米国国産牛のBSE確認 米国産牛肉輸入条件は即刻見直されねばならない

農業情報研究所(WAPIC)

05.7.1

 米国で国産のBSEのケースが初めて確認された(米国農務省 BSE2例目の出自牛群確認を発表 擬似患畜追跡と感染源調査へ,05.6.30)。それにもかかわらず、農水省は既定方針どおり、検査なし、特定危険部位(SRM)除去を条件に、米国産20ヵ月齢以下の牛の肉・内蔵の輸入再開を急ぐという。早期再開のために、食品安全委員会への諮問は米国の飼料規制の実効性の評価を省いた。昨年10月の日米合意で、「両国は、少数のBSEの確認が市場の閉鎖や科学的根拠のない牛肉貿易パターンの撹乱を生じないような十分に堅固な食品安全システムを設けている」と確認しているから、これは当然のように見える。

 しかし、この合意は、「米国は、暫定的期間について一部貿易の再開を可能にする販売プログラム(暫定貿易プログラム)を策定する。USDA農業販売促進局(AMS)が管理する牛肉輸出証明(BEV)プログラムの運用の詳細は、米国と日本の専門家がさらに検討をして案出する」と述べ、、目的は輸入条件緩和であるとはいえ、BEVプログラムは今年7月に見直されるとしていた。そして、「日米両政府担当官によるこの共同の見直しは、OIEとWHOの専門家による科学的再検討を考慮に入れる」と言い、「検討されるべき情報には、上記の共同科学協議により利用可能にされる情報、見直されるべきOIE基準に従っての米国のBSEリスクレベル、米国の強化されたサーベイランス・プログラム、米国飼料規制、米国に設けられている広範なBSE改善措置、BSE検査年齢の区切り、その他の科学的情報が含まれる」としていた(日米牛肉協議合意、BSEリスク評価を無視、政治が独走,04.10.25)。

 OIE基準は規制緩和の方向に変わったが、米国産牛のBSE確認で米国のBSEリスクレベルの評価も変わる。最初のBSE確認までの混乱した過程は、米国の強化されたサーベイランス・プログラムに大きな疑問を生じさせた。飼料規制の有効性や、「広範なBSE改善措置」(例えば、擬似患畜の迅速で完全な追跡)の有効性にも改めて疑問が生じている。日米合意に従っても、輸入条件の再検討が要請され、正当化されるのではないか。

 合意された輸入条件は、 米国が「無視できるリスク」の国であると立証できれば、OIE基準に照らして容認の余地はある。しかし、米国は、今や明らかにリスクを無視できる国ではない。新基準によ れば、そうであるためには、最低限、@BSEのケースが存在しなかったか、BSEのどのケースも輸入されたものであり、かつ完全に廃棄されたことが立証されたか、A最後の国産のBSEのケースが7年以上前に報告された、という条件を満たさねばならないからだ。現在の米国は、このどちらの条件も満たさない。

 米国は、今や、せいぜい「制御された(contorolled)BSEリスク国」だ。

 つまり、「国産のBSEのケースが存在し、第2.3.13.2条の2)から4)までの基準が満たされ、反芻動物由来の肉骨粉と獣脂かすが反芻動物に給餌されなかったことを適切な統制と監査を通して立証できるが、

 @)第2.3.13.2条の2)から4)までの基準が7年間にわたって満たされないか、A)反芻動物由来の肉骨粉と獣脂かすの給餌に対する統制が8年間にわたり実施されてきたことを証明できないのどちらかであり、かつ、

 B)BSEのすべてのケース、及び、病気と診断される前後2年以内に生まれた雌のケースのすべての子、生後1年の間、BSEのケースと一緒に飼育されたすべての牛と、この期間に同一の汚染された可能性のある飼料を食べたことを調査が示すすべての牛、またはこの調査の結果が確定的でない場合にはBSEのケースと同一牛群において、このケースの出生から12ヵ月以内に生まれたすべての牛が、もし国・地域・これら内部の区域で生きていれば永久的に識別され、監督される、と殺されるか死んだときには完全に廃棄される、という条件が満たされる」国である。

