EU環境責任(汚染者負担)指令、速やかに採択へ

農業情報研究所(WAPIC)

04.2.24

 環境団体と産業が争い、10年越しの論争が続いてきたEUの環境責任指令をめぐって1月27日以来続いていた欧州議会と閣僚理事会の協議が20日に決着、指令の速やかな正式採択の道が遂に開かれた(European Parliament,Environmental liability - polluters must clean up or pay up;European Commission,Environmental liability: Commission welcomes agreement on new Directive)。6週間以内、多分3月中には正式に採択される。これが発効すれば、EU各国は3年以内にその実施のための国内法を完成せねばならない。

 この指令は環境損傷の予防と修復を確保するための環境責任に関する基本的枠組みを確立し、いわゆる「汚染者負担」の原則を具現しようとするものだ。この意味では画期的指令であるのは間違いない。だが、実際にどれほど有効かとなると疑問符が付く。

 最後まで争われたのは、環境損傷の予防と修復の費用を払う事業者の負担能力を確保する保険等による財政保証の問題、これを義務とするか自主的なものとするかであった。欧州議会と閣僚理事会の調整の結果は、欧州委員会が、可能な義務的財政保証の開発、責任の上限、低リスクの活動の強制保険からの除外などを考慮して、指令発効後6年以内にこの問題を再検討するということであった。その報告と拡張したリスクアセスメントに照らして、義務的財政保証のシステムを提案するかどうかを決めるという。少なくとも2010年まで、保険は自主的なものとなる。各国は保険の開発と事業者によるその利用を奨励せねばならないとされているが、保険会社による自然や景観の価値の値付は簡単なことではないし、自主的保険では産業・企業が真面目にリスク予防・削減に取り組むかどうか疑問だ。

 予防され、修復されるべき環境損傷には、92年ハビタット指令や79年小鳥指令の下で保護される種や自然ハビタット、2000年水指令がカバーする水域の損傷や人間の健康に重大なリスクを引き起こす土地汚染が含まれる。しかし、ハビタット指令がカバーする保護区域はEU領土のほんの僅かな部分にすぎない。

 また、責任を負う産業も、重金属や危険な化学物質を排出する部門、廃棄物埋立・焼却工場に限定されており、海運や原子力など、高度の汚染を広範囲にわたり引き起こす可能性のある産業は除外される。農業を含むその他の産業の保護種・ハビタット損傷(例えば、農薬・遺伝子組み換え作物汚染)も予防・修復の費用に責任をもつが、過失や不注意があった場合だけである。

 非政府組織など公益団体は、必要ならば当局に行動を要請、その決定が違法ならば裁判に訴えることも可能とされたが、当面は苦闘が続くだろう。

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