米国のBSE(第九報):米国消費者団体、BSE対策強化を要求

農業情報研究所(WAPIC)

04.1.17

 米国の消費者同盟、ラルフ・ーダー消費者擁護グループ、パブリック・シチズンや3千万会員を持つアメリカ消費者連盟で構成される安全食品連合は15日、米国におけるBSE発生を受けて農務省(USDA)が発表したBSE対応策の強化策(参照:米国のBSE(第五報):米国農務省、BSE対応新措置発表、北米でのBSE再生産の可能性も高まる,03.12.31;米国のBSE(第七報):監視・検査の強化、特定危険部位除去の問題点,04.1.13)が消費者の安全保護にはなお不十分として、さらなる措置を要求する書簡をベナマン農務長官に送った。それはまた、USDAが提案した新措置は規制の対象となる産業との私的会合の結果からのみ考案されたもので、消費者・公衆衛生団体の代表の意見はまったく反映されていないとして、消費者の意見を聴く公聴会の早急な開催も要求している(Letter to USDA Regarding Mad Cow Disease)。

 それが要求する措置は、牛固体の義務的識別システム、BSEのサーベイランス(監視)と検査、消費者への情報提供と製品リコールの権限、肉製品中の中枢神経組織の扱いに関係する。

 全国規模での牛識別・トレースシステムの義務化

 書簡は第一に、すべての動物の屠畜場から出生農場までの追跡を可能にする完全に執行可能な全国規模の牛識別・トレースの義務的システムの制定を要求している。それは、BSE感染牛の追跡を可能にするだけでなく、異常に大量の病源体を持って屠畜場に入る牛の出自の発見も可能にすると言う。すべての牛は出生時にタグを付けられ、追跡のために屠殺時まで保持されねばならない。これはUSDAの新措置にはまったく含まれていない。

 サーベイランスの強化と検査の拡充

 USDAは、ダウナーカウ(BSEの典型的症候である起立・歩行が困難な牛)や中枢神経系(CNS)の病気の症候を示す牛をランダムに選び、昨年は2万頭のBSE検査を実施した。今年は、この検査を3万8千頭まで増やすとしている。しかし、このような牛を食用に屠殺することは昨年12月30日から禁止したから、それが発見されるほとんど唯一の場所であった屠畜場には、基本的には出てこなくなる。何よりも、こうした牛をどこでどう見つけるかが問題になるが、USDAは今後はレンダリング工場で監視するとしているだけで、こうした牛の多くは違法に処理・処分されることになる可能性が高い。3万8千の検査サンプルの採取自体が可能かどうかも分かっていない。今後も、このような牛が食用にまわるケースが多発するであろうことは想像に難くない。この問題は、上記の識別・トレースのシステムの確立と監視を農場レベルまで拡張する監視の強化によってしか解決できないだろう。USDAはこのような措置は何も打ち出していない。

 それでも、検査官の人員は圧倒的に足りず、症候を見分ける能力もない検査官も多いから、こうした牛が屠畜に持ち込まれ、素通りしてしまうケースもなくならないだろう。現にパブリック・シチズンは、現職2人、前職1人の検査官の証言として、このような牛の屠畜場持ちこみの禁止以後も、これらの牛が食用に屠殺される可能性を指摘している。自家消費するなどとして農家が持ち込んで肉を売ることは可能だし、これを監視することはほとんど行われておらず、検査の訓練をほとんど受けたことのない検査官もいるという。このようなケースは、屠畜場でのBSE検査の実施によって避けることができよう。現在米国では、このような検査を可能にする簡易検査(ラピッド・テスト)は認可されておらず、国内1ヵ所の検査施設で、結果が判明するまでに多大な時間を要する免疫組織化学的検査が可能なだけである。USDAは、ようやくヨーロッパや日本で採用されているラピッド・テストの認可を検討し始めたばかりである。

 書簡は、米国におけるBSEの発生率の決定と、BSEに感染した牛が動物飼料と人間の食品として利用されるのを最小限にするために、サーベイランスと検査の改善が必要だとし、屠畜場での検査と農場で死んだ牛のBSE検査を即刻増やすことを要求している。

