米国 新たな狂牛病確認 擬似患畜は? 韓国は輸入再開延期へ

農業情報研究所(WAPIC)

06.3.14

 米国農務省(USDA)のジョン・クリフォード主任獣医師が13日、先週金曜日(10日)に行われた迅速スクリーニング検査で結論保留(inconclusive)と結果が出た牛からの検体につき、アイオワ・エームズのUSDA試験所で行われたウエスタン・ブロット(WB)確認検査で狂牛病(BSE)陽性の結果が出たと発表した。その結果、この牛の狂牛病が最終的に確認されたことになる()。

 Statement by USDA Chief Veterinary Officer John Clifford (DVM) Regarding Positive BSE Test Results,06.3.13
 http://www.aphis.usda.gov/newsroom/content/2006/03/bsestatement3-13-06_vs.shtml

 発表によると、この検体はアラバマの農場の”non-ambulatory”の(自力では横臥位から起立できず、歩行が困難な)牛から採取された。地方の民間獣医が安楽死させて検体を採取し、スクリーニング検査のためにジョージア大学のUSDA契約診断試験所に送った。この牛は農場で埋められ、飼料・食料チェーンには入らなかったという。

 クリフォード主任獣医師は、この牛の出自牛群に関するさらなる情報を集めるために、アラバマ動物保健当局と協力して疫学調査を行うと言う。今のところ分かっているのは、この牛が最後にいたアラバマの農場にきてから1年経っていないこと、年齢は恐らく10歳を超えているだろう(その根拠は十分には説明さfれていない)ことくらいのようだ。今後、出生農場やその後に移動した農場を突きとめ、この牛の出生コーホート(この牛の出生時の前後1年以内に出生農場で生まれた牛)とその子(いわゆる擬似患畜)を追跡、確認せねばならない。米国には個体識別・トレーサビリティーシステムが完備されていないから、以前の2例の場合と同様、これは難航を極めるだろう。

 これは、米国産牛肉の安全性に対する疑念を改めて掻き立てる。主任は、「世界中の経験は、1牛群、または感染牛の子の1頭以上にBSEが発見されるのは高度に異例であることを示してきた」と、擬似患畜からくるリスクの低さを強調する。恐らくは既に食料・飼料に利用されてしまっているであろう擬似患畜のリスクを事実上無視しているわけだ。

 しかし、世界の経験は、この見方を必ずしも支持しない。EU15ヵ国の検査結果によれば、高リスク牛(死亡牛、緊急と殺牛など)、健康な牛、擬似患畜の検査数に対するBSE陽性件数の比率は次のとおりだ。

 EU15ヵ国のBSE検査頭数に対するBSE陽性牛頭数の比率(1000分比)

 

2001年

2002年 2003年 2004年
高リスク牛 0.84 0.90 0.60 0.38
健康な牛 0.03 0.03 0.02 0.02
擬似患畜 0.28 0.26 0.30 0.31

 出所:欧州諸国のおけるBSE検査結果

 擬似患畜にBSEが発見される可能性は、健康な牛の10倍程度かそれ以上だ。2004年、ドイツは検査された1311頭の擬似患畜に2頭、ポルトガルでも1217頭に2頭の陽性牛が発見されている。米国の1牛群に1頭以上の感染牛が発見されるのは「高度に異例」とは保証できない。

 しかも、今回のケースは10歳以上の高齢牛で、主任は感染源は1997年のフィードバン以前の狂牛病汚染飼料である可能性が高いというから、擬似患畜もこのような高度に危険な飼料を食べさせられていたであろう。既に出回ってしまった擬似患畜に感染牛が含まれた可能性は決して排除できない。しかも、当時は特定危険部位規制は一切なかった。

 2000年秋にヨーロッパを襲った狂牛病危機は、と畜場で感染牛が発見されたとき、この牛を出荷した農場の他の牛が既にと畜に出され、カルフールの店舗に出回ってしまっていたことから発生した(狂牛病の欧州化、グローバル化,2001.4)。米国で今起きている事態は、もしそれがヨーロッパで発生したのなら、パニックが生じていたほどの重大な事態なのだ。

