農業情報研究所

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カナダ:30ヵ月以上の牛の特定危険部位除去へ

追補:SRM除去、その他の追加措置と米国の対応

農業情報研究所(WAPIC)

03.7.19

追補:03.7.21

 報道(Canada to change beef slaughtering practices,Globe and Mail,7.18)によるとカナダのヴァンクリーフ農相が、18日、先月の国際専門家チームの勧告に従い、屠殺場での牛の特定危険部位(その範囲は不明)の除去を24日(木曜日)から始めると発表した。ただし、若齢牛の組織は感染性をもたないとして、30ヵ月以上の牛についてのみ実施する。カナダの生産者は、米加市場が高度に統合されているのだから、米国も同様の措置を取るべきだと主張している。

 なお、これに先立つ報道(Canada eyes new mad-cowt tests,,Globe and Mail,7.18)では、政府は、特定危険部位の除去のほか、年末までには全国の屠殺場での「スポット・チェック」のための新たなBSE検査体制を導入すること(より広範な規則的・ランダム検査のオプションも)、牧場・農場で死んだ牛の検査なども考えているということである。生産者は特定危険部位の「部分的」禁止を求め、小腸は除外するように希望してきたという。また、死亡牛の全頭検査は、数が多すぎ、面積も広すぎて、「実際、一部の死体は決して発見できない」から、カナダでは実施は不可能と言っている。

 この実態は、逆に、このように放置されて発見できない牛が感染源となる恐れも生む。カナダには確認された一頭以外に感染はないという主張を傷つけるものであろう。特定危険部位(脳や脊髄などの中枢神経組織)の除去は大部分の感染性を取り除くが、残るリスクは発症もしておらず、検査でも発見されない病気潜伏期の感染牛からくる。感染していないことを完全に保証する手段としては、感染源が完全に断たれていることの実証しかない。

 (追補:03.7.21)

 1.特定危険部位除去とその他の追加措置

 7月18日の農業食糧省と保健省の共同コミュニケ(GOVERNMENT OF CANADA ANNOUNCES NEW BSE MEASURE)は、「この新たな措置は屠殺に際して牛の特定危険部位(SRM)の除去を強制する。この政策は、現在の科学と、BSEの唯一のケースについてカナダによりなされた調査を評価した国際専門家チームの勧告を考慮するものである」、「発表された措置は、30ヵ月齢以上の牛の屠体の脳と脊髄のような部位の除去を要求する。科学的研究は、30ヵ月に達しない年齢の牛においては、これらの牛は感染性を有するいかなる病源体も隠しもたないことを証明した。小腸の一部は、すべての牛の屠体から除去されることになる」。

 これによっては、30ヵ月齢以上の牛のSRMが脳・脊髄になるのか、それとも国際専門家チーム(カナダ:専門家報告書、BSE存在のリスク確認、危険部位排除勧告,03.6.30)が示唆した「脳・脊髄・三叉神経節・背根神経節・回腸遠位部・扁桃」になるのかはっきりしない。すべての月齢の牛のSRMとされる「小腸の一部」というのも、具体的にどの部分になるのかは不明である。牛の月齢については、国際専門家チームは、「科学と実際的可能性を考慮して」定めるべきとカナダの判断に任せたが、カナダは30ヵ月に達しない牛の脳や脊髄など(脳と脊髄のほかに別の部位を含めるのかどうか不明)には感染性がないと科学的に証明されていると判断した。ただし、具体的にはどこかはっきりしない小腸の一部は、30ヵ月未満の若い牛でも感染性をもち得ると判断したことになる。

 ちなみに、EUは、SRMを次のように定めている。これも利用できる最新の「科学的」知見に基づいて定められたものである。

 「(1)12ヵ月以上の牛の脳と眼を含む頭蓋、尾の椎骨・腰椎と胸部椎骨の横突起を除くが背根神経節は含む脊柱、脊髄。全年齢の牛の扁桃、十二指腸から直腸までの腸、腸間膜(脊柱に関して定められた牛の年齢は、規則に定められたBSEモニタリングの結果に基づく年齢群別のBSE発生の統計的確率に照らして、この規則の修正により調整することができる)。

 ただし、脊柱と背根神経節は次の場合には使用が許される。
 (a)国産牛におけるBSE発生がありそうもないか、ありそうもないがないとはいえないと科学的評価が確認したEU構成国で生まれ、育てられ、屠殺された牛、(b)国産牛におけるBSEが報告されているか、科学的評価が国産牛におけるBSE発生がありそうだと確認したEU構成国において、反芻動物への哺乳動物蛋白質給餌の禁止が有効に執行された日付以後に生まれた牛。
 このような例外措置を受ける国は、(イ)BSE発生がありそうもない構成国内の牛の密度が低い遠隔地域の死亡牛を除き、農場で、または輸送中に死んだが、人間の消費用に屠殺されたのではない30ヵ月以上のすべての牛、(ロ)人間消費用に正常に屠殺された30ヵ月以上のすべての牛、に対して実施される承認されたBSE簡易検査を行うものとする(この例外措置は英国とポルトガルの30ヵ月以上の牛については与えられない)。例外措置を受ける国は、これらの条件を満たす証拠を提出しなければならない。欧州委員会の専門家が、提出された証拠を検証するための事前通告なしのチェックを実行する。

