米国で高まるカナダBSEへの不安 自国の問題には無頓着

農業情報研究所(WAPIC)

07.7.7

  カナダの最新のBSE発生確認(カナダ産牛11例目のBSE 交叉汚染で新たな感染が続く国が「管理されたリスク」国?,07.5.4)で、米国牛肉産業関係者の間で義務的食肉原産地表示の早期実施を要求する声がにわかに高まっている。

 それは、1997年のフィードバンにもかかわらずBSE発生が相次いでいることによるカナダ産牛肉の安全性への疑問を反映している。だが、これらの疑問はそっくり米国自身にも向けられるべきだということには全く気づいていないようだ。

 米国では 義務的原産国表示(COOL)は法的には2004930日までに実施されることになっていた(米国:食品原産国義務表示ルール案発表、一部カナダ経由牛も米国産,03.10.28)。しかし、この期限は延々と引き延ばされてきた。今のところ、2008930日まで実施の予定はない。

 カナダ産牛肉については、2003年にカナダ国産牛初のBSEが発見されたのち、輸入を禁止したが、2006年には30ヵ月齢以下のカナダ産牛と箱詰め牛肉の輸入が許された。そして、農務省(USDA)は今年1月、30ヵ月齢以上の牛の輸入も許すことを提案した。

 この状況の中で、新たなBSEが発見され、原産地表示早期実施を要求する動きと声が高まっているという。 

 Environmental News: Canada's Tenth Mad Cow Rouses Concern South Of The Border,Cattle Network,5.4

 上の記事からこれらの動きと声を抜粋すると次のとおりだ。

 ・ドーガン上院議員(ノースダコタ、民主党)

 54日、USDAは、消費者が食肉の原産国を知ることができるシステムが実施されるまではカナダ牛の輸入を拡大してはならないする法案を提出。

 その発言

 「もはやCOOL実施を延期するいかなる理由もない。消費者には、肉がどこから来たか知り、現在の状況下でディナーのテーブルにカナダから来た牛肉を乗せるかどうか自身で決定する権利がある」。

 「カナダで狂牛病問題が継続していることは明白であり、アメリカ人家族は牛肉がカナダから来たものかどうか知る権利を持つ」。

 「それがアメリカの重要産業をこのような明白な危険をもたらしているときに、カナダ産牛肉の輸入再開をこうも急ぐことはまったく不可解だ。カナダ人が問題を抱えていることに同情はするが、我々には第一に自国の牛肉産業の利益に奉仕する義務がある」。

  ノースダコタのコンラッド上院議員(民主党)、ワイオミングのエンジ上院議員(共和党)がこの法案の共同提案者となった。

 ・ナショナル・ファーマーズ・ユニオン

 「USDAがカナダとの国境を再び開き、199931日以後に生まれた生きた牛とあらゆる月齢の牛の肉の輸入を許すことを提案したことを考えるとき、これはますます不安を掻き立てる。カナダとの国境は、義務的COOLが実施され、カナダが問題がコントロール下に置かれていること[つまり、カナダは“管理(コントロール)されたリスク”国であることWAPIC]ーを証明できるまで、閉鎖を続けるべきである」。

 ・全米牧場所有者・牧牛業者訴訟財団(R-CALF USA

 「USDAは、米国の牛群、米国の輸出市場、米国の消費者をカナダで広く広がっているBSE問題から適切に護る責任を果たさなかった」。

 「非常に限定された数の検査にもかかわらず、1997年のフィードバン実施以後に生まれたカナダ牛6頭にBSEが確認されたーカナダのフォードバンは病気の拡散を防ぐのに有効だったというUSDAの主張にもかかわらず、だ」。

 カナダ産牛肉の安全性に関するこれらの不安の声は、日本からはそっくり米国に向けても発せられるべきものだ。訂正する部分があるとすれば、R-CALF USAの「非常に限定された数の検査にもかかわらず、1997年のフィードバン実施以後に生まれたカナダ牛6頭にBSEが確認された」という発言を、次にように置き換えるだけだ。

 「国際基準を満たすBSE検査はしていても、1997年フィードバン以後に生まれた牛のBSEは一件も確認されていない。これは作為的検体収集(米農務省BSE対策監査報告 米国のサーベイランスによるBSE発生率推計は信頼できない,06.2.4)に加え、検体のすり替え(米国BSE検査 検体採集者が有罪 高リスク牛の代わりに健康な牛を検査に,07.2.23)まで行われているために、BSEが故意に見逃されてきた結果にすぎない」。