米国のBSE(第五報):米国農務省、BSE対応新措置発表、北米でのBSE再生産の可能性も高まる

農業情報研究所(WAPIC)

03.12.31

 30日、米国農務省(USDA)はBSE対応のための追加的措置を発表した(VENEMAN ANNOUNCES ADDITIONAL PROTECTION MEASURES TO GUARD AGAINST BSE)。これらの措置と考えられる問題点は以下のとおりである。

1.ダウナー牛(起立・歩行困難な牛)の食用禁止。これは即時実施。(ダウナー牛発見のための)BSEサーベイランス・プログラムは継続。

 これに関しては、サーベイランスの厳正な実施ができるかどうか、屠殺に出されなくなるこれらの牛のBSE検査をどうするのか、BSE発覚を恐れてのこれらの牛の闇処分をどこまで取り締まれるかが問題になる。「ファーム・サンクチュアリ」グループは、例えばサウスダコタで、起立不能になった牛が生ゴミのカートに生きたまま放り込まれていた例など、様々なズサンな処分の例を発見している。 

2.製品保管。USDAの食品安全検査局(FSIS)検査官は、動物がBSE検査でシロとなったという確認を受け取るまで、BSE検査を受けた牛が「検査され、パスした」という印を付けない。

 「粗悪な」肉及び肉製品が流通に入るのを防止するために、FSIS検査プログラムのスタッフが米国内で屠殺される牛の生前・死後検視を行う 。生前検視の一環として、FSISのスタッフは、中枢神経系障害の兆候を含む病気の兆候を捜す。この検視で問題ありとされた牛は人間の食用とすることを許されない。

 ここでも「検視」の厳正な実施が問題であろう。また、人間の食用とされないものはどう処分するかも明らかでない。BSEと診断された牛と同様、その危険部位はレンダリングに回されるのだろうか。

3.特定危険部位。カナダで実施したと同様な措置を取る。30ヵ月以上の牛の頭蓋、脳、三叉神経節、眼、脊柱、背根神経節、及びすべての月齢の牛の小腸を特定危険部位に指定、人間の食料供給における利用を禁止する。すべての月齢の牛の扁桃は、既に食用不適とされており、従って食品供給には入らない。すべての月齢の牛の「小腸」を特定危険部位としてのは、感染早期に感染性を持ち始める回腸遠位部の現場での確実な除去を確保するためである。

 牛を屠殺する連邦監視下の施設に対し、これらが食品チェーンに入ることがないように、その除去、隔離、処分の手続の開発と維持を義務付ける。FSISは、公認施設で屠殺される牛の月齢を検証する手続を開発してきた。州監視下の工場も同等な手続えを設けねばならない。

 厳正な実施がなされなければ、特定危険部位除去という米国にとっては画期的な措置も意味がないが、それ以前にも、特定危険部位の定義に関して問題がある。頭蓋等については30ヵ月以上の牛に限定しているが、EUは12ヵ月以上の牛の脳と眼を含む頭蓋、尾の椎骨・腰椎と胸部椎骨の横突起を除くが背根神経節は含む脊柱、脊髄としている。30ヵ月以上とする「科学的」根拠は不明である(注)。また、EUは高発生国の英国とポルトガルの6ヵ月以上の牛の扁桃を特定危険部位としてきたが、最近、扁桃が早期から感染性をもつという英国の研究に基づき、すべての牛の扁桃を特定危険部位に指定した(EU:全年齢の羊・山羊の回腸、牛の扁桃を特定危険部位に、牛の舌の採取方法も変更)。食肉処理に際して、舌に目に見える扁桃が残ってはならないとしてきたが、扁桃を確実に排除するために、これも「舌骨前の舌の後部で斜めに切り取られねばならず、ナイフは各屠殺動物ごとに洗浄され、消毒されねばならない」と改めた。ただし、日本では、特定危険部位はすべての牛の脳と眼(事実上は頭全体)、脊髄、回腸遠位部とされており、最近背根神経節も除去・廃棄することとされたが、扁桃については定めがない。

4.先進的食肉回収(AMR)。AMRとは、適切に行われれれば、骨を含むことなく高圧で骨から肉を取り出す工業的技術である。AMR製品は「肉」と表示できる。FSISは、従来、「肉」と表示される製品に脊髄が含まれるのを禁じてきた。今後は、背根神経節、脊椎沿いの脊髄に結び付いた神経細胞破片を含むことも禁止する。30ヵ月以上の牛の脊椎と頭蓋は食用不適と見なされるから、これもAMRのために使用することは禁止する。

5.空気注入スタンニング。屠殺の過程で牛を気絶させるために行われるスタンニングにより脳組織が屠体組織に拡散しないように、空気注入によるスタンニングを禁止する。

6.機械的分離肉。[肉が残存附着した骨を粉砕、肉を篩い取る]機械的分離肉(機械的回収肉、機械的除骨肉)を人間の食用とすることを禁止する。

 なお、今回のBSEのケースは、反芻動物蛋白を反芻動物に餌として与えることを禁じる前にカナダで生まれ、カナダで汚染肉骨粉を食べた疑いが濃いという発表がされたが、もしそれによる感染が確かであるとすれば、このような肉骨粉がどこから来たのかが問題となる。米国もカナダも英国からは肉骨粉を輸入しておらず、BSE侵入があったとすれば、80年代までにあった少数の生きた牛の輸入を通してのみであった。この牛がレンダリングに回され、他の国内牛の餌に入り、それがもとでBSEが再生産されている可能性は完全には否定できないというのがEUの評価があった。

 反芻動物蛋白を反芻動物に餌として与えることを禁じる飼料規制は、欧州諸国が早くから実施したが、BSE拡散を防げなかった。その最も有力な理由は、豚や鶏の餌にはこの肉骨粉を許していたことから来る「交差汚染」とされている。そのために、肉骨粉全面禁止の措置が取られたのだが、英国[及び日本]ではそれでもBSEを完全には防げなかったことが実証されている。飼料規制が以後の感染を防いでいるという米・加の主張は、こうした現実を無視したもので、甘すぎる。

 今回の調査結果が確認されれば、BSEが北米で再生産されてきたし、なお再生産されている現実的可能性が否定できなくなる。ほかにもBSE感染が十分にあり得るということだ。

 新たな措置は人間の健康保護を目的とするものだが、この状況の下では、特定危険部位の定義の科学的根拠と各措置の実施の厳正さが確認されない限り、米国牛肉・牛肉製品の禁輸解除の決定は不可能だ。BSEの広がり具合を知るために不可欠な検査体制の改善については、今回の発表はまったく触れておらず、この点も不明なままである。このままでは、早期の禁輸解除はあり得ないと思われる。

 (注)(実験ではなく)自然状態でBSEに感染した牛の中枢神経組織が潜伏期のいつから感染性をもちはじめるかは分かっていない。 30ヵ月以下でBSEを発症した牛は少ないが(ヨーロッパで0.05%ほど)、それ以前に中枢神経組織が感染性を持ち始めた牛はもっと多いはずである。おそらく、こういう牛はいないはずというのがこの決定の根拠なのだろう。だが、米国(北米)におけるBSE発生率は検査数が少なく、正確に把握できないのだから、この根拠は疑う余地がある。(EUと同様に12ヵ月以上としても、個体識別システムが不備な米国では月齢を正確に確認できず、実施不能であろう。30ヵ月以上ならば、歯型が変わることで外見から識別できる)。

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