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タイ:EU砂糖補助金でWTO紛争処理パネル要求へ

農業情報研究所WAPIC)

03.7.9

 タイの”バンコク・ポスト”紙の報道(Thailand takes aim at EU sugar subsidies,Bangkok Post,03.7.8)によると、タイはEUの砂糖補助金が農産物貿易に関するEUの約束を侵犯しているとして、WTO紛争処理パネルの設置を要求する。

 タイ、ブラジル、オーストラリアは、今週、7月21日の会合に際しWTO紛争処理機関が紛争を審理するための委員会を指名するようにとの要請を公式に発表する新たな別々の会議を開く。この動きは、世界の五つのトップ砂糖輸出国ーブラジル:年1,000万トン、タイ:年450万トン、オーストラリア:年400万トン、南アフリカ:年300万トン、グアテマラ:200万トンーからなる非公式砂糖カルテルにより合意された最初の行動であるという。

 三者は、EUに砂糖輸出補助金が約束を超え、ウルグアイ・ラウンドでなされた合意を侵犯しており、その結果、EUの政策が砂糖輸出国と農民に損害を与えていることを強調する。ただし、アフリカ・カリブ・太平洋(ACP)諸国に与えられた特恵取極めは問題にしないという。

 EUの砂糖市場組織は、いまなお残るEUの保護主義的システムの典型である。その改変の一つのチャンスであったウルグアイ・ラウンドでは、次のような約束がなされた。

 ・従来の輸入課徴金を拘束基準関税に転換、基準関税率を6年間で20%削減する。ただし、特別セーフガード条項により追加関税を課すことができる。

 ・ACP諸国とインドからの1,305万トン(白糖相当)、最恵国待遇の砂糖8万2,000トンの砂糖輸入の現在のアクセスを維持する。

 ・補助された砂糖輸出の量を6年間で21%削減する。ただし、ACPの特恵砂糖の再輸出はこの削減対象に含めない。

 ・輸出補助額は6年間で36%削減する。ただし、ACP特恵砂糖に与えられる輸出補助は除外される。

 しかし、これによってもシステムの基本が変わることはなかった。アジェンダ2000でも改革対象とならず、先頃妥結したCAP改革でも砂糖部門には触れられなかった。それは30年もの間、基本的には何の変化もなかったシステムであり、EUの市場組織の中でも、保護主義的色彩が際立っている。

 輸入アクセスに関しては、原料糖には339%、白糖には419%の高率関税が課せられている(タイ側の数字)。割当枠内で低率関税輸入を許す制度はあるが、その量は年200万トン足らずでしかない。2001年の世界砂糖輸出の65%を占めた途上国からのEUの輸入割合は4%にすぎない。無税割当はACP諸国には1,295万トン、インドに1万トンが配分される一方、他の途上国には8万5,000トンの関税割当が配分されるにすぎない。

 割当制度はEU域内の供給者間の競争も阻害している。割当はEU各国の自給をベースとするレベルで配分され、砂糖域内貿易もほとんどない。さらに、限界砂糖生産地域の生産奨励特別補助金を与えている。域内の砂糖の70%を消費するEUの工業砂糖ユーザーは、域内甜菜から製造され、年に60億ユーロを要する価格支持で世界価格の3倍に維持された価格の砂糖の購入を強制されている。

 このように非効率なEU砂糖産業であるが、EU全体としての砂糖輸出量は、2001年670万トン、2002年430万トンと、単独国では世界第二位のタイに匹敵するか、これを凌ぐ。他の効率的生産者さえコストをカバーできないほどの低価格での輸出を輸出補助金が可能にしているからである。タイならずとも、EUの砂糖制度が途上国への砂糖輸出によって砂糖生産国の収益に損害を与え、途上国の砂糖自給を破壊しているという主張に同意するであろう。EU砂糖制度は、米国のワタ補助金と並び、紛争処理のみならず、目下のWTO農業交渉でも途上国の主要攻撃対象の一つとなっている。 

 EUは、CAP改革から取り残された砂糖部門の改革を来年には論議することになろう。しかし、EU各国の抵抗は依然として強い。2011年までは制度を変えないだろうという観測が既に流れている。

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