欧州食品安全庁、英国のBSE中リスク国移行に肯定的意見

農業情報研究所(WAPIC)

04.5.14

 欧州食品安全庁(EFSA)は11日、英国(UK)のBSEリスク評価を「中程度」に引き下げることに肯定的に答える意見を発表した。国際獣疫事務局(OIE)の基準に従ってBSEリスク中位国とみなすべきだという英国の要請について欧州委員会が判断を求めていたものだ。意見は、英国のBSE発生率計算に用いられた方法が統計的に妥当なものであるという生物学的危険に関する科学委員会の報告に基づいて、この結論を下した。

 欧州委員会は1989年以来、BSEを理由に英国からの牛と牛製品の輸出を制限する多数の措置を導入してきた。BSEと人間の変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)の関連性が認められた1996年3月からは、食品・飼料連鎖に入り、あるいは化粧品や薬品に使われる可能性のある牛と牛製品の英国からの輸出は、すべて禁止された。これは98年11月から部分的に解除され、現在は「出生日基準輸出計画(DBES)」の下で一定の牛肉・牛肉製品の輸出を認める厳しい貿易規制が適用されている。これは、@牛肉・牛肉製品を生産する牛は肉骨粉の完全排除という英国の飼料規制が再強化された96年8月1日以後に生まれたものでなければならず、Aそ の母牛は子牛が6ヵ月齢になるまで生存し、BSEを発症しなかった、BBSEを発症した母牛から生まれた子牛は淘汰されねばならない、Cこれらの要件を満たすことを立証するためのトレーサビリティーの確立といったことを条件に、屠畜時に6ヵ月齢以上30ヵ月齢未満の牛から生産された骨を除去した牛肉および牛肉製品の輸出を認めるものである。生体牛の輸出は認められていない。これらの貿易規制はBSE「高リスク国」に課されるもので、OIEの基準にもほぼ合致する。

 ところで、EUは、2000年秋にフランスに端を発したBSE危機のなか、BSEリスクのレベルが中位と評価されたスウェーデンを除くEU諸国に対し、2001年から24ヵ月以上の高リスク牛(農場で死んだ牛、事故や病気で処分され、安楽死させられる牛)の全頭簡易検査を義務づけ、同年7月からは30ヵ月以上の食用に屠殺される牛(健康な牛)の死後簡易検査も義務づけた(多くの国は前倒し実施)。従来のBSEを疑われる牛の発見の通報を待って検査を行う「パッシブ・サーベイランス」に加え、このような「アクティブ・サーベイランス」を加えることによるサーベイランスの強化により、従来の「未発生国」でBSEが次々と発見され、既発生国でのBSE確認数も劇的に増加することになった。これにより、アイルランドでは、過去12ヵ月の成牛(24ヵ月以上の牛)100万頭当たりのBSE発生件数が100頭以上という基準による「高リスク国」への転落の恐れさえ生まれた。このアクティブ・サーベイランスの導入により、高リスク牛でBSE陽性となるものは、健康な牛の場合の10倍にもなる、パッシブ・サーベイランスで発見されるBSEは全体のBSEの半分から3分の1にすぎないといったデータも得られることになった。

 これを受け、OIEは地理的BSEリスクが高位であることを示すレベルWをWとXに分け、高リスク国(X)の基準を、過去12ヵ月の成牛100万頭当たりのBSE発生件数が200頭以上と改めた。この国際基準の変更とBSE発生率の激減傾向を受け、英国政府は「中リスク国」への分類変更による貿易規制のEU諸国並みへの緩和を申請したわけだ。英国のBSE発生率がこの基準以下であると認められれば、中位リスク国としての認定への道が開かれることになる。

 ESFAの専門家委員会は、OIEの新規基準自体が「粗雑」なものであると注意しつつも、英国のBSE発生率が95%の信頼限界内で100万頭当たり200頭未満と言えるかどうか検討した。英国の2003年12月末までの12ヵ月のBSE発生率は、英国のサーベイランスの結果に従うかぎり、100万頭当たり122.7頭だった。だが、OIEは、サーベイランスの「質」と関連づけて、その結果から真のBSE発生率を推量する方法は示していない。個体識別システムとトレーサビリティーを確立した上で包括的な簡易検査を実施する大多数のEU諸国のサーベイランスの結果は、高度の信頼度をもって真の発生率の推量に役立つだろう。その場合でも、ある12ヵ月間の結果により、単純に次の12ヵ月間の発生率を推量することには不確実性が伴う。その上、少数の抽出サンプルの検査のみを行うサーベイランスの結果は、(ましてトレーサビリティーが未確立で、高リスク牛が闇に葬られる可能性が高いような場合にはなおさら)、サーベイランスの「質」(BSE発見あるいは見落としの可能性の高低)を考慮することなくしては、真のBSE発生率を推量する的確なデータとはなり難い。

 ところが、英国のサーベイランスは、多くの他のEU諸国のように包括的なものとはいえない。30ヵ月以上の牛はすべて食用から排除するという英国独特のルール(OTM)があるために、他の国が全頭検査している30ヵ月以上の屠殺牛は、一部が検査されるにすぎない。30ヵ月以上の健康な牛で検査されるのは、01年7月から02年8月の間は、96年8月1日と97年8月1日の間に生まれた牛のすべてと、この出生コーホートに入らないランダムに抽出された5万頭だけだった。02年8月からも、96年8月1日以後に生まれた42ヵヵ月以上の牛と、その他の年1万頭が検査されているだけだ。

 専門家委員会は、サーベイランスの結果から真の発生率を推量するためには、飼料規制強化後に生まれたのかどうかも含め、検査された牛の年齢構成、5年後までの成牛のありそうな年齢構成、飼料規制再強化後に生まれた牛がBSEリスクに曝される可能性、BSEの潜伏期間(飼料規制再強化後に生まれた牛でBSE陽性となるリスクが最大となる可能性のある年齢の牛が十分に検査されているか)などを考慮しなければならないとした上で、英国が提出したデータと推量の根拠を吟味した。その結果、02年10月から03年9月までの12ヵ月については、英国のBSE発生率は95%の信頼限界内でOIEの基準を超えているが、明確な年々の変化を考慮すると、04年7月から12月の間には、BSEリスクは中位になると予想した。結論は次のようなものである。

 ・絶対的発生率を計算するために用いられたモデリングの方法は妥当である。

 ・95%の信頼限界内で、英国の牛全体について、04年7月から12月の間にOIE基準による中位リスク国とみなされるようになる強力な根拠がある。96年7月31日以後に生まれた牛については、英国は既に中位リスク国の地位にある。

 ・アクティブ・サーベイランスをもつ国々についての100万頭当たり200頭というOIEの発生率限界は、BSEリスクの粗雑な尺度であることに注意すべきである。

 従って、欧州委員会がOIEの基準自体を問題としないかぎり、英国がBSEリスク中位国となる日は近いだろう。これにより、OTMルールも廃止、検査済みの30ヵ月以上の牛の食用利用の道が開かれる可能性も出てきた。

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