日本:厚生労働省、加工食品中のアクリルアミドで対応決定

農業情報研究所(WAPIC)

02.11.2

 10月31日に開かれた薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会毒性部会で、厚生労働省は、発癌性が疑われる加工食品中のアクリルアミドに関連して、国立医薬品食品衛生研究所(国立衛研)での調査結果等について報告した。11月1日に厚生労働省のホームページに掲載された「加工食品中アクリルアミドに関するQ&A」によれば、国立衛研と海外5カ国(ノルウェー、スウェーデン、スイス、英国、米国)が測定したアクリルアミド濃度の最小値、最大値は次の通りである(単位はμg/kg)

  国立衛研 海外5カ国
ポテトチップス 467〜3,544 170〜2,287
フレンチフライ 512〜 784 <50〜3,500
ビスケット、クラッカー 53〜 302 <30〜3,200
朝食用シリアル 113〜 122 <30〜1,346
とうもろこしチップス類 117〜 535 34〜 416
食パン、ロールパン <9〜 <30 <30〜 162
チョコレートパウダー 104〜 141 <50〜 100
コーヒーパウダー 151〜 231 170〜 230
ビール <9 <30

  ただし、国立衛研の検査結果については、各個別商品毎について1検体ずつしか検査していないため、各々の商品の平均的な傾向を評価することは困難という。しかし、ポテトチップス、フレンチフライに含まれるアクリルアミド濃度が最も高く、次いでビスケット、クラッカー、シリアルにおける濃度が高いという傾向はほぼ確かなように見える。とはいえ、アクリルアミドによる人の発癌については、今までのところよく分かっていない。厚生労働省は、審議会の意見を踏まえ、次のように対応することを決めたという(報道発表資料:加工食品中のアクリルアミドについて)。

1 .消費者に対して、
(1)アクリルアミドについての情報を提供するとともに、十分な果実、野菜を含む様々な食品をバランスよく取り、揚げ物や脂肪食の過度な摂取を控え、
(2)炭水化物の多い食品を焼いたり、揚げたりする場合にはあまり長時間、高温で調理しないよう、
厚生労働省ホームページ等を用いて、Q&Aなどわかりやすい内容で情報提供する。
厚生労働科学研究班にて、
(1)加工食品中のアクリルアミドに関する健康影響等の検討に必要なデータを引き続き収集し、そのデータを基に毒性部会にて検討する。
(2)また、アクリルアミドの生成抑制及び毒性抑制についての研究を早急に実施する。
産業界に対して、アクリルアミド生成を抑制する製造条件等の研究を早急に実施するよう要請する。

 このような対応は、WHOやイギリス等、他の国の対応とほぼ同様なものである。ただ、検査結果と対応方法の発表があまりに遅いのが気になるところである。これら食品中に大量のアクリルアミドが含まれることを初めて発見したというスウェーデンの発表が今年4月24日であった(高澱粉フライ食品に発癌のリスク発見ースウェーデン研究者,02.4.25)。イギリス食品基準庁(FSA)は、即時、消費者は今までと同じように食べてもよいが、サンプルとなった製品の検査を始めると発表した(FSA statement on Acrylamide ,02.4.24)。何らかの問題が現れれば、即座に消費者に伝えるという姿勢の現れである。わが国行政は本当に消費者重視に転じたのかと疑わせる。

 FSAは、さらに、早くも5月17日には、スウェーデン研究者の研究結果を再確認したと発表、この研究に基づいて食事を変更するようには勧告しないが、バランスの取れた食事を取り、発癌を抑制すると考えられる野菜や果物を食べるようにと勧告している(イギリス:研究、食品中のアクリルアミドを確認(食品基準庁))。スウェーデンの研究発表後、厚生労働省も直ちに研究を始めたというが、このようなギャップがなぜ生ずるのであろうか。わが国におけるこのような問題の調査・研究体制が圧倒的に貧弱なのではないか。これも「消費者重視」を疑わせる。

 このような加工食品におけるアクリルアミド形成のメカニズムについても、10月始めには米国の研究チームが初の知見を発表している(フライ食品中の発癌性物質形成過程で最初の知見,02.10.4)。消費者への適確な対応方法の勧告のためには、何よりも、このようなアクリルアミドの健康影響を明らかにする必要がある。外国の知見を待つのではなく、一刻も早い解明を目指して欲しい。

 最後に一つ、「あまり長時間、高温で調理しないよう」というのは、もっと具体的な説明がないと却って危険なのではないか。FSAのQ & Aは、「食品中のアクリルアミドの摂取を少なくするために、調理時間を短くするべきですか」という問いに、「いいえ、すべての食品、特に肉は食中毒細菌を死滅させるため適切に調理すべきです」と答えている。