 それは、ダウナーカウを食用から排除するというUSDAの決定は歓迎するが、症候を示さない感染牛が屠畜場に入ることを恐れると言う。ヨーロッパの感染牛の多くはダウナーカウでもなければ、CNS病の症候も示していないのだからと、20ヵ月以上の健康に見える牛に検査を拡大することを要請している。「20ヵ月以上」という区切りは、恐らく英国での最小月齢での発症例や日本における21ヵ月の感染牛の検査による発見例を考慮したものと思われる。同時に、ダウナーカウまたはCNS病の症候を示す牛の全頭検査も要求している。

 この検査を費用効率的に実施するために、ラピッド・テストの即時の承認を要請、それによってBSE陽性の牛が食用に利用されるのを防止し、同時に24時間以内に結果が判明するからリコールの必要性もなくなると言う。また、BSE陽性牛が動物飼料に利用されることがないように、動物飼料用に加工されるすべてのダウナーカウがBSE検査を受ける必要があるとも言う。現在の食品医薬局(FDA)のルールでは、ダウナーカウ副産物を豚や鶏の飼料として利用することは可能であり(最初のBSEのケースもダウナーカウの疑いが濃厚であったが、その肉は人間の食用として出荷され、脳・脊髄等の危険部位を含む副産物はレンダリングに回されていた)、かつ鶏が食べの残した餌は、その羽ともに牛の飼料とすることも認められている。また、ダウナーカウの血液で子牛を飼育することも可能である。これによってBSEが拡散している可能性は否定できない。このような現状を踏まえての要求である。

 消費者への情報提供とリコールの権限の強化

 最初のBSEのケースの肉を含む1万ポンドの肉がどこで販売されたか、消費者は適切な情報を与えられていない。書簡は、消費者がこの肉を購入したか、食べていたかもまったく分からない状態に置かれており、これは、現在のリコールのシステムが任意のもので、義務的なものでないことが一因だと指摘する。また、リコールが迅速さを欠くために、消費者が無用なリスクに曝されているとも言う。それは、このような肉を受け取った店やレストランの名前の公表を要求、また、USDAはブッシュ政府と議会に対し、USDAのリコール当局に肉に関するリコールの権限を与えるように要求すべきだと述べている。

 肉製品中の中枢神経組織

 書簡は、肉製品にCNS組織が含まれてはならないという基準のUSDAによる厳格な執行と、先進的食肉回収(AMR)に脊柱または頚骨を使用することの禁止を求めている。肉製品に機械的分離肉(機械的回収肉、機械的除骨肉)が含まれることを禁止したことは支持するが、USDA食品安全検査局の2002年の調査によって、AMR回収肉の35%に脊髄その他の中枢神経組織の破片が見つかっているのだから、このシステムが人間用食品からCNSを完全に排除できないことははっきりしていると言う。

 USDAの新措置は、AMR回収肉が背根神経節、脊椎沿いの脊髄に結び付いた神経細胞破片を含むことも禁止し、30ヵ月以上の牛の脊柱と頭蓋をAMRのために使用することは禁止した。しかし、特定危険部位として指定されたCNSは30ヵ月以上の牛のものだけである。書簡は、消費者は30ヵ月未満の牛のCNSが販売を許されているとしても、それを食べようとはしないだろう、しかし、それはハンバーガーその他の肉製品に含まれている可能性があると言う。従って、最大限の予防原則を適用、30ヵ月未満の牛のものも含むすべてのCNSの人間食料からの排除を確保するように要請する。

 わが国は、米国牛肉輸入再開と条件として、「全頭検査」とすべての牛の特定危険部位の除去をあげているが、米国消費者団体の要求もこれに近い。「全頭検査」と「20ヵ月以上の牛の全頭検査」の安全確保の面での違いは、現在の検査の「検出限界」を考慮すれば、実質的にはほほんどないだろう(20ヵ月未満の牛を検査しても、陽性が確認される例は先ず出ないだろう)。もちろん、肉骨粉が牛の口に入る可能性がまったくないことの確認、特定危険部位による食肉汚染がないことの確認が必要であるが、消費者団体の要求は、わが国の最低限の要求ともなり得よう。ただし、米国牛肉産業団体がこうした要求を飲むことはあり得ない。牛肉産業の利益を最優先する米国政府がこの要求を飲むこともありそうもない。

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