金融・経済危機でバイオ燃料投資が世界中で激減 国際エネルギー機関最新報告

農業情報研究所(WAPIC)

09.5.27

 国際エネルギー機関(IEA)が今日発表した「世界エネルギー投資への金融及び経済危機の影響」が、世界中のバイオ燃料産業の惨憺たる状況を伝えている。

 The Impact of the Financial and Economic Crisis on Global Energy Investment,IEA,09.5.27(free download)
  http://www.iea.org/textbase/Papers/2009/G8_FinCrisis_Impact.pdf

  それによると、昨年来、バイオ燃料投資は激減している。バイオ燃料産業は、生産コストが高く、ガソリンやディーゼルへのブレンドで吸収できる量が限られているために、とりわけ原油価格下落の影響を受けやすい。新たなバイオ燃料精製所建設の波は世界中で消え去りつつあるように見え、最近操業に入った多くの工場が、経済悪化のために遊休状態になっている。多くの場合、バイオ燃料価格が低すぎて、原料と操業のコストの上昇をカバーできない。貸付コストの上昇や新規金融へのアクセスの制約、さらには第一世代バイオ燃料技術の環境便益に関連した規制の変化(例:ドイツ、米国*)も新規投資を思いとどまらせている。

 *米大統領が新たなバイオ燃料促進策 トウモロコシエタノールはますます窮地に,09.5.6;カリフォルニア州 世界に先駆け、輸送燃料からの温室効果ガス排出削減を義務付け,09.4.25

 世界全体で、ほんとど唯一の物的バイオ燃料投資源をなすに至ったバイオ燃料精製所のアセットファイナンシング(資産の担保価値に依存した資金調達)は、07年第4四半期の57億ドルから、09年第1四半期の10億ドルに激減した。総投資中のシェアは大きくはないとはいえ、公共投資やベンチャーキャピタル資金供給も瓦解した。既存工場の利用率低下と重なった投資の減少で、バイオ燃料供給の増分も減ることになるだろう。08年までの5年間、バイオ燃料は世界の石油製品需要増加の12%、輸送用燃料需要増加の16%を賄っていた。

 米国のバイオ燃料精製所への新規投資は、資金調達問題、エタノールの低価格、あるいはその両方のためにほとんど干上がった。厳しい資金難に喘ぐ生産者が増えている。08年末、国第二のエタノール生産者であるベラサン社が、グレーターオハイオエタノール、ゲートウェーエタノールとともに、破産保護を申請した。今年年初以来、リニューエネルギー、ノースイーストバイオ燃料、アヴェンティンリニューアブルエネルギーも同様な申請をし、他の多くの企業も同様な運命を回避しようと苦闘している。しかし、資金に恵まれたオーナーが、これら資産の一部を買収し、操業していることは注目に値する。米国エタノール生産能力の5分の1が、トウモロコシとエタノールの価格差の縮小で遊休状態にある。エタノール価格と資産価値がすぐにも改善されないと、企業併合の波が来るだろう。

 ブラジルでも、多くの生産者が困難に直面している。既に資金を確保した新規プロジェクトは継続するだろうが、そうでない多くのプロジェクトはキャンセルされそうだ。08年年初に開発中であった135のプロジェクトのうち、29%は延期されるか、放棄され、23%は停止している。2016年までに操業が始まるのは85工場にすぎないと予想される。政府は、エタノール生産者の救済措置を考えている。

 EUも、ディーゼル価格の低下と資金問題で、バイオ燃料能力追加がスローダウンしている。2020年までに輸送用燃料の10%としたバイオ燃料利用目標を2014年には見直すというバイオ燃料利用目標のスケールバックと、持続可能性基準*をめぐる今後の政策の不確実性も、新たな工場の建設意欲を削いでいる。

 *EU再生可能エネルギー利用促進指令のバイオ燃料持続可能性基準(仮訳),08,12.26;EU再生可能エネルギー利用促進指令採択 ブラジルエタノール業界が安堵の声,08.12.20

 投資のスローダウンは、必然的に、短期から中期のバイオ燃料生産能力の横這いにつながる。現在のエタノール、バイオディーゼルの総生産能力は、現在は20万バレル/日(0.2mb/d)が遊休状態にあるとはいえ、08年半ばの1.6mb/dから上昇して2.4mb/dになっている。さらに、520キロバレル/日(520kb/d)の能力が建設中で、同じほどの能力が計画されている。原料と製品の価格差が数ヶ月の間に大きく改善しなければ、計画されている多くの工場がキャンセルされるだろう。

 こうしたなか、第二世代バイオ燃料、特にリグノセルロースエタノールの研究開発投資だけは成長を続けそうだ。


 こうしたなか、日本では今月、余剰ビートなどからバイオエタノールを製造する国内最大規模のバイオエタノール工場が北海道に完成したそうである。日本だけが活況に沸く?それとも、始めたからには後に引けないということか。