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カナダ:ズサンな狂牛病コントロールが露呈、見直しへ

農業情報研究所(WAPIC)

03.5.29

 5月20日にアルバータのブラック・アンガス種の牛一頭の狂牛病(BSE)感染が確認されて以来、牛肉産業・関連産業は大打撃をこうむっている。米国を始め、主要輸出国(日本、韓国、中国、台湾、シンガポール、フィリピン、インドネシア、オーストラリア、ニュージーランド、バルバドス)がカナダ産牛肉・関連製品の輸入の一時停止に踏み切った。食肉処理場は開店休業状態となり、飼料やキャンディー、ゼラチン、化粧品、タイヤなどの蛋白質原料を供給する非食用部位の精製(レンダリング)工場も豚と鶏の廃物のレンダリングを行なうだけである。問題の牛の肉は食品として出回ることはなかったと言われるが、飼料原料などとして販売されたことがわかった。5月26日、米国食品医薬局(FDA)はカナダ政府から感染牛からの精製物質がドッグ・フード製造に使われた可能性があると知らされ、カナダのメーカー・「チャンピオン・ペット・フード」社から輸入し・電話やe-mailで注文を受けて米国全土に宅配している米社・「ペット・パントリー・インタナショナル」にこれを知らせた。犬がBSEに感染するという証拠はないし、犬から人間に伝達するという証拠もない。しかし、他の飼料に混じったり、用途以外に使われる可能性も否定できない。知らせを受けた同社は、製品を指定して回収に乗り出した(FDA Statement,FDA BSE Update - Pet Food from Canadian Manufacturer,5.26)。

 牛肉・同関連産業はカナダでは極めて重要な地位を占める産業である。政府は、市場の信頼、とりわけ最大市場である米国の信頼を取り戻し、一国も早く輸出再開に漕ぎつけたいと懸命の努力をしている。信頼を取り戻すためには、感染経路を究明し、感染している可能性が高い牛を割り出さねばならない。しかし、この作業は難航している。

 感染牛が輸入牛である可能性は薄れたようだが、決定的証拠はない。どこで生まれたのか、大量の牛のDNA鑑定で割り出そうとしている。このために西部三州の17農場が調査されたが、結局はわからないだろうという。それどころか、この牛の年齢さえもはっきりしない。最初8歳と発表されたが、6歳という説が有力になりつつある。

 飼料が原因であるとすれば、他にも感染牛がいる可能性が高まる。業界には今回のBSEが自然発生的なものであること(そうであれば、感染はこの一頭だけで済む)を祈る空気もあるが、実証はできないだろう。牛の反芻動物蛋白質飼料は1997年に使用が禁止された。しかし、豚や鶏の飼料としての使用は許されていた。当局は可能性は少ないというが、それが牛の飼料に混じった可能性は否定できない。農場での飼料混合の正確な監視は不可能だ。この牛が最後に過ごしたアルバータの農場の192頭の牛が屠殺され、脳が検査された。結果はすべてシロであった。今後、この牛が生涯に過ごした可能性がある農場の数百頭が同じ運命を辿ると予想されている。一頭の牛の感染は、これほどまでに今までのコントロールの不備を露呈した。

 こうしたなか、カナダ保健省は、牛産業にかかわる「すべての政策と慣行」の見直しを始めたと報じられている(Ottawa looks at new rules on mad-cow,Globe and Mail,5.27)。

 報道によれば、見直しの中心分野の一つは、屠殺場で食肉処理の最初の段階で背骨を縦割りにする「背割り」の慣行であるという。もちろん、これは、背割りによって感染性が非常に高いと見られる脊髄が肉に附着する恐れがあるからである。BSEは国内に存在しないと信じてきたカナダや米国は、人間消費用の肉に脊髄が附着することに問題はないと、この慣行を問題にしてこなかった。ゲルフ大学の専門家は、背割りはカナダでの一般的慣行であり、「T−ボーン・ステーキを買えば、そこには脊髄管が見える」と言っているという。

 ただし、日本では、最初のBSE確認後間をおかず食肉処理される牛の全頭検査に踏み切ったが、報道ではこの点ははっきりしない。カナダ食品検査局(CFIA)の赤肉プログラム・チーフは、カナダでは1万頭がランダムに検査されているにすぎないが、屠殺されるすべての牛は、「BSEの可能性が高い神経疾患症状を示す」牛を監視、屠殺場に保管したのち、検査のために試験所に送られていると語ったという。しかし、今回感染が発見された牛は、1月の屠殺時にBSEの症候が見られなかったために、検査は5月まで延ばされたという。これで信頼が取り戻せるとは考えられない。別の報道によれば、一部の米国議会議員は、カナダが家畜の監視と検査を改善する[具体的内容は不明]まで、カナダ牛肉の輸入禁止は続けるべきだ」と言い、カナダ当局者も、牛肉産業の信頼回復のためにどんな変化が必要か考えると語ったという(Canada Vows 'Strong Case' on Beef Ban,AP,5.27)。

 EUは、米国やカナダからの輸入牛肉・牛製品には2001年3月から特定危険部位の除去を義務付けている。この措置は続くし、5月26日の農相理事会で、バーン担当委員は、カナダでのBSE確認により、いまのところ、追加措置を取る必要はないと述べている(BSE - Written Information by the Commission, Agriculture Council, 26 May 2003)。日本はカナダ産牛肉・牛製品の輸入の一時禁止措置を取ったが、カナダに隣接する米国のBSEのリスク管理、食肉等の貿易・流通実態等を調査するために専門家を派遣することを決めた。カナダへも専門家の派遣を行う予定だが、「現時点では同国政府関係者等がBSE対策のため受入困難であるとのことであり、受入体制が整い次第派遣することとする」という(カナダでのBSE発生に伴う海外調査について,5.29)。しかし、上記の報道が正しければ、カナダ産牛肉の最大の顧客であった米国には、輸入の一時禁止前に特定危険部位のついた製品が流れ込んでいた可能性が高いことは十分に推測できる。一日も早い適切な対応が望まれる。

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