米国農務省(USDA)、カナダ生体牛等輸入解禁を提案

農業情報研究所(WAPIC)

03.11.4

 10月31日、米国農務省(USDA)は一定の反芻動物・反芻動物製品の輸入を通じて米国に牛海綿状脳症(BSE)が入り込むリスクが最小限であるとみとめられる地域(国)カテゴリーを新たに設けるためのBSE規則修正案を発表した。同時に、5月にBSE発生が確認されたカナダをこのような国の分類し、禁止されていた生体牛等のカナダからの輸入を再開する案も発表した。この案については来年1月5日までコメントを受けつけ、コメントを斟酌して最終的決定をすることになる。最終決定の時期はコメントの中身を見るまでは確定的なことはいえないという。

 USDAの動植物衛生検査局(APHIS)獣医課(VS)は、BSEリスクが最小限の地域をBSE発生が確認されたがその地域からBSEが米国に侵入することをありそうもなくする措置が取られた地域、あるいはBSE発生が確認されていないがBSEがまったくないとは考えられない地域と定義、このような地域を国際獣疫事務局(OIE)がリスク最小限とする基準に基づいて定めることを提案した。

 VSは、このようなBSEリスク最小限地域の基準として、

 1)この病気の広範囲への拡散や病気の定着を防止するための適切な措置が維持されており、BSEが確認された地域の場合にはBSE確認に先立ってリスク軽減措置が取られていること(これらの措置としては、感染反芻動物が輸入される可能性を最小限にするのに十分な動物輸入制限、およびと反芻動物がBSEに曝される可能性を最小限にするのに十分な動物製品と反芻動物蛋白質を含む動物飼料の輸入制限、OIE勧告のレベル以上のBSEサーベイランスの実施、反芻動物への反芻動物蛋白質給餌の禁止とその遵守をあげる)、

 2)BSEが発見された地域の場合、BSE確認後の疫学的調査がBSEのさらなる侵入または拡散を防ぐ措置に適切性を確認し、またそのような措置を継続すること、

 3)BSEが確認された地域の場合、BSE発生後、必要に応じて追加的なリスク軽減措置が取られたこと、を提案する。

 このような基準に基づいてカナダのリスクを評価した結果、カナダから米国にBSEが侵入するリスクは最小限と評価された(APHIS:Risk Analysis)。

 このようなリスク評価に基づき、一定の条件付きで、カナダのBSE確認以来禁止されてきた次の動物及び動物製品のカナダからの輸入再開が提案されている。

1)すぐに屠殺される30ヵ月以下の牛、

2)指定のフィードロットに移動して肥育され、30ヵ月以下で屠殺される牛、

3)すぐに屠殺される12ヵ月以下の羊と山羊、

4)指定のフィードロットに移動して肥育され、12ヵ月以下で屠殺される羊と山羊、

5)すぐに屠殺されるシカ科の動物、

6)30ヵ月以下の牛からの生鮮(冷蔵・冷凍)肉、

7)30ヵ月以下の牛の生鮮(冷蔵・冷凍)屠体または二分体、

8)生鮮(冷蔵・冷凍)牛レバー、

9)生鮮(冷蔵・冷凍)牛タン、

10)12ヵ月以下の羊・山羊からの生鮮(冷蔵・冷凍)肉、

11)12ヵ月以下の羊・山羊の生鮮(冷蔵・冷凍)屠体、

12)狩猟による野性反芻動物製品、

13)農場で飼育されたか、狩猟農場で狩猟されたシカ科動物からの生鮮(冷蔵・冷凍)肉、

14)狩猟された野性カリブー・ジャコウウシ・その他のシカ科動物からの生鮮(冷蔵・冷凍)肉、

15)一定のタイプのゼラチン、獣脂、内臓。

 ただし、輸入され・直ちに屠殺される30ヵ月以下の牛の輸入は、トラックが直接屠殺場に行くことを示す証明をせねばならず、牛が30ヵ月以下であり、生涯反芻動物蛋白質を与えられていないことが認証されねばならない。また、感染早期に病原体が潜むとされる回腸遠位部の除去を確実にするために、米国工場で「腸」が除去され、適切に処分されねばならない。フィードロットに向けられる牛についても類似の条件が課される。

