米国畜産・食肉業界 議会指導者に穀物バイオ燃料生産拡大反対の連名書簡

農業情報研究所(WAPIC)

07.10.17

  アメリカ食肉協会、全米国肉牛生産者・牛肉協会などの米国畜産・食肉業界有力団体が連名で、上院エネルギー法案で提案されているバイオ燃料=エタノールの生産・利用拡大に反対する書簡を上・下両院指導者に送った。

 http://www.meatami.com/storylinks/2007/livestockindustryenergyletter101207.pdf

 畜産・食肉業界は飼料コストの急騰で大変な苦境にある。その主な原因は、バイオエタノール生産の拡大によるトウモロコシの価格の急騰にある(主要穀物と大豆の国際価格の推移)。そして、このエタノール生産の劇的増加をもたらしたのが、年間エタノール使用量を2007年までに50億ガロン、2012年までに75億ガロンに増やす(義務なのか、単なる目標なのかは不明)と定めた2005年エネルギー政策法だ。

 議会は現在、これに代わるエネルギー法の策定にかかっており、その上院バージョンは、この年間使用量を、2015年には150億ガロン、2022年には360億ガロンにまで大幅に拡大するとしている。

 2005年エネルギー法で既に深刻な悪影響を受けているのに、このような拡大はとんでもないというわけだ。

  書簡は、穀物=トウモロコシを原料とするエタノールの生産のこれ以上の拡大に反対、セルロース・バイオマスからのエタノールの商品化を奨励する努力を強く支持、議会がセルロース系エタノールの増加を選択するならば、議会は、義務的使用量が非穀物ベースの燃料だけで満たされるべきことを明確にすべきだと言う。

 また、2005年法によるエタノール生産拡大についても、供給が食料・飼料・燃料用需要を満たせないならば燃料生産を一時的に減らすような、トウモロコシ不足を防ぐための”安全弁”も設けるべきだ要請している。

 原料コスト上昇と価格低下(シカゴ商品取引所バイオエタノール先物相場の推移)で、米国のエタノール・ブームには既に陰りが見え始めた(米国エタノールブームに陰り 生産急増で市場が”食傷の病”に倒れる,07.10.1;米国最大級のバイオエタノール生産者 エタノール価格急落で新工場建設を停止,07.10.3)。強力な政治的圧力団体の要求で政策的支援が後退するようなことがあれば、ブームは確実に終焉に向かうだろう。セルローズ系エタノールは奨励されるだろうが、大規模商業生産の実現の見込みは当分立たない。技術開発は進もうが、藁、茎など、巨大な嵩の原料を工場に運ぶ輸送コストを考えたでけでも、全国・世界市場を相手とする大規模工場生産は不可能だ。

 先のOECD報告(OECDの研究 バイオ燃料補助金廃止を求める 温室効果ガス削減には非効率、生態系損傷も,07.9.11)は、セルロース系エタノールを含む”第二世代バイオ燃料”について、技術開発に成功したとしても、「大規模生産施設にバイオマス物質を輸送する物流の難題が生産コストがそれ以下に引き下げられない下限を押し付ける可能性が高い」ことが、バガス(サトウキビ圧搾の残滓としてのセルロース)、木材加工残滓のような現在でも利用できるものから生産される”ニッチなプレーヤー”にとどまるとい った確信的見方につながると言う。

 関連ニュース
 
Elbert: Iowa's ethanol: Future of peril, or prosperity?,The Des Moines Register,10.14
 http://www.desmoinesregister.com/apps/pbcs.dll/article?AID=2007710140325