アマゾンを破壊し、貧困を助長するブラジル輸出拡大戦略

農業情報研究所(WAPIC)

04.4.9

 ブラジル政府は7日、昨年5月までの1年間のアマゾン雨林消失面積が220万haに達したことを明らかにした。ブラジルの国立宇宙研究所による衛生画像を詳細に検討した結果だが、来月末までにデータを加工すると242万haに達すると予想される。94/95年に292万haという突出した森林消失率を記録したが、以後2000年までの年平均消失面積は175万haほどに留まってきた。しかし、01/02年には232万haに急増した。02/03にはこれをさらに上回ると予想されるわけだ。アマゾンの森林破壊が加速している。今までに消失した森林はドイツとポーランドの面積を合わせたのに近い6千400万haになると見られている。

 このような森林破壊の大部分は、牛肉輸出需要の増加に伴う牛牧場の拡大がもたらしたものであることは、つい最近発表された国際林業研究センター(CIFOR)の新研究が明らかにしている(⇒アマゾン森林破壊の最大要因は牛飼育、EUの牛肉需要が破壊を加速,04.4.3)。だが、01/02年以来の森林破壊の急加速には、環境団体等が強調してきた大豆農場の森林地域への進出が寄与していることも間違いないだろう。実際、ここ数年のブラジルの大豆生産拡大はすざましい。作付面積は90年代後半の倍に達しようとしている。生産は米国に迫り、今年の輸出は米国を抜いて世界一に踊り出ようとしている(下表参照)。

ブラジルと米国の大豆栽培面積・生産・輸出(面積:1000ha、生産・輸出:1000メートル・トン)

 

ブラジル

米国

 

面積

生産

輸出

面積

生産

輸出

95/96年 11,680 25,900 3,492 24,609 68,444 22,867
96/97年 10,950 24,150 3,633 24,906 59,174 23,108
97/98年 11,600 27300 8,328 25,637 64,780 24,110
98/99年 13,000 32,500 9,336 27,968 73,176 23,760
99/00年 12,900 31,300 8,973 28,507 74,598 21,898
00/01年 13,600 34,200 11,779 29,318 72,224 26,537
01/02年 13,934 39,000 15,520 29,303 75,055 27,103
02/03年 16,350 43,500 16,175 29532 78,672 28,948
03/04年 18,400 52,500 20381 29314 74,825 28,441
04/05年 21,300 59,500 24,834 29,267 65,796 24,222

Souce:USDA(FSA)

 フィナンシャル・タイムズのリポート(Raymond Colitt,Deforestation in Brazil continues at 'unacceptable' pace,Financial Times,4.8,p.8)は、牛牧場を超えての大豆栽培が急速に問題を悪化させている、数百万の貧困化した入植者が生き延びるための農業で森林を破壊したとしても、大部分の森林消失は大土地所有者に帰せられるというIbama(環境保護庁)ディレクターの発言を紹介している。

 ルーラ政府は森林破壊減速に取り組み始めたばかりだ。衛星、レーダー、航空機、リモートセンサーを使って監視、違法伐採、違法な土地の開拓と売買(地方政治家と登記簿を偽造する登記官に助けられていると言われる)の取り締まりを強化している。その執行も確保できるかどうか疑われるが、取り締まりを強化したとしても、森林への圧力は止まらないだろう。森林区域内の所有地の20%までを開拓することは合法とされている。経済成長のために農産物輸出の拡大が追求されるかぎり、アマゾン開拓の全面禁止はできない。選挙で大統領を支持したアマゾン南部・マト・グロッソ州の「大豆王」と呼ばれ、次期大統領を狙うとも言われる知事・マッギは、大豆をアマゾンの成長と開発のエンジンに据えている。07年までに、州は現在の5倍、02年のブラジルの生産全体に等しい年に1億トンの大豆を生産するのだという(⇒ブラジル大豆生産が急増、アマゾン破壊に拍車,03.9.19、ブラジル:大豆がアマゾンを呑み尽くす―営利主義がもたらす環境破壊,03.12.20)。これでは、20%規制が守られたとしても、森林破壊は決して止まらない。

 このようなアマゾンを犠牲にした輸出拡大戦略も、決して大多数の国民の貧困解消には結びついていない。大規模土地所有者、ビッグビジネスを潤すだけだ。世界一不平等と言われる土地配分はますます不平等化する。ルーラ大統領が約束した土地改革は遅々として進まない。貧困化した農民にアマゾン森林内の土地を住居・小規模園芸用に与えることでお茶を濁している。これもアマゾン破壊要因になる。6日には、痺れを切らした土地無し労働者運動(MST)が、遂に土地侵入・占拠の実力行使に踏み切った。侵入された40以上の土地には、ルーラ政権下で海外からの最大の民間投資を行ったスウェーデン製紙会社の土地も含まれる。25haの苗木畑が菜園に変えられたという(Landless workers invade property to press president,FInancial Times,4.7,p.3)。政府は海外アグリビジネスの投資意欲を著しく削ぐと大慌てだが、打つ手はない。

 先の8日付のフィナンシャル・タイムズのリポートは、「政府の様々な経済成長戦略の間に整合性がない。所得増加に突進するあまり、高い社会・経済的コストを払うことになっている」という環境保護団体・WWF・ブラジル総書記の言葉を紹介している。また、一部環境保護論者は、政府は持続不能な農業方法を支持することで、自らの保全の努力を台無しにしていると語っているという。

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