 ここに、第2.3.13.2条の2)から4)までの基準とは、「@付属書3.8.4に定められる標的集団(BSEに合致する症候を示す牛、へたり牛、死亡牛、通常のと殺牛)内のBSEと合致する症候を示すすべての牛の報告を奨励する獣医、農業者、牛の輸送・販売・と殺に関係する労働者の実施中の啓蒙計画、ABSEと合致する症候を示すすべての牛の義務的通報と調査、Bサーベイランスとモニタリングのシステムの枠内で収集された脳またはその他の組織の承認された試験所での検査のことだ。

 しかし、「反芻動物由来の肉骨粉と獣脂かすが反芻動物に給餌されなかったことを適切な統制と監査を通して立証できる」だろうか。上に示された「擬似患畜」が「生きていれば永久的に識別され、監督される、と殺されるか死んだときには完全に廃棄される」という条件が満たされるだろうか。それができなければ、米国はリスクが決定できない最悪のBSEステータスに転落する。

 仮にそうなったとしても、OIE新基準によれば、脱骨骨格筋(普通の牛肉、ただし機械的分離肉は除く)については、スタンニングとピッシングを受けておらず、それが生前・死後検分を受け、BSEを疑われるかBSEと確認されなかった30ヵ月齢以下の牛からのもので、かつ特定危険部位(SRM)による汚染を回避するような方法で調整されたものならば、他の条件なし輸入できる。だが、この場合でさえ、20ヵ月齢以下の牛からのSRMを除去した牛肉であるという現在の条件では足りない。既にここに含まれている諸条件が満たされていることを立証せねばならない。米国の現状でそれが可能かどうか、徹底した検証が必要になる。

  そして、全く同じ条件で輸入を再開しようとしている骨格筋以外の内臓などについては、脱骨骨格筋について要求されるとほぼ同様な条件(頭蓋と脊柱からの機械的分離肉を含んではならないという条件が加わる)で輸入するためには、米国のBSEステータスが「制御されたリスク」であることを立証せねばならない。そのためには、既に述べたように、米国のリスク・アセスメメントやリスク管理措置(既に述べた擬似患畜の処分、SRM除去などを含む)、サーベイランスのあり方や有効性が立証されねばならない。

 しかし、BSEの症候を示す牛の報告義務については、どこまで守られているかは極めて怪しく、むしろBSE隠しが横行していることを疑わせる多くの証言がある。擬似患畜の完全な追跡もできないことは実証済みだし、「サーベイランスとモニタリングのシステムの枠内で収集された脳またはその他の組織の承認された試験所での検査」がいかにズサンなものであるかも実証されている。飼料規制の有効性については、米国議会検査院が繰り返し疑問を呈している(米国議会検査院 FDAのフィードバン管理は不適切 BSE拡散のリスクに警告,05.3.16)。「反芻動物由来の肉骨粉と獣脂かすが反芻動物に給餌されなかったことを適切な統制と監査を通して立証できる」とは考えられない。

 さらに、サーベイランスの有効性については、米国農務省内部の監査局(OIG)が昨年の第一次監査報告でその有効性に疑問を提起、現在進行中のの第二次監査では、検査計画の有効性、試験所のパフォーマンス、提出されたサンプルの検査手続、検査結果の報告、第一次監査報告の勧告に対応してUSDAが行った修正などの評価を行なっている。さらに、これも進行中の第三次監査では、SRM禁止や先進的回収肉(AMR)に中枢神経組織が混じることを防止するコントロールのUSDAによる執行が有効に実施されているかどうか、食品安全検査局の疑わしい牛の生前確認手続や検査すべきとされた牛からのサンプル採取手続も評価中という(米国 2例目のBSE確認 出生地・出荷農場も不明 大量の擬似患畜はどこへ,05.6.25)()。

  そうだとすれば、米国が「制御されたリスク」国にとどまるかどうか、それさえ極めて疑問だ。食品安全委員会も、プリオン専門調査会座長がお得意で、そうでなければリスク評価の名に値しないとまで言う「定量」リスク評価に血道をあげる前に、これらの点を徹底的に検証せねばならない。