 生鮮牛肉については、30ヵ月以下の牛だけを屠殺する屠殺場、または30ヵ月以上の牛の屠殺場所と隔離された屠殺場所で屠殺された牛からのもので、腸は除去され、米国基準に従って加工されたものでなければならない。屠体全体・二分体についても類似の条件を課される。レバーは純粋なレバーでなければならず、空気注入以外のスタンニング(屠殺に先立ち牛を気絶させる)方式を取ったものでなければならない。牛のタンについては、反芻動物蛋白質飼料禁止(カナダでは1997年)後に生まれ、生涯反芻動物蛋白質を与えられていない牛であることが検証されねばならず、扁桃が除去されねばならない。

 この発表に伴って行われた記者団との質疑応答で特定危険部位(SRM)についてカナダが取った措置と調和する措置を取るのかという質問が出たが、米国が輸入を認めたものは米国のものと同様に安全なのだから米国が取ってきた政策を続けるという答えがあった。カナダは30ヵ月以上の牛の脳・脊髄・三叉神経節・背根神経節・回腸遠位部・扁桃とすべての月例の牛の「小腸の一部」をSRMとして除去している。

 また、30ヵ月以下の牛は安全としたことについて、英国や日本ではずっと若い牛のBSEも発見されているという追及もあったが、これはよほど大量のBSE病原体を取り込んだ例外的な場合としか考えられず、リスクは微小と答えられた。

 これでは日本への輸出に支障が出るのではないかという質問には、貿易相手と協力して問題解決に向けての取り組みを続けると答えるにとどまった。

 なお、同時に、カナダでのBSE発生を受けてUSDAがハーバード大学に委嘱した米国自身のBSEリスク評価の結果も発表された(Harvard Risk Assesment ; Appendix 1; Appendix 2; Main Text Figures )。2001年の評価(米国:ハーバードの研究、狂牛病リスクは極少、専門家は批判)と同様、米国にBSEが存在する可能性はほとんどないという結論である。1990年までの英国からの牛の輸入により、500から600頭がBSEに感染し、その25%が発病したと考えられるが、それらはすべて淘汰されており、97年の反芻動物蛋白質飼料の禁止によって、これらの牛からのBSE拡散もないという。1996年から98年までのカナダからの輸入では新たに2頭が感染した可能性はあるが、それも97年の飼料規制により、それ以上の拡散はない。この規制の執行が不十分であったとしても、現在BSEが存在する可能性はきわめて低いという。

 わが国はカナダ産牛・牛製品の輸入を禁止しており、米国は9月から30ヵ月以下の牛の骨なし肉の輸入を再開した。米国経由でのカナダ産牛肉の輸入を防ぐために、米国内で処理された牛肉であるという輸出証明がなければ輸入を認めないという措置が取られている。しかし、生体牛の輸入も解禁となれば、これでは米国経由の輸入は防げないことになる。カナダ産牛肉の輸入の禁止を続ける以上、米国からの輸入品がカナダ産ではないことを証明する別の制度が必要になる。しかし、これをめぐる米国との交渉は困難を極めそうである。USDAは先頃、義務的「原産国」表示の提案をしたばかりであり、実現の時期はいつになるかわからないし、実現の可能性さえ疑われる状況にある。しかも、この案ではカナダに居た牛も、60日以内ならば米国原産となる(米国:食品原産国義務表示ルール案発表、一部カナダ経由牛も米国産)のだから、「米国原産」の表示も100%米国産を保証するものではない。

 米国は、OIEの国際基準に則った今回の提案で安全は十分に保証されると主張するであろう。日本があくまでも米国産・カナダ産の区別にこだわれば、「非科学的」根拠による貿易規制として逆襲される可能性もある。早急に米国のリスク評価を吟味、問題があれば60日以内とされる期間内にコメントを出すべきであろう。同時に、日本国民のリスクの排除を真剣に考えるならば、米国自身のBSEリスクについても独自の評価が必要であろう。ハーバード大学の評価の詳細な検討も並行して行うべきものと考える。

関連資料(上掲以外)
USDA
News Release:USDA ISSUES PROPOSED RULE TO ALLOW LIVE ANIMAL IMPORTS FROM CANADA(10.31)
Trandcript(10.31)
USDA:APHIS(10.31)
Questions and Answers?Current USDA Actions and the Canadian Situation
Bovine Spongiform Encephalopathy; Minimal Risk Regions and Importation of Commodities?[9 CFR Parts 93, 94, and 95]?[Docket No. 03-080-1]
Economic Analysis
Approved Ports-of-Entry for Canadian Trophies, Hunter-Harvested Wild Ruminant Meat and all other low risk products  

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