農水省 BSE感染源調査報告 代用乳感染(95-96年)→二次感染を強く示唆

農業情報研究所(WAPIC)

07.12.14

 今日10時から農水省で開かれた食料・農業・農村政策審議会家畜衛生部会第5回プリオン病小委員会で、吉川泰弘東京大教授率いる研究グループの手になる「BSEの感染源及び感染経路に関する疫学研究報告書」が発表された。

 今年2月までに日本で確認された32例のBSE牛を、出生時期と発生地域によって、”プレA群”(92年、長崎県生まれの黒毛和種肉用牛)、95−96年生まれの”A群”(北海道の10例と関東の3例)、1999年生まれの”B群”(熊本の1例)、1999−2001年生まれの”C群”(北海道、15頭)、2001年生まれの”D群”(肉骨粉禁止後に生まれた栃木、兵庫各1頭の若齢牛)、その後の生まれの”ポストD群”(未発生)に分け、それぞれの感染源と感染経路を追求したものだ。

 最大のポイントは、95年後半から96年前半、突然、北海道等に感染源が侵入し、これによって感染した牛由来の肉骨粉や動物性油脂を含む飼料や代用乳によってC群の感染が起きたとすることで、日本のBSEの大部分の発生原因を説明し、97-98年生まれの1例もないことにも、この2年 ほどは95年−96年感染牛(の感染性)がと畜=レンダリングされて飼料連鎖に入るまでの空白期間と考えることで合理的な説明を与えたことだ。

 まず、非定型で、イタリア型に似てはいるがこれと完全には一致はしないプレA群については、孤発性の可能性が高いが、イタリアからの輸入肉骨粉の可能性も考えれらるという。

 焦点のA群については、「1995年後半から1996年前半に突然、高濃度汚染が導入された(輸入動物性油脂、肉骨粉、サプリメントなど)。したがって、北海道と関東は同じ汚染物質により引き起こされた可能性がある」が、関東には英国由来の輸入生体牛やイタリアからのEU基準を満たさない肉骨粉の輸入が行われており、95年当時のその利用・流通状況からすると、関東の国産牛がこれによって感染した可能性も考えられるという。

 そして、前者の場合、「と畜場、食肉センター、化製場の連携、肉骨粉および飼料製造が、基本的に地場産業であること、配合飼料の流通範囲が比較的それぞれの地域に限られていることを、代用乳のような広範囲に流通するもの以外は同一の原因物質としては考えにくい」。

 ところで、北海道については、北海道化製場を供給源とする肉骨粉を使った飼料が製造されてはいたが、それがBSEに汚染されていた可能性は低いし、汚染された可能性のある肉骨粉が北海道に直接輸入された記録もない 、代用乳に使われたオランダ産動物性油脂を除く他の感染源の可能性は「極めて低い」と、2003年調査の肉骨粉(交差汚染)有力説を否定する。こうして、オランダからの輸入動物性油脂に最大の嫌疑がかけられることになる。

 この説にも、オランダ当局や欧州食品安全機関(EFSA)が動物性油脂による感染リスクを否定しているという難点がある。しかし、当時のオランダには(もちろん日本にも)特定危険部位(SRM)の法的規制はなく、輸入動物性油脂は脳・脊髄などのSRMも含む不溶性不純物を含有していた可能性も排除できない。

 この場合にも、感染性が製品に”均等”に移行すると想定すれば、感染末期の牛1頭からの動物性油脂で感染する牛は0.5頭ほどにしかならず、10頭もの牛の感染源となったと考えるのは非現実的だ。ただ、感染性の”不均等”な移行を考えると、この数字は16頭にもなり得るとはいう。

 このように、A群の感染源がオランダ産動物性油脂であると強く示唆しながらも、最終的には、「不均一モデルは科学的知見が得られない条件にもとづいている」、「オランダ産動物性油脂を感染原因とする合理的説明は困難である」と、結論を避けている。

