WHO:デンマークの家畜成長促進抗生物質禁止実験を高く評価
―禁止加速の可能性―

農業情報研究所WAPIC)

03.8.18

 8月13日、世界保健機関(WHO)が家畜の成長促進剤としての抗生物質使用の禁止に向けての動きを加速することになるであろう新たな報告(*)を発表した。この報告はデンマークにおける鶏と豚の成長促進のための抗生物質使用の自主的禁止の結果を分析したもので、農民のコストをほとんど増加させることなく、また食肉中のバクテリア総量を増加させることなく、家畜生体内のバクテリアの抗生物質抵抗性を90%以上減少させるという劇的効果があると結論している。

 本来は病気治療のために使われる抗生物質は、小量を飼料に添加することで集約的畜産における家畜成長促進剤としても使われてきた。1990年代末には、家畜消火管中のバクテリアのこれら抗生物質抵抗遺伝子が人間のバクテリアに拡散、抗生物質による病気治療を次第に困難にしていることが明白になった。そのために、専門家や消費者の懸念に応え、先月、マクドナルドが人間に使われる抗生物質を成長促進剤として使っている業者からの食材調達を控えると発表するなど、関連業界にその使用を抑制する動きが広がっている。EUは2006年からの全面禁止を決めたばかりである。しかし、畜産業界では、それは畜産農民のコストを増大させる、家畜の病気の増大により抗生物質使用が却って増えるといった反対が根強い。WHOの今回の報告は禁止を求めてはいなが、2000年に初めて出された禁止勧告を一層強力に支持することになる。

 この報告は、英国・米国・中国その他の10人の独立専門家が、世界最大の豚肉輸出国・デンマークの農民が1999年まで自主的にこのような慣行を禁止した「実験」の結果を評価したものである。抗生物質使用量は全体で54%減少、病気発生の増加は見られず、病気治療に使われる抗生物質の量に変化はないという。生産コストは鶏肉では変化がなく、豚肉でも1%増加しただけで、このコスト増加は食肉に対する消費者の信頼の高まりと公衆衛生保健費用の削減で埋め合わされると考えられている。

 その一方、禁止以前には家畜から採取された腸球菌の60%から80%が抗生物質成長促進剤に抵抗性を持っていたのに、現在では5%から35%が抵抗性をもつにすぎなくなっているという。人間の病気の抗生物質抵抗性への大きな影響は観察できないが、デンマークでは人間の抗生物質使用が厳格に規制され、監視されてきたために、この抵抗性は既に非常に低下している。他の国では禁止の効果は大きく、デンマークの経験は他の先進国はもとより、集約的畜産が急速に発展している中国のような途上国でも有効と見られている。

 *Impacts of antimicrobial growth promoter termination in Denmark

 関連情報
 WHO Urges End to Use of Antibiotics for Animal Growth,The Washington Post,03.8.13
 Antibiotic ban cuts drug resistant bugs,New Scientist News,03.8.13
 Antibiotic ban in fast food unlikely,The Sydney Morning Herald,03.7.28
 農業情報研究所(WAPIC)既報情報
 EU:飼料添加物規則成立、成長促進抗生剤全廃へ,03.7.24
 
マクドナルド、成長促進抗生剤使用禁止へ,03.6.19
 
イギリス:養鶏農民、国民の不安にもかかわらず成長促進抗生剤を再導入(03.5)
 
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