 その結果、米国がリスク不明な国となれば、OIE新基準に従っても、脱骨骨格筋以外の肉・肉製品は、@BSEと疑われないか確認されず、A肉骨粉と獣脂かすを与えられず、B生前・死後検分を受けた、Cスタンニングとピッシングを受けなかった牛からのもので、SRM・脱骨の過程で汚染された神経・リンパ組織・12ヵ月齢以下の牛の頭蓋と脊柱からの機械的分離肉を含まないことを立証せねばならない。「定量」リスク評価を待つまでもなく、米国が「制御されたリスク国」や「リスク不明国」と分類されれば、OIE新基準に従っても、それだけで輸入条件は現在の条件よりはるかに厳しいものとなる。今や米国が「清浄国」でないことは確定しているのだから、「定量」評価でリスクは微小などと現在の輸入条件を容認することになれば、OIE基準さえ満たさないことになる。

 OIE基準は、貿易の利益と安全確保の妥協の産物であり、予防原則の観点からの安全規制を最小限に抑えるものだ。それは決して強制基準ではない(WTOで紛争となった場合にのみ、実際の強制力を持つ)とはいえ、これは最低限の基準として守られるべきものだ。それにも劣る輸入条件は見直しが不可欠だ。日米合意に盛られた見直しを、条件の緩和に向けてではなく、強化に向けて、即刻開始すべきである。

 (注)ちなみにサーベイランスに関するOIEの新たな指針について言えば、それは、サーベイランスの標的集団を、BSEが発見される可能性が高い順に、BSEと合致する行動的または臨床的兆候を示す30ヵ月齢以上の牛、援助なしでは起立または歩行ができない歩行しない(non-ambulatory)・横臥状態の30ヵ月齢以上の牛(へたり牛)、農場、輸送中、と畜場で死んだ30ヵ月齢以上の牛(死亡牛)と定めた。 今や「清浄国」でなくなったために米国に要求されるAタイプのサーベイランスについては、異なる牛集団の年齢層に応じて定められる収集サンプルのサーベイランス価値を示す点数(表1)に基づいて、サーベイランスは定められた目標点数を満たすことが望ましいとしている。10万頭に最小限1頭(A)、5万頭に最小限1頭(B)のBSEを発見するための目標点数が、国・地域・区域が持つ成牛(24ヵ月齢以上)頭数に応じて定めらた(表2)。

表1

年齢 通常と殺牛 死亡牛 へたり牛 症状牛
1-2 0.01 0.2 0.4 -
2-4 0.1 0.2 0.4 260
4-7 0.2 0.9 1.6 750
7-9 0.1 0.4 0.7 220
9- 0.0 0.1 0.2 45

表2

成牛頭数規模

1,000,000以上

300,000

150,000

800,000-1,000,000

240,000

120,000

600,000-800,000

180,000

90,000

400,000-600,000

120,000

60,000

200,000-400,000

60,000

30,000

100,000-200,000

30,000

15,000

50,000-100,000

15,000

7,500

 数千万の成牛をもつ国と100万頭を僅かに超す国の目標点数が同じというのは不可解な話しだが、仮に米国の検査対象がすべて4−7歳の「症状牛」(その判定には国によりバラツキがあろう)だとすれば、400頭の検査で済む。2-4歳でも1,153頭だ。すべてが4−7歳の「へたり牛」ならば、18万7500頭で現在の拡大検査計画の対象を下回り、2-4歳ならば75万頭とこれを上回らねばならない。だが、検査対象がどんな・何歳の牛で構成されているのか一切発表がなく、発表しようにも、個体識別不能でできないだろう現状では、こんな数字も無意味だ。米国にとって有利な新基準とはいえ、これさえ達成したかどうか、判定のしようがない。

 その上、サーベイランス基準は、各国のサーベイランス戦略のデザインは、サンプルが国の牛群を代表し、生産のタイプや生産地域、文化的にユニークな養畜慣行のあり得る影響などのデモグラフィックな要因の考慮を含めるように保証すべきと言う。どこの農場から出てきたかも分からない牛を拾い集めて検査している現状で、こんなことが「保証」 ができるはずもない。米国がサーベイランスの有効性を「立証」することだけは、決してありそうもない。少なくとも個体識別システム・トレーサビリティーが確立を見るまでは。