EFSA 羊のBSEリスクを定量評価 人間のリスク回避には感染羊排除のみ

農業情報研究所(WAPIC)

07.4.20

 EUの 欧州食品安全機関(EFSA)が先月、羊の肉・肉製品の人間にとってのBSE(狂牛病)リスクの定量評価に関する意見を発表した。

 QUANTITATIVE RISK ASSESSMENT ON THE RESIDUAL BSE RISK IN SHEEP MEAT AND MEAT PRODUCTS(Opinion of the Scientific Panel on Biological Hazards),07.3.15

 紹介がいささか遅れたが、日本では未だ一般的には紹介されていないようだから、その概略を記しておく。

  BSEは、自然状態にある(実験的に感染させるのではなく、農場で飼育されている)羊には発見されてこなかった。しかし、羊が実験的にはBSEに感染することは早くから知られており、自然状態にある羊にBSEが存在する理論的可能性は否定できなかった。

 そして、羊のBSEが、古くからその存在が知られ、人間には伝達しないとされてきた伝達性海綿状脳症(TSE)・スクレイピーのなかに隠れて現実に存在するのではないかという疑いが強まるなか、スクレイピーのなかに隠れているBSEを発見する努力が英国で2001年に始まった(英国:羊のBSEへの対処プランを公表,01,9.28)。それは後にEU全体の動きとなり、羊のTSE検査が強化されるとともに(EU:羊と山羊の海綿状脳症(TSE)検査を拡充,02.2.15)、TSE陽性の羊のBSE検査がBSEとスクレイピーを区別できる検査によって行われてきた。

 さらに、2005年、フランスの1頭の山羊にBSEが確認されると(フランスの山羊、BSEと正式確認,05.1.31)、この検査は一層拡充された。2002年以来150万頭の羊がTSE検査され、スクレイピーとBSEを区別する検査をしたすべての羊がBSE陰性だった。

 定量評価において最も重要なことは、自然状態の羊のなかにBSEに感染したものがどれほどいるかということである。この検査結果からすると、このような羊はゼロのように見える。

 しかし、この意見は、この検査結果では、羊の集団の中にBSEが存在する可能性を”統計的には”排除できないとする。そして、統計的モデルに基づく推定によると、過去に最大のBSE発生を見た英国では、食用にと殺される10万頭につき平均0.7頭、最大2.2頭がBSEにかかっている可能性がある、英国+アイルランド+ポルトガル+フランスではこの数字は0.10、0.29になるという。

 そして、意見は、このような羊から生じる人間のリスクを最小限にするために今までに取られた特定危険部位(SRM)除去では消費者保護に限界があると明言する。現在のSRMは、脳・脊髄・脾臓だが、実験結果は異常プリオン蛋白質がすべての動物組織に広がり得ることを示している。さらに、過去の意見は羊のBSEの人間への伝達の種間バリアは存在しないと確認しているという。

 ということは、自然状態で発生し得るBSE感染羊からの人間の健康リスクは、感染羊の食料からの排除によってしか排除できないということだ。

 従って、求められるのは、検査を含めたBSE感染羊を発見するためのあらゆる努力ということになる。

 この意見から推測するかぎり、一定のBSE発生を見ている日本も羊のBSEリスクはゼロとは言えそうにない。死亡羊や病気の羊の食料からの排除の徹底、検査の強化などが必要かもしれない。しかし、今のところ、日本ではこんなリスク評価はまったくない。