農業情報研究所環境農薬・化学物質・有害物質201832

EU食品安全機関 ネオニコはハチに高リスク 作物収量への効果を疑わせる研究も

 欧州食品安全機関(EFSA)が228日、ネオニコチノイド殺虫剤の大部分の使用が野生のハチとミツバチに高いリスクをもたらすとするリスクアセスメント報告を発表した。欧州委員会による使用規制(ハチを引き付ける植物と冬穀物(秋播き穀物)を除く穀物の種子・土壌・葉面処理にクロチアニジン、イミダクロプリド、チアメトキサムを使うことを禁じる2年間のモラトリアム)につながった2013年のクロチアニジン、イミダクロプリド、チアメトキサムに関するリスク評価を更新するものである。EFSAは環境中でハチが曝される可能性のあるネオニコチノイド殺虫剤のレベルをハチに影響を及ぼすレベルと比較した。推定される環境汚染はハチに安全と考えられるレベルを常に超えており、総じてハイリスクという結論となったという。

 Neonicotinoids: risks to bees confirmed EFSA 18.2.28

 欧州委員会(EU政府)はこれら3種のネオニコチノイドの更なる使用制限を提案、加盟国と協議中だ。提案は昨年1213日に投票にかけられる予定であったが加盟国間の意見の隔たりが大きく(11ヵ国が支持しているが、6ヵ国は作物収量の破滅的低下を恐れて反対している)、投票はEFSAの報告後に延期されていた(Neonicotinoids,European Commission)。いよいよ投票という段取りだが、さらなる使用規制となるかどうかは予測不能だ。EFSAは、科学的リスク評価機関であり、EUワイドのネオニコチノイド禁止を勧告する立場にはないと言う。決定は欧州委と加盟国当局に委ねられる。

 但し、規制強化への反対の論拠である作物収量の低下は、“科学的”には確認されていない。EUの投票を前に、ネオニコチノイド使用の農学的効果(作物増収または減収の防止)疑わせさえする包括的研究も現れた。この研究により、ネオニコチノイドなしでは農業・食料生産が立ち行かない、そう叫び続けてきた農民、食料産業グループの影響力も大きく削がれることになるかもしれない。

 以下、Environmental Science and Pollution Research,誌の最新号(25 February 2018)に掲載されたAn update of the Worldwide Integrated Assessment (WIA) on systemic insecticides. Part 3: alternatives to systemic insecticidesから紹介しおこう。

 フィンランドでは、昆虫授粉作物であるナタネの収量の減少傾向とネネオニコチノイド被覆種子の使用の程度に直線的相関が見られる。同時に、昆虫授粉作物栽培地域ではミツバチの利用可能性と収量の間に正の相関が見られるという。

 イギリスの研究は採油用ナタネの収量がイミダクロプリド処理の使用よって増加していないことを示している。この研究は、イングランドとウェールズにおけるミツバチコロニーの喪失とイミダクロプリドの使用パターンの間の相関も認めている。

 トウモロコシに関するイタリアの研究は、ネオニコチノイド被覆種子の収量への影響は無視できることを示している。そもそも害虫の数が経済的損害を与えるようなレベルにないからだ。

 別の研究は、ネオニコチノイドが発芽に悪影響を与えていることを示す。Poncho, Gaucho and Cruiserなどのネネオニコチノイド調合品は3種の近縁トウモロコシ品種に有害で、発芽率を減らしたという。

 フランスの54の主要作物に関する研究は、農業集約化がもたらすはずの利益が授粉動物への依存の高まりとともに減っていることを発見した。集約化の利益が授粉サービスと、生態系サービスの最適化を通しての農業の生態的集約化に必要なサポートの減少で相殺されたためという(注)。

  (注)フランス農業省中央統計調査研究局(SCEES)は08年、フランスとヨーロッパの大規模栽培耕種作物(穀物、油料種子作物)のこの10年来の原因不明の収量低迷は、ヨーロッパの45%の土壌で起きていると見られる土壌有機物の欠乏のためではないかと推測した(仏・欧穀物収量の10年来の低迷の原因は土壌有機物欠乏?―フランスの研究 農業情報研究所 08.6.30)。

 今にして思えば、この収量低迷の原因は化学肥料多用による土壌生態系の貧困化と共に、90年代半ばから使用されるようになったネオニコチノイドよる農業生態系全体の貧困化にあったのかもしれない。フランス南部で蜜蜂の大量死が頻発するようになったのは、ネオニコチノイドが開発され・使用されるようになった1990年代半ば以降のことである。

  余談: わが国では松枯れ防止のためにネオニコチノイド系殺虫剤を空中散布するところもあると聞く。これも本当に松枯れ防止に役立っているのだろうかと疑念がわく。少なくも、そんな証拠は見たことがない。