アルゼンチン バイオ燃料促進法案採択 大豆モノカルチャーの加速に懸念
06,4.22
アルゼンチン議会上院が4月19日、2年に及ぶ審議を経たのち、バイオ燃料の生産と利用を促進する法案を採択した。下院では既に通過しており、大統領が署名すれば発効することになる。この法律により、バイオ燃料の生産者が免税措置を受け、15年間にわたり市場シェアを保証されることになる。
植物油をバイオジーゼル油の生産に、あるいはサトウキビかトウモロコシをエタノールの生産に、あるいは有機廃棄物をバイオガスの生産に利用する農業者は免税措置を受けられる。また、これら燃料の市場を確保するために、法律発効の4年後に、ガソリンスタンドは5%のエタノールを含むガソリン、5%のバイオジーゼル油を含むジーゼル油の販売を義務付けられる。このような燃料で走る車のエンジンは従来通りでよいという。
石油価格が高騰し、将来のエネルギー安全保障が脅かされるなか、世界中の国がバイオ燃料の開発と普及に走っている。それは化石燃料への依存を減らすことで、地球温暖化の抑制にも寄与するといわれる。しかし、それは別の深刻な問題も引き起こしている。
石油価格高騰に商機を見出したマレーシア、インドネシアや多国籍企業によるバイオ燃料として利用されるパームオイル(椰子油)の生産拡大の動きは、違法伐採で既に消滅の危機にある東南アジア諸国の熱帯林の破壊を加速している(石油価格高騰でパームオイル・ブーム 森林・野生動物・原住民・環境に破滅的影響の恐れ,05.10.13)。それは生物多様性を損なうばかりか、洪水・土砂崩れの頻発で多くの人々の命も奪っている。昨日もそれが原因と見られる東ジャワの町の土砂崩れで19人が死んだばかりだ。
Death toll from flash floods rises to 19 in Trenggalek,The Jakarta Post,4.22
http://www.thejakartapost.com/detailheadlines.asp?fileid=20060422.A01&irec=0
トウモロコシ(とくに米国)や砂糖(とくにブラジル)をエタノール生産に利用する動きの加速は、飼料・食品として利用されるこれらの価格の世界的上昇につながり、とりわけ途上国の人々を苦しめている。食料不足にも拍車がかかるだろう。
アルゼンチンの動きも歓迎されるばかりではない。この法律をめぐる激しい論争が起きている。
ARGENTINA:The Environmental Costs of Biofuel,IPS,4.20
http://www.ipsnews.net/news.asp?idnews=32959
この報道によれば、環境大臣は、バイオジーゼルはジーゼルと同量の二酸化炭素を排出するが、その生産の拡大はこれを吸収する油料種子の栽培を大きく増加させ、純排出量は現在の3分の1に減るから、京都議定書の下でのクリーン開発イニシアティブとして認められる可能性があると言う。この法律は、環境保護に寄与するというわけだ。
しかし、環境活動家は大豆モノカルチャーのさらなる拡大につながると恐れている。彼らによれば、ほとんどが遺伝子組み換えのアルゼンチンの大豆栽培は農業の生物多様性を脅かしており、家族農民と農村社会組織を傷つけてきた。過去10年、大豆モノカルチャーの拡大は季節労働者や小農民の都市への流出と土地所有権の集中に拍車をかけてきたともいう。
今年は農地全体の半分以上の1520万haが大豆栽培に利用される。大豆生産量は4000万トンの記録的高さになると予想される。生産者は、法律に基づく新たなバイオ燃料生産割当量を満たすために、大豆栽培面積はさらに10%ほど増えると推定している。
一環境団体の指導者は、この法律は、「”大豆化”の現在の過程の危機的条件を容赦なく強化し、アルゼンチンの第一級の農業・畜産活動基地を永続的危機に陥れる」と言う。彼は、植物油の燃料への加工によって生み出される雇用は、この農業モデルにより引き起こされる巨大な失業を埋め合わせないし、社会組織の修復には絶対に役立たないと強調する。
2005年末にインターアメリカン農業協同研究所(IICA)が発表したアルゼンチンとブラジルのバイオ燃料に関するリポートは、この部門の開発はアルゼンチンの犠牲なしでは実現しないと警告したという。このあり得る悪影響には、他の作物との交替、輪作システムの妨害、土壌への悪影響が含まれる。IICAは、これらの影響の慎重な評価がバイオ燃料生産計画の費用と便益の全体的評価に組み込まれねばならない」と強調した。
ただ、アルゼンチン植物油産業会議のロドリゲス常務は、石油価格が上昇しても、産業への直接補助金なしではこれら燃料が競争するのは難しい、4年以内に5%のブレンドが実現することはありそうもないと言う。産業は直接補助金を要求してきたが、法律は免税を定めただけだった。
それにもかかわらず、法律が今週議会を通過するという見通しと、2010年までにすべての燃料が5.7%のバイオ燃料を含むように義務付けたEUの需要の増加のお陰で、バイオ燃料生産への投資が増え始めた。スペイン-アルゼンチン石油ガス企業・Repsol YPFは、ベノス・アイレス州のバイオ燃料精製所への3000万ドルの投資を発表した。これは2007年には10万トンを生産することを予定しているという。
ここでも、地球に優しいとされるバイオ燃料の開発が持続可能な農業、農民と農村社会の将来を脅かしている。エネルギー消費削減を前提としないいかなるエネルギー・環境問題解決策も、別の問題を生むだけだ。原発促進も同様だ(国際エネルギー機関 原発推進支持へ 原発依存を高める研究を全会一致で支持,04.021)。EUの周到なバイオマス行動計画も、この問題を解決したとはいえない(欧州委員会 バイオマス行動計画を発表 社会・経済・環境悪影響の克服が課題,05.12.10)。
関連情報
GM大豆はラテンアメリカの”新植民者”ーGM作物導入の影響の包括的新研究,06.3.17
干ばつで沸き立つブラジルのGM作物・モノカルチャー論争,05.4.5
有機農業は未来の農業たり得るか―ネイチャー誌レポート,04.4.23の(注)