業援助のEUレベルでの調和を要請する。他のEU諸国では、有機農業転換援助に関して補完的援助を支出しているが、これは調和を欠き、競争を歪曲しているから、策定に向けて作業中のEU行動計画(EU:有機農業アクション・プラン策定を目指すオンライン協議を開始ーわが国は何を学ぶべきかー,02.2.12:欧州委員会「有機食品・農業のためのヨーロッパ行動計画の可能性の分析」(翻訳),03.2.18、なおこれに関するヒアリングの結果が1月26日に発表された⇒Agriculture: European hearing on organic food and farming - Towards a European Action Plan)がこの状況に応えねばならないという。

 地域事業への国家助成配分を決める国家・地域計画契約の枠内で、生産・加工部門に支えられた活性化活動に3年間で1千80万ユーロ(約14億円)の援助を行う。

6.協議の場の設定

 Agence Bioの活動をコミュニケーション、有機農業全国調査、職能間協調に集中。2004年、農業省はAgence Bioに予算を12%増やし、110万ユーロ(約1億5千万円)とする。ラベル認証全国委員会の有機農業部会はEU及び国家規則の変化の問題に集中、提案される新たな規則の技術的・経済的影響について意見を提出する。

 諸団体の反応

 このような提案に対し、消費者団体・UFC-Que Choisirは、とくに基準調和の提案は有機農業促進と消費者にとっての分かりやすさをもたらす歓迎しながらも、輸入有機産品の現行規則遵守を保証する追加措置を要求している。一部有機部門では、輸入産品の比率が50%に達している。

 生産者組織のフランス地域有機農業全国連盟(FNAB)は、有機農業を積極的に評価してこなかった農相が有機農業開発の約束を確認したこと、その環境と社会へのプラスの影響とフランス農業における役割を認めたことを歓迎しつつ、なお警戒と措置実施への職能組織の参加が必要だとしている。それは、他のEU諸国で行われている有機農業への永続的援助に関してはいかなる決定もなされなかったこと、有機農業の地位をヨーロッパ一のものとするという「野心」にしては、与えられ財政援助は以前と変わり映えしないことに不満を表明している。

 さらにFNABは、有機農業と遺伝子組み換え(GM)作物との共存に関して、GM汚染の場合の有機農業者への補償に何も触れていないと批難している。

 フランス有機農業の地位

 FNABが指摘するように、新たな措置も、ヨーロッパ一の農業大国でありながら、有機農業ではEUでビリに近いという遅れた地位を取り戻すことはできないだろう。有機農業への転換の援助はなお薄いし、他のEU諸国のような転換後の経営援助はない。2001年のデータでEU各国の有機農業の地位を示せば、次のとおりである(新措置発表と同時に示された資料による)。

  有機経営数 経営全体中
の比率:%
有機農地面
積:ha
有機農地面
積比率:%

ドイツ

14,703

3.28

632,165

3.70

オーストリア

18,292

9.30

285,500

11.30

ベルギー

694

1.03

22,410

1.61

デンマーク

3,525

5.58

174,600

6.51

スペイン

15,607

1.29

485,079

1.66

フィンランド

4,983

6.40

147,943

6.60

フランス

10,364

1.55

419,750

1.40

ギリシャ

6,680

0.81

31,118

0.60

アイルランド

997

0.69

30,070

0.68

イタリア

56,440

2.44

123,000

7.94

ルクセンブルグ

48

1.60

2,141

1.71

オランダ

1,528

1.42

38,000

1.94

ポルトガル

917

0.22

70,857

1.80

英国

3,981

1.71

679,631

3.96

スウェーデン

3,589

4.01

193,611

6.30

EU

142,348

 

4,442,875

 

 同時に発表された有機産品の受止め方と消費に関する初めての調査(2003年実施)の結果によれば、フランス人の有機産品の評価は非常に高い。85%が「化学製品なしで作られるからより自然」、79%が「健康に良い」と答えている。また、84%が「環境保全に貢献」、74%が「動物福祉を尊重している」と、エコロジーの側面でも有機農業を高く評価している。しかし、有機産品を規則的に消費するのは37%にすぎない。最大の障害は「価格」である。56%の人々が、購入しない理由として、価格があまりに高いことをあげている。高価格で売れないために、2002年の有機牛乳の3分の1が普通牛乳に格下げされた。このギャップを埋める決め手は、コストを高める基準を緩和することしかないのだろうか。

 関連情報
 有機牛乳消費が高価格で伸び悩む―フランス統計研究,03.10.10

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