農業情報研究所

HOME グローバリゼーション 食品安全 遺伝子組み換え 狂牛病 農業・農村・食料 環境 ニュースと論調

WTO農業交渉モダリティー「改訂版」配布

農業情報研究所(WAPIC)

03.3.20

 WTO農業交渉のモダリティーの今月中の決定を目指し、25日から31日まで、農業委員会の特別会期が催される。それを前に、18日、2月17日に提出され、2月24日-28日の会期で対立のみが残された議長の第一次モダリティー案の改訂版(First daraft of modalities for the further commitments-Revision)が各国政府に配布された。第一次案の提出以後、対立解消に向けての前進はほとんどなかった。従って、議長は、「議長が第一次案を大きく修正することを可能にするに十分な指針はなかった」と認め、従って、このペーパーは「第一次モダリティー案の一定の要素の最初の、限定された改訂版と考えられねばならない」としている。

 このような改訂案であるから当然のことであるが、それ自体には、交渉の行き詰まりを打開に向けて動かす要素は何一つ含まれていない。第一次案(以下「原案」と呼ぶ)からの主要な修正点は次のとおりである。

 第一次案からの主要修正点

 市場アクセスについて

 ●先進国に関する関税削減率は原案と同じである。変更は、加工度の上昇とともに関税率が高まる「タリフエスカレーション」に関する提案をより詳細にしたことである。加工品の関税が非加工品よりも高い場合には加工品の関税を非加工品の関税よりも大幅に削減するという原案を、加工品の関税の削減は非加工品の関税の削減の少なくとも1.3倍でなければならない、と改めた。

 ●途上国の関税削減率について、次のように改めた。  

原案

改訂

食糧安全保障等の観点から指定される戦略品目以外
の品目について、単純平均により10年間で、
(従価で)120%以上の関税:平均40%、最低30%
(同)20-120%の関税:平均33%、最低23%
(同)20%以下の関税:平均27%、最低17%
左と同じ品目について、単純平均により10年間で、
(従価で)120%以上の関税:平均40%、最低30%
(同)60-120%の関税:平均35%、最低25%
(同)20-60%の関税:平均30%、最低20%
(同)20%以下の関税:平均25%、最低15%

 ●途上国にとって死活的に重要な輸出品目の特恵関税の一般関税との差に影響を与える(特恵効果を薄める)関税削減は8年間等分で実施するとされていた原案に、その最初の実施を実施期間の3年目まで繰り延べるという文言が付加された。

 ●割当枠内の輸入品に対する関税の削減は要求されないことの例外として、原案は熱帯産品と麻薬作物からの転作品目については枠内無税とするとしていたが、さらに、最近3年間の平均割当消化率が65%以下であったものも削減が要求されるとされた。

 国内助成について

 ●原案では、農業生産から撤退する生産者に対する援助(構造調整援助)だけでなく、土地を貸すのをやめる者に対する援助も削減対象援助から除外(グリーン・ボックス化)していたが、改訂版ではこれを削除した。

 要するに、途上国への配慮を若干強めてはいるが、基本的には原案と変わるところがない。モダリティー決定の期限を守ることは、議長自ら放棄したようにも思える。現時点での次のような諸国の反応を見れば、月末までの合意はとてもありそうもない。

 オーストラリアの反応

 改訂案の発表を受け、オーストラリアのマーク・ヴェイル対外貿易相は、この案は大幅な市場アクセス改善をもたらすものではなく、受け入れられないと発表した(Still No Ambition in Agriculture,3.19)。彼は、改革に抵抗している諸国に足を引っ張られ、議長は前進できなかったとし、いまや、足を引っ張っているEU・日本・韓国・スイス・その同盟国は、ドーハ・ラウンドとそれによる世界の繁栄の促進を危機に陥れようとしているのかどうか問うべきときだと言う。

 EUの反応

 他方、EUのフランツ・フィシュラー農業担当委員とパスカル・ラミー貿易担当委員は、「議長案は相変わらず最弱の途上国に敵対し、最強の輸出国に味方している。・・・我々は、国連とWTOが原則的に合意し、EUが既に実施している後発途上国の特別扱いが、なお拘束的約束ではなく、選択に委ねられていることにも驚く」と言う。また、「議長案は、域内の改革路線を追及しているEUのような先進国に敵対し、貿易歪曲的補助金を増加させた先進国に味方している」とも言う。彼らは、特に、輸出競争について提案された措置が輸出信用と食糧援助による多くの逃げ道を開いている一方で、非貿易関心事項も「平和条項」も含まない包括性のない案と批判している(WTO agriculture talks: Harbinson 2 does not bring WTO members closer,3.19)。

 フランスの反応

 フランス農業相・対外貿易担当相も、19日、改訂案は交渉のための基礎として受け入れられないとする共同声明を出した(Nouvelle proposition agricole de l'OMC : toujours pas acceptable !,3.19)。声明は、この案が食糧安全保障を確保する農業政策を遂行する先進国・途上国の権利を俎上に載せており、貧困国の要求に具体的・実際的に何も応えていないと非難する。声明は、とりわけ途上国の扱いを問題にし、ドーハ・ラウンドは開発のための交渉であり、WTO加盟国はWTOが貧困削減に貢献し、貿易大国の利害の「手形交換所」で満足していてはならないと望んでいると言う。そして、フランスは、フランス-アフリカ・サミットにおいてシラク大統領が緊急の必要性を訴えたように、アフリカを特別に優遇するための提案を行なったと強調している(参照:フランス:シラク大統領、アフリカ向け輸出補助の一時停止を提案,03.2.24)。