英国:未知の牛脳症、獣医学当局が緊急調査、BSEの新株の可能性も考慮

農業情報研究所(WAPIC)

04.6.9

 牛の未知の病気が出現した可能性がある、これは人間にもリスクをもたらすかもしれないと、英国政府獣医が緊急調査を行っている。8日付のガーディアン紙が伝えている(*)。

 脚が弱り、次第に麻痺状態に陥って5、6日後に死んだ未経産雌牛の検査が、BSEも含むあらゆる既知の病気の要件を発見できなかった。牛の脳の白質を損傷するウィルス感染が2ヵ月ほど前のこの死の原因と考えられている。

 最初、牛乳や食品を通じて人にも危険をもたらす可能性のあるボツリヌス中毒が考えられた。しかし、検査の結果、これは否定された。西ナイル・ウィルス、ダニを通して伝わる羊の跳躍病、その他の既知の病気、検査はすべて否定的だった。獣医学研究所のスポークスマンは7日夜、「公衆への長期的リスクは解らない。病源体も解らないとき、たった一つのケースに拠ってリスクを評価するのは不可能だ。我々は今調査中だ」と語ったという。

 当局者は、この牛の肉を食品とすることは許していないと言う。これは、BSEらしい症候はまったくないが、最近の研究がBSEには一つ以上の株があることを示唆していることを考慮したということだ(**)。BSE発見当初、多くの不確かな情報が公開されず、あるいは隠された。これが後に厳しい批判を浴びることになった。他の獣医や農家には、英国獣医学協会発行の週刊情報誌・Veternary Recordを通じて、すぐに警告が発せられるという。

 わが国専門家は、次々と現われる新たな知見など一向にお構いなし、150万頭の感染牛の危険部位を食べた英国でも最大600人の変異型ヤコブ病(vCJD)患者が出るにすぎない、日本人が最大100頭の感染牛の危険部位を食べて予想されるvCJD患者は0.04人などと繰り返すばかりである。それに加え、0.04としても、これはゼロではない。生き身の人間は分割できないから、ゼロでなければ1とするしかない。しかし、彼らはこれをゼロとみなす。その上で、「リスクの大きさ=ハザードの重大さ×ハザードに出会う確率」というお馴染みの公式に適用するから、リスクは実質的なゼロとなる。だが、ハザードに出会う確率が1なら、ハザードの大きさ=1人の「死」が生きてくる。彼らはそれでも、一人の命くらいで社会全体が大騒ぎすることはない、人一人のために大変なコストはかけれらないと言うだろう。だが、まともな人間なら、「死」のハザードの大きさは無限大だ。実際、不幸にしてこのハザードに出会う人間は、自分の命の価値に値段をつけるなど考えもしないだろう。消費者が怯えるとは当然だ。それをまったく理解しない彼らに、まともなリスクコミュニケーションなどできるはずがない。

 *Vets investigate mystery brain disease in cattle,Guardian,04.6.8
 **参照:羊にBSEの初のサイン、米国ではCJDのクラスター、緊急を要する調査の加速,04.4.8、プリオン病解明に光―プリオンの型が感染性に影響、二つの新研究,04.3.20、イタリアで新型BSE二例、人間の孤発型CJDに似る―新研究,04.2.17。

農業情報研究所(WAPIC)

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