 米国の楽観主義は度し難いものだ。主任は、2004年6月以来の拡大サーベイランスは米国におけるBSE発生率が極めて低いことを示していると、人間のリスクはないことを強調する。しかし、このサーベイランスの結果が信頼できないことは、USDAの内部監査局が立証しているのだ(米農務省BSE対策監査報告 米国のサーベイランスによるBSE発生率推計は信頼できない,06.2.4)。それにもかかわらず、主任は、今回の発表で拡大サーベイランスを縮小、「維持サーベイランス」に移行させることを示唆している。

 彼は、国際ガイドラインに基づく維持サーベイランス検査の継続を確約、「維持サーベイランスの性質と程度はなお最終決定されていないが、この国におけるBSE発生率は極度に低いままであり、我々の重なり合ったセーフガードは人間と動物の保護のために機能しており、我々は依然として米国牛肉の安全性を大いに信頼している」と言う。擬似患畜からくるリスクの回避不能に加え、サーベイランス縮小は米国牛肉の安全性をさらに疑わしいものにするというのにだ。

 わが国農水省も、米国の新たなBSEの発生は輸入再開に関する決定に大きな影響はないと見ているようだ(ロンドンでの中川農相の11日の発言)。米国産牛肉に背骨が見つかったという香港からの新たな情報を受け、関心は特定危険部位除去にかかわる問題にますます集中する気配だ。13日の石原事務次官の記者会見での関心も専らこの点に集中した。次官は「それがあくまで特例なのか、単なる一例なのか、それともあるいは構造的なものなのかというのが一番の争点と言うだけだ(http://www.kanbou.maff.go.jp/kouhou/060313jimujikan.htm)。

 しかし、「特例」なのか、「構造的なもの」なのかがどう見極められるというのだろうか。香港に背骨つき牛肉を輸出した食肉工場は日本に入ってきた背骨つき牛肉を生産した工場と同じと言い、この工場については日本の査察団が日本への輸出プログラムを順守しているとお墨付きを出している。こんな査察で見極めができるものでないことだけは確かだ。どうせうやむやに終わるであろうこんなことの確認にエネルギーを割く前に、米国産牛肉のリスク評価を一からやり直さねばならない。

 なお、韓国は米国での新たな狂牛病確認を受け、決めたばかりの輸入再開を先延ばしするようだ。韓国からの報道によれば、農林省担当官は、「最新の狂牛病発見のために米国産牛肉輸入手続の承認はいくぶん延期されるだろう」と語った。ただし、狂牛病に罹った牛が10歳以上で、自動禁止のルールは適用されないから、すべての輸入手続の停止には動かないだろうという。韓国は1月、国際獣疫事務局(OIE)のガイドラインに従い、30ヵ月以下の牛からの骨無し肉に限っての輸入再開を認めたが、その 際の取り決めでは、韓国は1998年4月以後に生まれた牛が狂牛病になった場合には、自動的に輸入を停止する権利を持つとされているという。

 S. Korea to delay U.S. beef imports following mad cow case,Yonhap,3.14 
 http://english.yna.co.kr/Engnews/20060314/640000000020060314112210E5.html

 (注)確認検査の手続では、スクリーニング検査で結論保留の結果が出た場合、エームズの国家獣医局試験所(NVSL)においてもう一回の迅速検査と免疫組織化学(IHC)検査及びWB検査の二つの確認検査を行うことになっている。そして、二つの確認検査のどちらかで陽性反応が出た場合には、USDAは狂牛病陽性とみなすことになっている。

 関連情報
 米国で狂牛病を疑われる牛発見 確認されれば輸入再停止もと韓国農林省,06.3.13
 韓国 米国産牛肉輸入再開に合意 31ヵ月齢より若い牛の牛肉、ただし骨付き肉は除外,06.1.13