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EU、ブラジル等3ヵ国の砂糖補助金WTO提訴に反論

農業情報研究所WAPIC)

03.7.11

 ブラジル、オーストラリア、タイがEUの砂糖補助金がWTO約束違反だとして7月21日にWTO紛争処理パネルの設置を要求する。これら諸国は、ウルグアイ・ラウンドで輸出補助金を削減すると約束しながら、EUの現在の補助輸出はウルグアイ・ラウンド前よりも増えており、先頃の共通農業政策(CAP)改革でも砂糖制度の改革は見送った。そのうえ、EU砂糖関係者は、現在の制度を2011年まで拡張することを要求しているとEUを批判する。ただし、EUがおよそ1,300万トンを特恵的条件で輸入するアフリカ・カリブ・太平洋(ACP)諸国を攻撃するものではないとしている(⇒農業情報研究所:タイ:EU砂糖補助金でWTO紛争処理パネル要求へ,03.7.9;オーストラリア外務貿易省:Australia to Formally Challenge EU Sugar Subsidies)。

 これに対し、欧州委員会は10日、この提訴は砂糖に依存するACP小国経済を傷つけるのみで、現在の世界市場価格の低迷の真の原因を隠す煙幕を張るものと強く反論した(WTO challenge against EU sugar will hurt developing countries, says European Commission)。

 欧州委員会によれば、砂糖価格低迷の最大の要因はブラジルの増産である。その輸出は1990年代初期の160万トンから現在の1,200万トンへと劇的に増加した。これは、40億米ドルを投じたアルコール促進プログラムを通してのアルコール産業育成の間に政府が与えた大量の投資援助なくしては不可能だったはずだという。

 オーストラリアについても、自由で貿易非歪曲的とするその主張に反し、国内価格が世界価格よりも少なくとも2倍は高いのに他の国からの輸入を閉じるとともに、その生産と輸出は1990年代初期以来増加していると指摘する。国内・輸入・輸出割当に基づく砂糖市場をもつタイへの砂糖輸入は基本的にはゼロであり、その一方世界最大の砂糖輸出国の一つになっている。

 他方、EUは2001年に1,900万トンを輸入したWTO加盟国最大の輸入地域であり、うち1,700万トンは無税または低率関税で途上国から輸入したものである。この輸入が自身の砂糖の一部とACPの砂糖を再輸出しなければならない理由だと言う。ACPからの輸入砂糖の大部分はEUで精製され、白糖として再輸出される原料糖であり、特恵を保証するメカニズムはウルグアイ・ラウンドで合意されたものである。

 砂糖制度改革については触れることなく、EUは「武器以外のすべて(EBA)」政策により49の後発途上国からの砂糖の無税・無割当アクセスを段階的に導入しており、他の先進国がこの後を追わないのは不幸なことだと逆襲している。

 この問題は、恐らくは貿易紛争を通じて解決すべき問題ではないであろう。結局は、輸出主導のモノカルチャー農業開発がもたらした悲劇である。EUも含めた世界各国がこのような構造に手をつけることなくしては問題の解決はないであろう。それに手をつけたのは、筆者の知る限りではキューバだけである。

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