 これに比べると、C群の感染源については明快だ。C群はA群と異なり、北海道全域に広く分布、交差汚染も起きやすい養豚・養鶏地域との重複も見られる、生まれ年にもバラツキがあり、共通の代用乳・人工乳(初期固形飼料)・若齢牛配合飼料も見られず、輸入牛が汚染をもたらした可能性も低い。

 さらに、「北海道ポストA群(1996年後半から1999年前半)の汚染がないことを考慮すると、A群の汚染がC群の原因となった可能性が考えられる。原因としては、A群に由来する肉骨粉の交差汚染および動物性油脂の不溶性不純物の汚染、あるいは両方が原因となった可能性は否定できない」と言う。

 D群の感染源は残存肉骨粉、あるいは代用乳(共通するのは”E社の代用乳)の可能性が否定できないとした上で、怖いことに、「D群の汚染が、同様の理由で乳用種の雌にも及んでいたとすれば[2頭はどちらもホルスタイン去勢雄だった−WAPIC]、この群の雌が[搾乳を終えて−WAPIC]と畜場にくる時期(2006年以後、2007年〜2010年がピーク)に、D群のBSE陽性牛の摘発が起こる可能性がある」と言う。 

 ともあれ、ヨーロッパにおいても早くから現実の感染源となっている可能性が疑われ(例えば→フランス:1997年生まれの牛に狂牛病確認、感染ルート闇に,01.04.9)、動物性油脂に含まれる不溶性不純物としての蛋白質を通して感染源となる”理論的”可能性は認められながらも、決して現実の感染源とは認められることのなかった代用乳が現実の感染源となり得ることを認めた点で、この報告書は、世界的に見ても画期的意味を持つ。EUや日本は、まさに”理論的”可能性から、既に”予防原則”に基づく代用乳用動物性油脂規制を導入している。現在の代用乳の原料としての動物性油脂の利用は、不溶性不純物0.02%のものしか許されない。SRMは排除されている。「現在使用されている動物性油脂のリスクは無視できると考えられる」(報告書、61ページ)。

 それにもかかわらず、今回の報告は、この規制の実効性の一層の確保を迫るだろう。例えば、この報告も、BSE陽性牛、死亡牛、SRMの排除といった原料や製造工程に関する 動物性油脂の輸入に関する規制・制度はあるものの、BSE発生のリスクが無視できない国、BSEリスクが不明な国で、BSE検査を実施していない国などから輸入する場合、無症状のBSEを排除することはできない から、「製造材料(ハイリスク牛、死亡牛の利用の有無)、工程(SRMの取り扱い)、不活性化措置(レンダリング条件)などについて、検証する必要がある」と言う。

 EUや日本を除く多くの国は、先ずはEU・日本並みの措置の導入を急ぐべきだろう。例えば、れっきとしたBSE発生国である米国では、未だに高リスク牛やSRMが代用乳等飼料用動物性油脂を製造するレンダリング過程に入るのを禁止されておらず、これらに由来する0.15%の不溶性不純物を含む牛脂(タロー)の禁止案(米国FDA 新たなBSE飼料規制を発表 なお抜け穴だらけ カナダの規制とも格差,05.10.5)さえも永遠に葬られようとしている。この報告をまともに受け止めるとすれば、それは米国のBSEリスクの評価にも影響を及ぼすはずだ。 米国産牛肉輸入再開に道を開いた05年の食品安全委員会の米国産牛肉リスク評価に際しても、動物性油脂(獣脂)はBSEリスク要因からは完全に除外されていた(プリオン専門委 たたき台二次案にも重大な欠陥ーレンダリング工程や獣脂には一切触れず,05.10.8。このような獣脂の米国における飼料用使用量については→米国レンダリング協会 狂牛病飼料規制強化は経済・環境影響が大きすぎて実行不能,06.8.10)。

 報告書は、過去のリスク管理者の責任には触れていないが、今後のリスク管理者は、代用乳からの感染を防ぐ一層大きな責任を負わねばならない。