農業情報研究所環境エネルギーニュース:2011年1月10日

米国バイオ燃料利用目標 エタノールでは達成不能 インフラの壁

 パーデュー大学の研究者が、米国の主要バイオ燃料がエタノールにとどまるかぎり、ガソリンへのエタノール混合(ブレンド)比率上限を現在の10%から15%に引き上げるかどうかとは全く無関係に、エタノールの”ブレンド・ウォール”のために、2022年までに再生可能燃料(基本的にはバイオ燃料)の年間利用量を360億ガロンに増やすとした2007年エネルギー独立・安全保障法(EISA)の連邦再生可能燃料基準(RFS、バイオ燃料利用量の義務的目標)の達成は”基本的に不可能”と結論する新たな研究を発表した。

 この研究によると、基準(目標)達成を難しくするのは”経済”要因ではなく、”インフラ”要因である。目標達成のために必要になるフレックス燃料車(エタノール85%ブレンドガソリン・E85 が使える車)とE85給油機を2022年までに整えるのは到底不可能である。米国エネルギー省(DOE)と環境保護庁(EPA)のデータをからすれば、米国は既にエタノール利用の飽和点に達している。米国のインフラと消費能力では、最大でも2010年のRFSに相当する130億ガロン程度しか利用できないという。

 Wallace E. Tyner, Frank J. Dooley, and Daniela Viteri Alternative Pathways for Fulfilling the RFS Mandate (2010) Alternative Pathways for Fulfilling the RFS Mandate Amer. J. Agr. Econ. 1–8
 http://ajae.oxfordjournals.org/content/early/2010/12/17/ajae.aaq117

 2010年における米国のガソリン総消費量は約1400億ガロンで、燃費基準の強化で将来は減少が予想される。従って、現在のすべての給油機がE10(エタノール10%ブレンドガソリン)を給油するとすれば、燃料エタノールの最大利用量は140億ガロンになる。実際には、すべての地域と季節で10%をブレンドすることはできない。大部分の専門家は、実際の最大ブレンド率は9%、従って最大利用量は126億ガロンにとどまると見ている。つまり、米国のエタノール消費能力は、既にブレンド・ウォールと呼ばれる限界に達しているわけだ。そして、米国のエタノール生産能力は、既にこのレべルを超えている。

 許容されるエタノールの最大ブレンド率が10%にとどまるかぎり、米国エタノール産業には今以上に成長する余地がない。実際、130億ガロンを超える既存の生産能力さえ完全操業できないでいる。2009年には20億ガロンの能力が閉鎖され、10億ガロンの能力が遊休していた。2009年のエタノール価格がガソリンではなく、トウモロコシの価格に引っ張られていた(以前もそうだが。参照:トウモロコシ・エタノール(シカゴ)とガソリン(ニューヨーク)の先物相場の推移)のもそのためである。

 こういうわけで、エタノール産業など圧力団体は、許容されるエタノールの最大ブレンド率を10%から15%に引き上げるように運動している(EPAは去年秋、一部の車についてこれを認めた⇒米国EPA 一部新型車のE15燃料使用を承認 エタノール利用増大は期待できず 食料価格が上がるだけ,10.10.14)。しかし、研究によれば、エタノールが中心的バイオ燃料にとどまるかぎり、これも少しばかり(4年ほど)の時間稼ぎにすぎない。

 何よりも、十分な数のE85フレックス燃料車やE85給油所がない。EPAの推定では、米国の道路を走っている2億4000万台の車のうち、フレックス燃料車は730万台にすぎない。しかも、およそ300万のフレックス燃料車保有者は、自分の車がE85を使えることさえ知らない。また、米国には2000のE85給油機があるだけで、これだけの設置にも20年かかった。2022年までに1年に2000の給油機を設置せねばならないが、年100から年2000に、一夜にして増やせるはずがない。

 その上、E85給油機が設置されたとしても、消費者がこれを使うためには、E85の価格がガソリンより大幅に安くなければならない。E85では、同じ量のガソリンに比べて3分の2ほどの距離しか走れないからだ。ガソリンがガロン3ドルなら、E85はガロン2.34ドルでなくてはならない。

 要するに、現在及び将来可能なブレンド率と、フレックス燃料車・E85給油機の低普及率を前提とするかぎり、エタノールは米国市場における唯一のバイオ燃料ではあり得ない。ブレンド・ウォールは、RFS達成の越えがたい障壁になるということだ。