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ケニヤ市民・農民団体のハービンソン案に対するコメント

農業情報研究所(WAPIC)

03.3.29

 3月21日、五つのケニヤ市民・農民グループ()が、WTO農業交渉の大枠(モダリティー)に関するハービンソン議長の改訂第一次案へのコメントを発表した(Comments from Kenyan civil society on Harbinson's revised first draft modalities paper)。これは、ケニヤのみならず、多くの途上国に共通する見解を表明するものと考え、以下に翻訳・紹介する。

 ナイロビ、2003年3月21日

 大部分のアフリカ諸国と同様に、ケニヤでは農業が非常に重要な役割を演じており、経済の大黒柱となっている。ケニヤの人口の77%が生計を農業に依存している。国の基礎食糧の大部分は小規模農民により生産される。農産物市場の自由化により、安価な補助された輸入品が大波のように押し寄せることになった。それは国内生産、食糧安全保障、ケニヤ小農民の生計を破壊している。

 3月18日に発表されたハービンソンのモダリティー第一次案改訂版は、2月の案を僅かに修正するものでしかない。改訂版は、なお途上国により表明された重大な関心に取り組んでいない。それは、WTO農業協定の構造的インバランスと欠陥に挑戦しておらず、農産物市場の歪曲に取り組んでいない。途上国は市場アクセス・国内助成・輸出補助金の三つの柱が関連づけられるようにも要求してきた。モダリティー案は、世界中の小規模農民を犠牲に、多国籍アグリビジネスを利するであろう。

 しかし、我々は。それがなおテクニカル・ワークに服することに留意するが、途上国のための新たな特別セーフガードの概要を歓迎する。

1.ダンピングは止められていない

 この改訂版は、アフリカ諸国に最大の損害を与えるダンピングを止める措置を何も含んでいない。先進国の輸出補助金と貿易歪曲的補助金は「グリーン・ボックス」に移されるだけである。改訂案は輸出補助金の半分は5年間で、他の半分は9年間で段階的に廃止されると述べている。これは、輸出補助金がさらに10年間継続することを意味する。我々は先進国の輸出補助金の即時廃止を要求するケニヤの立場を支持する。「グリーン・ボックス」に上限を設けるべきである。「ブルー・ボックス」・「イエロー・ボックス」の削減約束は十分でない。国内助成の大幅削減が必要である。先進国の国内助成のレベルは、農業協定実施期間の間に、現に増加している。

 先進国の貿易歪曲的的輸出信用は輸出補助金として扱うべきである。輸出信用の問題が進行中のテクニカル・ワークに服することにが注目される。

2.国内食糧安全保障と小規模農民の生計を護る措置が不十分である

 我々は、途上国が食糧安全保障・農村開発・生計安全保障への関心を含む開発ニーズを考慮することを可能にするためのあり得る新たな特別セーフガードのメカニズムが示唆されたことに少しばかりの改善を認める。このメカニズムの適用の対象品目が戦略/特別品目に限られないとされた。これは途上国が要求してきたことであり、今までは、このメカニズムの対象となり得る作物の数は限定されていた。しかしながら、我々は、このメカニズムが、なおテクニカル・ワークに服することに注意する。

 農業協定における現在の特別セーフガードの条項は、主として先進国が利用できるように構想されている。改訂版によれば、これはさらに5年ないしは7年継続することになる。我々の意見では、第5条の特別セーフガード条項は、さらなる関税削減の実施期間の最初に、先進国のための適用を停止すべきである。

 我々は、「戦略品目」(いまや「特別品目」と呼ばれる)の概念が、さらなるテクニカル・ワークを通じて、なお開発されるだろうことに注意する。我々は、特別品目は関税削減を免除されるべきであり、品目の認定は商品分類4桁[細分類]のレベルでなされるべきであるというケニヤの立場を支持する。途上国は、限定的基準設定なしで、自ら戦略/特別品目を申告することを許されねばならない。