 (2)12ヵ月以上の羊と山羊の脳と眼を含む頭蓋、扁桃、脊髄。すべての年齢の羊と山羊の脾臓、回腸。

 (3)英国、北アイルランド、ポルトガルについては、以上に加え、6ヵ月以上の牛の舌を除き、脳・眼・三叉神経節・扁桃を含む頭全体、胸腺、脾臓、脊髄がSRMとして指定されねばならない。

 なお、骨に附着して残存する肉を骨ごと砕いて篩い分け、採取する機械的回収肉の生産のために牛・羊・山羊の骨を使用してはならない。」

 国際専門家チームは、機械的回収肉(骨ごと粉砕して附着した肉を篩い分け・取り出した安価に販売されるミンチ肉)または先進的回収肉(先進的食肉回収システムにより生産される肉で、機械的回収のように骨が圧搾・粉砕されないといわれる)の原料からの感染性組織を含み得る組織(頭蓋、脊椎)の排除も勧告したが、カナダの今回の発表は、これには直接は触れていない。全月齢の「小腸の一部」を考慮したのは、検査のよっても発見できない病気潜伏段階の感染牛の腸などがもつ感染性を危惧するEUの措置に一歩近づくものであろう。この点は日本の措置よりも先に進むことになる。

 なお、共同コミュニケは、特に飼料のコントロール(反芻動物に肉骨粉を含む飼料を与えることを禁止する措置)のサーベイランスや見直しのような他の措置についても、州や地方自治体、産業、関係者と協議を続け、近い将来にこれらの追加措置に関するアプロ−チについても決定するとしている。

 2.米国の対応

 上記のようなカナダのSRM除去の措置の導入の発表を受け、米国の農務長官・アン・ベナマンは、18日、この問題でカナダが迅速に動いたことを高く評価するとの声明を出した(Secretary of Agriculture Ann M. Veneman Regarding Canada’s Decision to Remove Specified Risk Material from Food Products)。ただし、米国政府の具体的対応ははっきりしないままである。同日、担当官と通信員等との質疑応答がなされたが、主要なやりとりは次のとおりである。

 (1)米国は同様の措置を取るのかどうか、カナダの発表は禁輸緩和を促すことになるのか。そのタイム・スケジュールミングは?(ロイター通信員)。

  (回答)科学に基づいて決定すべきこと。カナダではBSEが発生したのだから、カナダの取った措置は理解できる。消費者保護のために必要とあらば、我々に何が必要か我々が評価する。プロセスにどれだけ時間がかかるか予測できない。これまでに取られた措置は米国にはBSEがないことを保証すると考える。

 (2)カナダに対する禁輸解除には、さらに何が必要なのか(カナダテレビ通信員)。

  (回答)カナダの措置をわが国の貿易相手国がどう見るかを見極めねばならない。

 (3)科学を満足させる決定が一層政治的な決定になるのではないか。

  (回答)BSEについてはなおわからないところがあり、リスクは現時点で利用できる情報によって評価するものである。ハーバードのリスク評価(米国:ハーバードの研究、狂牛病リスクは極少、専門家は批判,01.12.1)は米国におけるBSEのリスクが非常に低いことを示している。

 (4)カナダは飼料についてさらなる手段を講じるとしているが、米国ではどうか。

 (回答)病気拡散防止には肉骨粉飼料禁止の執行が決定的に重要。カナダの飼料禁止の執行は、確かに措置の中心要素であるが、米国ではFDAが規制し、執行している。

 (5)特定危険部位について、米国はカナダの貿易相手国より低く、緩い基準をもつことになるのか。

 (回答)一方では統合された北米市場、他方ではカナダではBSEが発生し、米国では発生していないという事実がある。両方を考慮した答えを見つけるのが目標。

 (6)カナダと米国の牛肉を分離せよという日本の要求にどう対処するのか。

 (回答)日本は米国牛肉の重要市場であり、健全な科学に基づいて、9月1日まで、日本の要請に応える方法を交渉する。

 (7)米国の死亡牛検査は不十分・不適切ではないか。

 (回答)国際基準をはるかに上回る数の検査をしており、検査対象も高リスクの動物に絞られている。しかし、将来の見直しがあり得る。

 BSEのリスクはないことを前提とした「科学」信仰と、貿易に関連した実際的な経済的利害への配慮の間で揺れ動く米国の現状を浮き彫りにしているようだ。輸出市場に依存し、日本など第三国の措置に直面する米国は一方的には行動できないのではないかとのカナダ・「グローブ・アンド・メイル」の通信員の最初の質問に、「我々は明らかに健全な科学に基づく決定を望んでいる。多くの国がBSEからのリスクを軽減するために使用する異なる基準をもっている。従って、探求しなければならないことの一つは、我々の輸出市場におけるこれらの異なる基準をどう和解させるかということである。これは確かに考慮するが、健全な科学に基づく決定の枠組みのなかでそれを考慮している」と答えるにとどまった。