温暖化防止会議、二酸化炭素排出削減植林ルールに合意―GM樹木も可

農業情報研究所(WAPIC)

03.12.10

 今月1日から、国連気候変動枠組条約締約国の第9回会合(COP9)がイタリア・ミラノで開かれている。会議は9日夜、先進国が途上国で実施する植林事業を自国の二酸化炭素排出量削減分とみなす京都議定書が認めた制度の実施ルールで合意した。

 植林対象地は1989年末に林地でなかった土地、削減量に算入できる有効期限は20−60年とし、5年ごとに森林の状況を審査するほか、遺伝子組み換え(GM)樹木や外来樹種の植林も、条件付きで合意されたという。

 この問題は会合で最大の争点となるとされていたものだ。というのも、森林は二酸化炭素を吸収・固定するだけでなく、枯れたり、火災が発生すれば二酸化炭素の排出源ともなる。長期的に見た森林の吸収・固定能力がどれほどのものなのか、科学的には確定されておらず、排出が吸収を上回る場合さえ考えられる()。従って、このメカニズムの実施ルールについては、これを最大限に利用したい日本、カナダなどと、有効期間をできるかぎり短くするなど厳格なルールを望むEUや環境団体が対立してきた。また、GM樹木や外来樹種の植林については、カナダ、アルゼンチン、中国など(米国は京都議定書を拒否している)が病気に強く、成長が速いなどの利益を見込んで認めるように主張してきたが、EU諸国や環境団体は生態系や地域社会経済に重大な影響を与える可能性があると反対してきた。

 しかし、京都議定書は未だに発効していない。ロシアが参加すれば発効するが、会議に先立ち、プーチン大統領が不参加を明言した。発効しなければこんな論議自体が無意味になるということであろう。議定書発効を最優先するEUがロシアを引き入れるために最終的には譲歩することになった。最後までもめたGM樹木の植林の問題は、その使用に関連したあり得るリスクを各国が国内法に従って評価することで決着した。

 環境団体も発効を最優先、EUの譲歩でルールが決まったことを基本的には歓迎している。ロイター通信によれば、グリーンピースやWWFは、「一歩後退、二歩前進」、環境への重大な影響が指摘されてきたユーカリ・アカシヤ・マツなどの単一樹種での植林が排除されなかったのは遺憾としている。

 ただ、このようなルールが決まったとしても、実際にどの程度動き出すかわからない。中国やブラジルは、余りに多くのルールは主権の侵害になると見、カナダは植林場所の決定で文化的・宗教的サイトを考慮するといったルールは複雑すぎると反対した。ルールは、植林事業として計算されるためには、樹木は最低6インチから7インチの高さでねければならない、林冠は区域の最低10%をカバーしなければならないなどとまで定めているという。

 バンコク・ポスト紙は、タイ自然資源・環境相が「主権」の問題にかかわると発言した、この事業はエネルギー節約や更新可能なエネルギーの開発の分野での技術移転や産業開発に関係しないから、途上国には人気がないなどと伝えている。インドネシアでは、違法伐採が続く公園区域は対象とならないし、対象地選定に必要な90年時点での森林データベースの作成も不可能に近い。一部には、このメカニズムが土地収用の乱用、従って基本的権利の侵害につながるという恐れも広がっている。植林は違法伐採や森林火災のために近い将来に予想される森林壊滅の危機を救うものにはならないだろう。これらを防止するための規制の改革や地方住民の収入源・更新可能なエネルギーの開発の方が先決だ。 

 タイの環境団体は、債務削減と引き換えに熱帯林保全基金を作るという2001年の米国提案に対して、米国製薬企業にタイの生物多様性、とくに薬用ハーブを搾取する機会与えると反対した(⇒タイ:米国との熱帯林保全基金協定廃棄の要求タイ:政府、米国との債務環境スワップ協定を拒否)。GM樹木の植林まで許されるとなれば、このような抵抗はますます強まるであろう。事前の評価はあるにしても、GM樹木が取り返しのつかない自然環境破壊を起こさないという保証はないだろう。地球の森林生態系が完全に変わってしまう恐れがある。

 ニュース・ソース
 Kyoto: les OGM s'invitent dans les négociations climatiques,AFP,12.9
 U.N. Talks Permit GMO Forests Under Kyoto,Reuters,12.9
 Italy Faults EU Commission on Russia Kyoto Tactics,Reuters,12.9
 Forest projects ruled out under carbon credit scheme,Bangkok Post,12.9
 RI benefits from carbon trade mechanism,The Jakarta Post,12.10

 (注)最近の二つの研究をあげておく。一つは、非常に湿潤な条件の下で、アマゾン雨林の一部は二酸化炭素を吸収するよりも排出するほうが多いという米国-ブラジル研究チームの研究である(*)。原生林での3年間の計測の結果、予想に反し、炭素はネットで見て、樹木の成長期である雨季に放出され、乾季に吸収されていた。収支は明かに放出の方が多く、アマゾンの長期的にみた吸収・固定は従来の想定よりずっと少ない可能性があるという。もう一つは、土地生態系による二酸化炭素吸収を測る従来のモデルは窒素などの栄養素を適切に考慮していないために、吸収量を過大に評価してきた可能性がある、人間活動により放出される二酸化炭素を吸収しつづけるために利用できる十分な窒素(その他の栄養素)はないだろうというものである(**)

 *Scott R. Saleska et al.,Carbon in Amazon Forests: Unexpected Seasonal Fluxes and Disturbance-Induced Losses,Science,28 Nov 2003, pp. 1554-1557.
 **Bruce A. Hungate et al.,Nitrogen and Climate Change,Science,28 Nov 2003, pp. 1512-1513. 

 関連情報
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インドネシア:森林消滅の危機、農民にも脅威,02.9.29

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