米政府 H5N1鳥インフルエンザ上陸近しと野鳥監視を強化 家禽保護には自信

農業情報研究所(WAPIC)

06.3.22

 米国農務省(USDA)が20日、今年中にも米国に高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)が入り込む可能性が高まっているとして、米国内における野生渡り鳥のHPAI早期発見のためにサーベイランスを強化すると発表した。

 News Release:USDA, DOI AND HHS EXPAND SCREENING FOR HIGHLY PATHOGENIC H5N1 AVIAN INFLUENZA IN MIGRATORY BIRDS(06.3.20)

  同日行われた記者会見で、ノートン内務長官は、「我々は、早ければ今年、米国国境内に鳥インフルエンザの高病原性H5N1株を発見する可能性が高まっている」と述べた。内務省は多年にわたり野生動物に鳥インフルエンザを発見してきたが、ほとんどは家禽や人間のリスクが最小限の低病原性のものだった。しかし、ウィルスが変異するか、他の鳥インフルエンザウィルスと混じるときには、高病原性に変わり、鳥の高死亡率をもたらす可能性がある。現在の致死的ウィルスの拡散に野鳥がどの程度の役割を演じているかは不確かだが、野鳥がしばしばウィルスの犠牲となっていることはヨーロッパにおける白鳥その他の野鳥の死で分かっており、野生渡り鳥が北米にH5N1株をもたらす経路になり得ると言う。

 長官は、H5N1ウィルスか同類の危険なウィルスは、太平洋諸島かアラスカを通して米国に運ばれる可能性が最も高いと言う。アジアとこれら地域で冬を過ごした渡り鳥が春にはアラスカに渡り、そこで営巣する。ヨーロッパに発してカナダ経由で北米に達するルートも考えられるが、このルートを飛ぶ鳥の数は非常に少なく、アジアからのルートでやってくる可能性の方がはるかに高い。鳥たちはアラスカで春と夏を過ごし、米国からやってくる鳥と混じり合うだろう。その後米国48州にやってくる可能性が最も高そうだと言う。

 TRANSCRIPT OF SECRETARY OF AGRICULTURE MIKE JOHANNS, SECRETARY OF THE INTERIOR GALE NORTON, AND SECRETARY OF HEALTH AND HUMAN SERVICES MIKE LEAVITT, - REGARDING FEDERAL PREPAREDNESS FOR AVIAN FLU(06.3.20)

 このようにしてH5N1ウィルスが米国内に入れば、過去10年、牛肉消費が停滞するなかで22%も鶏肉の売り上げを伸ばし、毎年260億ポンドの鶏肉を販売するタイソン、ピリグラムズ・プライド、ゴールドキストなどの米国巨大生産者やその45%を販売するマクドナルド、KFC、ウエンディーズなどのレストランチェーンが大打撃を受ける恐れがある。米国の工場畜産を象徴する巨大養鶏産業が壊滅の危機に曝されるかもしれない。危険分散という農業の最も基本的な原理を忘れた米国流農業 、それを基礎とする食料システムへの重大な警鐘ともなるだろう。

 しかし、米国当局や産業の危機感は薄い。上記記者会見で、ジョハンズ農務長官は、「渡り鳥のH5N1の米国への入来は、必ずしもそれが家禽の群れに入ることを意味しない。この国の産業は非常に統合されている。米国で育てる鳥の大多数はカバーされた非常に大規模な営業施設の中におり、屋内に囲い込まれている」と言う。工場養鶏への大変な自信だ。

 ニューヨーク・タイムズ紙によると、業界団体であるナショナル・チキン・カウンシルのリチャード・ロブ報道員も、平均的工業養鶏農場で一つの飼育小屋にいる2万から2万4000の鳥は屋外に出られないし、日に当たることもない、感染しているかもしれない野鳥に接触する鶏は一羽もいないだろうと言う。

 彼は、「鶏が裏庭を走り回っているアジアで起きているようなことは、ここでは起きない」、フリーレンジとか有機とかして売られる鶏は鳥インフルエンザにもっと罹りやすいが、このグループは鶏生産の1%足らずを占めるにすぎないと言っている。

 しかし、これは、例えば密閉鶏舎の七面鳥がH5N1ウィルスで大量に死んだフランス・アン県の経験やその他の経験を無視した見解だ。

 また、伝達経路は野鳥だけとは限らない。同紙によると、老舗的野鳥保護活動団体である全米オードボン協会(1886年創立)の科学コーディネーターのロブ・ファーガス氏は、鳥インフルエンザは感染国からの不法な家禽輸入を通して米国に到達する可能性の方が高い、鳥インフルエンザが勃発した国からの鳥や家禽の肉の輸入は禁止されたが、「港のバイオセキュリティーには多くの抜け穴がある。私は野鳥よりも家禽の貨物の方をずっと怖れる」と言う。

 Business Prepares for the Possibility of Avian Flu in the United States,The New York Times,3.21.
  http://www.nytimes.com/2006/03/21/business/21poultry.html?_r=1&oref=slogin

  農務長官と産業の工場養鶏への自信はいつまで続くだろうか。

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