米国飼料業界、排除特定危険部位は脳と脊髄に限れ FDA交差汚染防止案に反対

農業情報研究所(WAPIC)

04.8.18

 全米穀物飼料協会(NGFA)が16日、食品医薬局(FDA)に対し、米国におけるBSE発生状況を知るための農務省(USDA)拡充検査計画の結果が出るまで飼料規制の変更は慎重であるべきだと勧告した。それ以前に変更するならば、すべての飼料から排除すべき特定危険部位(SRM)は30ヵ月齢以上の牛の脳と脊髄に限るべきだと言うNGFA Suggests FDA Consider Banning Brain, Spinal Cord of Certain Cattle as Part of Systems-Based Approach to BSE Prevention But Urges Agency Await Results of BSE Surveillance Data before Changing Existing BSE-Prevention Feed Rule)。この勧告は、先月9日にUSDAとFDAが提案したBSE防止のための新たな飼料規制(米国FDA、BSE感染防止ルール強化を発表、なお抜け穴、実施も何時のことか、04.7.10)へのコメントの要請に応えるものだ。勧告は、米国飼料業界のBSE感染リスクの認識がいかに甘いものであるか、改めて浮き彫りにする。

 USDAとFDAの提案した飼料規制は、従来の「フィード・バン」(血液と血液製品・ゼラチン・残飯・乳製品・豚の蛋白質を除く哺乳動物蛋白質の反芻動物飼料への使用の禁止)に、次のような交差汚染防止策を追加するというものだ。

 @飼料の製造・流通・農場での交叉汚染のリスクを減らすために、ペットフードも含むすべての動物飼料からSRMを除去する。

 A飼料製造・輸送の間に飼料と飼料成分を扱い、貯蔵する設備・施設の専用化を義務付ける。

 B反芻動物飼料へのすべての哺乳動物・家禽(鳥類)蛋白質の使用を禁止し、またダウナーカウや斃死牛のすべての動物飼料への利用を禁止する。

 少なくともBSE発生が否定できない国や地域では、動物蛋白質の飼料への利用を全面禁止しなかぎりBSE感染は防げないないというのが現在の国際的認識だ。新たな提案は「全面禁止」にほど遠く、なおSRMとダウナーカウ・斃死牛を除く大部分の反芻動物の組織の豚や鶏の飼料への利用を許すものだ。その上、ダウナーカウも獣脂製造のためにレンダリング工場に送ることができ、牛の血液や養鶏場廃棄物(養鶏場から排出される寝藁・食べ残した餌・羽・糞)を牛の飼料として利用することも許している。このような甘い規制にさえ、業界は異論を唱えているわけだ。

 NGFAは、すべてのSRM(米国では、30ヵ月齢以上の牛の頭蓋、脳、三叉神経節、眼、脊柱、脊髄、背根神経節とすべての月齢の牛の小腸と扁桃)の排除は「ドラコニアン」で、「業界全体のドラマチックな再編と、最終的には正当性が認められないだろう経済・環境への悪影響を強要する可能性がある」と言う。脳と脊髄に限る根拠としては、感染性の90%は脳と脊髄に集中しているという「科学的証拠」があると言う。SRMは、人間への感染性もあり得るとされる部位だ。まして「種の壁」がない牛への感染の可能性は、すべてのSRMが持つと考えるのが当たり前だろう。この言い分は、余りに常識外れというほかない。もっとも、こんな認識の下で小腸や脊柱まで含むSRMが排除されれば、大量のSRMが環境汚染を招く恐れは確かにある。米国の現状は、実際にはどっちがマシか分からないほど惨憺たるものだ。このような認識自体を改めるのが先決だ。

 このような甘い認識の根源は、米国のBSEリスクは極めて低いという認識だ。NGFAは、ハーバードのリスク評価がこれにお墨付を与えているし、97年のフィード・バンの遵守率は今や99%、ハーバードのリスク評価のときよりもずっと改善されているとも言う。大部分の専門家や議会検査局でさえ、こんなことには強い疑念を示している。NGFAは、USDAの拡充検査が米国のBSEリスクの低さを最終的に確認すると期待しているが、仮にそうなったとしても、検査は任意で、検査標本の選択も作為的であり、たった1ヵ所で内密に行われる最終確認検査の結果さえ疑われるような検査体制では、この結果自体が米国におけるBSE発生状況を正確に反映するとはいえないだろう。このことは、ベナマン長官の息がかからない長をもつ数少ないUSDAの部局である省内監査局さえ確認している(米国農務省監査局、省のBSE検査を批判 省専門家は過去のことと一蹴,07.7.15)。

 だが、NGFAの確信は揺るがない。それは、反芻動物由来のものも含む動物蛋白質の利用は、法的に許された種のための安全で栄養に富む飼料成分として、また環境的・経済的に健全な慣行として、断固支持すると言う。

 NGFAは、反芻動物を含む多種の動物向けの飼料を製造する飼料工場に対し、牛その他の反芻動物に与えることを禁止された哺乳動物由来の飼料成分を扱うならば、専用の工場・施設・生産ライン・輸送手段を使うように要求するFDAの提案にも反対する。それは、飼料工場の自主的な最善慣行としての専用化は勧告するが、一部工場は実行不能と言う。

 他方、反芻動物を含む多種の動物を加工しており、反芻動物用飼料成分を製造・販売するレンダリング施設には専用化を要求すべきと勧告する。この部門は、産業の「ピラミッドの頂点」にあり、交差汚染と下流部門への悪影響の可能性が最大だと言う。交差汚染の可能性は大元で断てるということだろうが、この身勝手な要求をレンダリング業界が飲むはずもない。NGFAの推計では、反芻動物を含む動物種の物質を加工するレンダリング工場は148、反芻動物用飼料成分を製造・販売するレンダリング工場は53ある。

 その他、NGFAは、反芻動物飼料にすべての哺乳動物・鳥類肉骨粉を禁止することには、科学的根拠がないと強く反対、同様に、牛の血液や血液製品の反芻動物飼料への利用の禁止(FDAは、1月のこの提案を取り下げている)にも反対している。

 既存のフィード・バンの政府ベースの監視と執行は強く支持しているが、遵守状況の認証に非政府第三者機関を使うことは支持しない言う。これもおかしな話だ。政府と業界の「癒着」は良く知られたことだ(USDAは「アグリビジネス産業省」、デタラメな米国BSE対策の根源 新レポート、04.7.26)。これでは99%遵守というのも、誰も信用できない。

 最後に、NGFAは、FDAが牛その他の反芻動物に与えることを禁止された哺乳動物物質を利用する施設、また反芻動物飼料を製造するか、反芻動物を飼育する施設に登録を要求することを考慮するように勧告している。ただし、この登録は、FDAと州の飼料監督機関が、その監視の重点を現実に禁止哺乳動物物質を飼料成分として利用し、また反芻動物飼料を製造している施設に置く場合にのみ、考慮すべきだと言う。

 FDAの甘い交差汚染防止策も、当分は実現しそうにない。