インドネシア:北スマトラの洪水大惨事は違法伐採に関連

農業情報研究所(WAPIC)

03.11.10

 今月3日夜、インドネシア・スマトラ島の北スマトラ州ランカット県バホロック郡のリゾート地・ブキットラワン村周辺で大洪水が発生、今までに死者113人、行方不明者147人を数える大惨事となった。一帯はマウントルーサー国立公園内に含まれ、犠牲者にはオーストラリア人、ドイツ人などの外国からのリゾート客も含まれている。  

 この洪水をめぐっては、インドネシアで横行している森林違法伐採が原因だとする声が高まり、一向に進まない違法伐採防止策が改めて論議を呼んできた。7日には、副大統領が洪水の原因は森林伐採だけでなく、鉱業にあるとしながら、それでも違法伐採の厳しい取り締まりをためらってはならないと発言した。8日には、メガワティー大統領も、「我々が環境を破壊したために自然が怒っている」と、災害の原因は違法伐採だ演説した。100人以上の犠牲者家族が、マウントルーサー国立公園に侵入した違法伐採者を「テロリスト」と呼び、逮捕し、死刑を宣告するように要請した。ただ、洪水は異例の豪雨が引き起こした「天災」だという主張もあるし、林業省は問題の根源は河川流域での違法な住宅開発にあると主張した。自然・森林保護当局者は、衛星画像で見るかぎり、災害が起きた場所の周辺の森林は未だ良好な状態にあるとも主張している。

 こうしたなか、ルーサー管理ユニット(UML)が、週末、洪水は森林破壊の間接的結果と結論した(Study links Bahorok flood to illegal logging,The Jakarta Post,11.10)。UMLは、EUが資金を提供するルーサーの生態系保全のための組織である。この結論は、事故発生後数日の間にブキットラワン・リゾート地で撮られたビデオと、25万haの森林区域をカバーするランカット県の地形図の分析から導かれたという。県の森林は、大部分はアチェ州南東部に位置する95万haの国立公園に属する。ビデオは、マウントルーサー斜面上のバホロックの町を通って流れるバホロック川の上流で多数の地滑りがあったことを明らかにした。そこから発生した泥流は、海抜1,200mから2,000mのいくつかの丘を越えて流れた。それが多数の木を押し倒し、川に流れ込んだ。泥と木が多数の小さなダムといくつかの大きなダムを作った。このダムが、洪水発生前の一日に上流で降った大雨に耐えられずに決壊、鉄砲水となって罹災地を襲ったのだという。

 バホロック川に注ぐ支流は150以上あり、そのすべてはアチェ州側の上流に位置する。国立公園は急傾斜でほとんど入り込めない山林で構成されているが、違法伐採者が侵入して一部区域で伐採している。UMLのスポークスマン・デニーは、ランカット県内の公園の4万2,000haほどが不毛の土地になっており、その大部分はリゾート地の50kmほど上に位置すると言う。破壊された森林の50%は違法伐採によるもの、後の半分は政治的混乱を逃れて公園に逃げ込んだアチェ人避難民の不法土地占拠によるものと見込まれている。違法伐採の大部分は、悪名高い事業家が所有する木材・パルプ会社に販売する地元民によるものである。デニーによれば、会社は公園内の木を伐採するためにブルドーザーとチェーンソーを貸す。90年代に事業を始めたこの事業家は治安・行政当局者・議員と結託しており、違法活動で警察に何度も捕まっているが、影響力ある地方名士との関係によって告発を逃れている。

 ボゴール農業研究所の林業専門家は、災害はルーサーの生態系破壊の間接的結果だと説明している。土壌は不安定で、少しずつ見えない速さで動いている。一つの生態系内の特定の場所の破壊は生態系の他の部分も傷つける。ルーサーの生態系は洪水を起こしやすい多孔質の土壌と急傾斜の丘陵を持つ。貧困な土壌は村の上部の不毛地からリゾートまで広がっており、樹木の根張りは弱くなっている。

 しかし、このような洪水と違法伐採の関連付けが違法伐採の抑制や撲滅に結びつくとは限らない。上にも示唆されているように、軍、警察、官僚までがかかわるインドネシアの「腐敗」・「汚職」の「文化」は、違法伐採への挑戦をほとんど不可能にしてきた。インドネシアの森林は年に380万ha(スイスの面積の半分)の速さで失われており、このまま進めば10年から20年の間にすべての森林が消滅されるとされている。森林喪失の8割は違法伐採によるものとみられている。これまで、いかなる有効な取締まりもなされなかった。今回の事件でも、環境相は、違法伐採者を裁判にかけたとしても、裁判官自体が信用できない、あらゆる証拠を出したところで勝てる保証はないと言っているという(Jakarta promises to tackle loggers,but admits corruption will impede progress,Financial Times,11.8,p.3)。洪水の一因と指摘されるアチェ州の公園をかすめる高速道路建設は違法伐採を促進すると世銀が融資を止めたが、大統領は建設中止を明言していない。

 森林消失を防ぐためと、政府は5年間で300万haの植林計画を実施しているが、1年にそれ以上の森林が消えているのだから、有効な対策になり得ない。違法伐採の抑制が不可欠だが、政府は外国に違法製品を買わないように協力を求めることしかできない状態だ。違法伐採された木材の多くは、シンガポール・マレーシアで製品に加工されて米欧その他に向かう。シンポール、マレーシアには、繰り返し違法伐採木材の輸入を取締まるように要請しているが、これらの国は自分の国で取締まれと、一向に応じない。EUと中国とは、違法丸太から作られた製品の輸入はすべて拒否する協定に調印した。日本も今年6月、インドネシアと協力して違法伐採と違法木材・木製品の貿易に取り組むことを約束した。しかし、どこまで実効があがるか未知数だ。国際社会がインドネシア木材のボイコットに踏み切るように要請する環境団体も現われている。 

 関連情報
 
インドネシア:森林消滅の危機、農民にも脅威,02.9.29
 欧州委、違法伐採木材と闘う行動計画 環境団体は実効に疑念,03.5.23 

農業情報研究所(WAPIC)

グローバリゼーション 食品安全 遺伝子組み換え 狂牛病 農業・農村・食料 環境