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イギリス:ノーベル賞学者、イギリス人すべてのCJD検査を望む

農業情報研究所(WAPIC)

02.12.3

 プリオン研究によりノーベル賞を受賞したプルシナー教授がイギリスを訪れ、The Sunday Times紙に、すべてのイギリス人のクロイツフェルト・ヤコブ(CJD)病検査をすべきだと語ったという。教授によれば、狂牛病(BSE)に感染した100万の牛がイギリスの食物連鎖に入っており、この国のほとんどすべてが変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)を引き起こすプリオン蛋白質に曝されてきた。CJDの治療法はないが、血液や手術器具を通してのさらなる感染を防ぐために、症候が現れる前に感染の有無を確かめる検査を、すべてが受けるべきだという。

 現在、異常プリオン蛋白質の存在の確認は、死後の脳検査によってしかできない。しかし、カリフォルニア大学サンフランシスコ校で開発されている新たな検査法は非常に敏感で、はるかに低濃度の血液、さらには尿の中の異常プリオンを発見できる可能性があるといわれる。プルシナー教授を含む研究チームは、この検査により、羊のスクレイピー(CJDや狂牛病=BSEなどとともに、伝達性海綿状脳症の一種をなす)に感染させたマウスの「筋肉」中に、予想外に高レベルの異常プリオン蛋白質を発見している(参照:マウスの筋肉に異常プリオンが蓄積という研究、食用動物の早急な調査が必要,02.03.19;UCSF研究チーム、高感度の狂牛病検査法を開発と発表,02.10.28)。こうした事実から、教授は、牛・羊のすべての人間消費用食肉の検査も望んでいる。筋肉中に予想外に高レベルの異常プリオンが存在するとしても、脳や脊髄に比べればはるかに少なく、食肉や筋肉組織がvCJDを引き起こしたという実験もない。しかし、どれほどのレベルであれば人に感染するかについての明確な科学的証拠はない。教授は、これらの検査を消費者に対する追加保護だと言う。

 このような要請に対し、保健省は、CJDの評価と処置に関する様々な新事実を検討するための多くの専門家委員会を立ち上げ、検査方法も含むあらゆる新事実の評価を求めていると言う。しかし、人の検査については、治療法のないこの病気への感染を知らせることは惨めさをもたらすだけという倫理上の理由や補償要求の激増の可能性から、反対する声もある。輸血用血液が量的に確保できなくなる恐れもある。すんなり受け入れるわけにはいかないだろう。動物検査の追加の要請については、現在、イギリスは、30ヵ月以上の牛が食用に供されるのを禁止しているという理由で、(EUの再三の要求を拒絶して)他のヨーロッパ諸国よりはるかに少ない検査しか行なっていない。政府は、これも簡単には受け入れないであろう。

 ただ、ノーベル賞学者の提言の重みは格別である。それに、狂牛病はvCJDだけでなく、孤発性CJDとも関連している可能性があるという最近のショッキングな発見もある(狂牛病関連病はvCJDだけではない、孤発型CJDにも関連の可能性,02.11.29)。政府の対応が注目される。

 Test everyone for CJD, says Nobel winner,The Sunday Times,12.1
 Call for national CJD tests,BBCNews,12.1
 vCJD screening may be years away, warns scientist,Guardian Unlimited,12.2
 BSE meat may be riskier to humans than first thought,Independent,12.2