 我々は、ケニヤが、農村開発・食糧安全保障・小規模な農民と牧畜民の保護・貧困軽減・健康と栄養・雇用の問題に途上国が取り組むための特別かつ異なる待遇としての開発ボックスの必要性に関する当初の提案に確固とどまるように要請する。ダンピングは継続を許されるのだから、輸出補助金及び/または国内助成を維持する先進国からの輸入産品に対する数量制限も含む直接的輸入抑制措置の適用を途上国が許されるべき緊急の必要性がある。セーフガード措置は一時的措置であり、継続的ダンピングの構造問題に取り組むものではない。ケニヤとその他のアフリカ諸国にとって、安価な補助された輸入品の大波から小規模農民を護り、国内生産を保護することは不可欠である。

3.関税削減

 アフリカ諸国にとって、[加工度上昇とともに関税率は上がる]タリフ・エスカレーションタリフ・ピーク(高率関税)に取り組むことは、生産の多角化と一次農産品の加工に深刻な障害があるのだから、極度に緊急性がある。改訂案は、加工品の関税削減は一次産品よりも大幅でなければならない(少なくとも一次産品の1.3倍)と特記しているが、これでは不十分である(2)。

 我々は、途上国で生産され・途上国により輸出される付加価値製品を含むすべての農産物に対する関税の大幅削減を唱導するケニヤの立場を支持する。

 大部分のアフリカ諸国にとって、関税は農業部門で利用できる唯一の保護形態であり、政府の重要な歳入源でもある。関税削減へのアプローチはこれを考慮に入れねばならない。

4.途上国のための特別かつ異なる待遇(S&D)

 S&Dは、主として途上国に対するより長期の実施期間とより低い削減率の形で、三つの柱のすべてにバラ撒かれている。農業農村開発・食糧安全保障・生存に最低限必要なものを生産する農民の生計の維持を含め、途上国が様々なニーズに取り組むことを可能にするいつでも使える実際的なS&D条項を見つけ出す緊急の必要性がある。

5.後発途上国

 我々は、先進国は後発途上国(LDCs)からのすべての輸入品に無税・無割当の市場アクセスを提供すべきであるという、既に第一次案にあった提案を歓迎する。しかしながら、この改訂案では、言い方を弱める’shall’から’should’への言葉の変更のオプションがある。我々は、この案では、LDCsは、その貿易相手からの要求に応えて市場アクセスに関する約束をするように促されることにも注意する。我々は、貧困国が先進貿易相手国からの圧力に抗するのがいかに難しいかを知る先進国により、これが利用される可能性があることを恐れる。

6.貿易特恵

 改訂版は、途上国の先進加盟国との特恵取極めの許容幅に多少増やしている。我々は、改訂版が特恵提供国に「目標を絞った技術援助プログラム、及び、適切な場合、特恵を受ける国の経済と輸出を多角化するための努力を支援するその他の措置を約束する」ように要求していることを歓迎する。

 農産物市場における貿易歪曲がが排除され、すべての実施問題が取り組まれるまでは、途上国がいかなる一層の自由化の約束も行なうべきではない、これが我々の結語である。

 (1)RODI Kenya(Trade Policy Programme),Oxfam GB,Cosumer Information Network,EcoNews Africa,Kenya National Farmers Union.

 (2)タリフ・エスカレーションについては、EUは「途上国にとって特別の利害がある産品に関するタリフ・エスカレーションの実質的削減」を提案しているが、米国、日本は特段の提案はしていない。モダリティー案について、日本はEUに同調を決めたと言われるが、「先進国・先進途上国が後発途上国からのすべての輸入品を無税・無割当とする」、「先進国は途上国からの全輸入の50%以上を無税とする」という途上国の先進国市場へのアクセスに関する他のEU提案とともに、タリフ・エスカレーションに関するEU提案についても、実施可能性の観点から支持は困難と考えているようである。

 関連情報
 WTO農業交渉における途上国の要求と先進国・ハービンソン案の比較,03.3.25