独バイオディーゼル企業 過剰生産と原料高、バイオ燃料税で生産停止に

農業情報研究所(WAPIC)

07.10.25

 ヨーロッパ第一のバイオディーゼル生産国・ドイツのバイオディーゼル専業会社・ペトロテックが、生産能力過剰と原料価格高騰、一部は2006年8月に始まったバイオ燃料課税のために市場条件が生産コストのカバーを許さず、一時的に生産を停止すると発表した。

 German firm Petrotec stops biodiesel production,Reuters.UK,10.23
 Shares in German Firm Petrotec Fall Following Announcement of Plans to Stop Producing Biodiesel,soyatech.com,10.24

  会社は北ドイツのボルケンで、廃食用油を原料とするバイオディーゼルを年に8万5000トン生産してきた。この生産をやめるとともに、北海のエムデン港に建設中の年産10万トンの能力の新設工場が年末に完成しても、市場条件が良くなるまでは生産に入らないという。

 米国におけるエタノール生産と同様、ヨーロッパのバイオ燃料の主流であるバイオディーゼルにも、製品や原料の需給関係を無視した無分別な生産拡大の限界が見え始めたようだ(参照:米国エタノールブームに陰り 生産急増で市場が”食傷の病”に倒れる,07.10.1;米国最大級のバイオエタノール生産者 エタノール価格急落で新工場建設を停止,07.10.3)。ヨーロッパのバイオディーゼル生産が手厚い支援措置無しでは存続できないこともはっきりしてきた。

 2007年6月現在のドイツにおけるディーゼルの1リットル当たり価格は189.29円、これに対してバイオディーゼルは209.29円、ディ−ゼル1リットルと同じエネルギーを得るためのバイオディーゼルのコストでも207.14円というから(National Geographic日本版、2007年10月号、56頁)、税金がなくてもディーゼルとの価格競争での勝ち目はない。その上、2008年1月からは税がさらに上がる。

 図に示すように、EUにおけるバイオディーゼル生産は、2002年以来、劇的に増加してきた。特にドイツにおける増加が著しい(ヨーロッパ・バイオディーゼルl・ボード:EBBのデータによる)。

  しかし、その原料は大部分が菜種油である。その価格は、2002年以来、倍以上に値上がりしている(下図)。 その上、共通農業政策(CAP)による1ha当たり45€の奨励金の支払対象となるバイオ燃料作物栽培面積が2007年に200万haの上限を越え、284万haにも達した。欧州委員会は、このための9000万€の総予算枠を維持するたために、対象農地の70%にしか支払わない奨励金減額措置を提案している。菜種油を原料とするバイオディーゼル生産拡大は峠にさしかかったと言えるだろう。

 Biofuels: aid per hectare of energy crops reduced as the area exceeds 2 million hectares,10.17

 世界的には、なおバイオディーゼル原料の1%(菜種油が84%、次いでヒマワリ油が13%)を占めるに過ぎないが(FAO:Biofuels and Commodity Markets - Palm Oil Focus)、マレーシアやインドネシアがEUのバイオディーゼル原料不足を見越して輸出拡大を狙うパームオイルの価格も、大豆油の価格の急騰に伴い中国やインドが輸入を急増させるなかで、急騰している(下図)。インドやアフリカで増産が目指されているヤトロファ(Jatropha curcas=ナンヨウアブラギリ、天笠啓裕『バイオ燃料』<コモンズ、07年10月>は「提琴桜」としているが、Jatropha integerrimaと混同したものであろう)については、作物としての栽培自体が研究途上だ(中国・インドのバイオ燃料生産 食料作物栽培のための水の不足を深刻化 国際水管理研究所,07.11.13)。

 輸送用燃料中のバイオ燃料の比率を2010年までに5.75%2020年までに10%に引き上げるというEUの目標は遠く霞んできた。